間話:魔法使い達の善戦
目覚ましい、とまでは行かないが、リジーとレイチェルは明らかに好成績を修めていた。
大量に迫るリザードマンの群。今までの2人ならば、最後尾で薬を用意したり食事を用意したり⋯⋯最悪震えているしか出来なかった筈だ。だが、今回の彼女達は果敢にも風を起こして砂煙をリザードマン達に浴びせたり、足下の砂を動かしてリザードマンの動きを止めたりと、今までに比べてあまりにも多彩な魔法を使用していた。
「⋯⋯すごいじゃないか、2人とも!」
「ほんとだよぉ!どしたのぉ?」
戦闘も落ち着いた夕刻、女性の為に用意された天幕にて、2人の活躍に同性であるメルカトとメープルが目を輝かせて飛び付いた。
「もしかして、ベリベリから魔法の極意を聞けたの⋯⋯⁉︎」
「極意と云うか⋯⋯コツみたいなものなら」
「うん。なんて云うか、何でこんな事に誰も気付かなかったんだろ?って」
2人も驚いていた。買った宝石⋯⋯リジーは瑪瑙、レイチェルはアメジストなのだが、それを握り締めて魔法を使うと、今までの魔法は何だったのか悩んでしまうものになったのだ。まず特筆すべきなのが魔法の発動速度、そして展開位置である。速度は言わずもがな、思った所に飛ぶ魔法、これはもう、東側の魔法使い達にとっての技術革新なのだった。
「宝石?そこに魔力を通してから魔法を使うだけなのか?」
「そうです。宝石だけじゃなくて、鉱物や金属で良いそうですよ」
「ただ、宝石の方が効果は有るって」
「⋯⋯⋯⋯そうか⋯⋯」
メルカトは自分が愛用している大盾を見遣った。大盾の持ち手は丈夫な木材や皮であるが、表面の攻撃を受ける方はガチガチの金属である。それにメルカトはドワーフの混血であるので、少なくとも魔力は持っている筈なのだ。
「⋯⋯⋯⋯もしかしたら、私も何か出来るだろうか?」
「そうだよ、盾に魔力流して相手を弾き飛ばすとか!」
「いや、魔力を使うとか⋯⋯私には分からないがな」
何せメルカトは今まで一度も魔法を使った事が無いのだ。新人冒険者研修でも、最初から盾役を選んでいたくらいなのだ。
「大丈夫だよぉメルるん!あたしも何か分かんないけど使えてたみたいだし!」
「メープルはハーフエルフだからだろう?」
メープルに至っては天然で魔弓を使い熟していた。確かに彼女は新人研修で魔法を使っていたが、それでも弓に魔力を篭めたのは元々センスが良かったのだ。此処にジョシュさえ居れば「ババアだから、年の功だろ」と、茶々を入れていただろうが。
しかし今回の戦闘を終え、魔法の重要性が浮き彫りになった。圧倒的に効率が良くなったからである。
パーティーリーダーであるクアッドとコナーは喜んで競い合いながら、お互いの魔法使いメンバーを褒め称えたし、愛想の無い戦闘狂朴念仁のカピンですら「素晴らしい」と呟いた程だった。
ただ問題があるとすれば、ダイスである。ダイスは魔法を操れる様になったリジーとレイチェルを、意地でも認めたく無い様なのだ。
「⋯⋯ダイス、ずっと魔法の事嫌ってましたから」
「うーん⋯⋯と、云うか。ダイスはリジーが弱いと思い込みたいだけだと思うけど」
「えっ⋯⋯?何故でしょう?」
リジーは本気で分からないと首を傾げると、3人は呆れた様に「こりゃダメだわ、脈無い」と、男性陣に宛てがわれた天幕へ向けて黙祷した。




