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152.他人に成り済ます方法(※注意)

最後の方、描写はそこまで詳しくしてないつもりだけど、グロいです。


「⋯⋯⋯⋯ジズ様、一体どうしたと云うのですか⋯⋯」


 イザベラは1人、上級区画と中級区画を繋ぐ門の近くで途方に暮れていた。

 彼女はセレスタイン公爵家の使用人達に追われつつも、タンランとジズの助けを借りて何とか此処まで逃れて来たのだ。タンランの式神とは、若い男女の強襲を受けて離れ離れになってしまったが、先程まではずっとジズの蜘蛛達に守られていた。ただ明け方になった途端、蜘蛛達は溶ける様に消え去ってしまい、イザベラ1人が残されてしまったのである。

 イザベラは建物の陰から通用門を覗き見た。

 通用門では複数の門番達が、表情を引き締めて厳しく警備に当たっている。まずイザベラの捜索と云う目的の為だろうが、秋口に起こった()()の騒ぎで、門番達は未だに緊張状態にあるらしい。

 ただ、イザベラの目的地は上級区画である以上、何としても此処を通らねばならない。しかしタンランもジズも居ない以上、イザベラ1人であの門を通るのは困難であった。


(⋯⋯しかし、折角此処まで来たのですから⋯⋯何としても確かめなくては⋯⋯)


 タンランから簡単な剪紙成兵術(せんしせいへいじゅつ)は教わっていたが、そこまで練達した訳では無い。上手く行くかは、賭けであった。

 イザベラは持っていた形代を数枚取り出し、念を込めた。そうして念を込めた形代はゆらりと舞い上がり、イザベラの周囲を漂い出した。


(⋯⋯後は成功して居る事を祈るだけ)


 ゆっくりと建物の陰から出たイザベラは、何事も無い様に門へと近付いた。門番の前へと歩いたイザベラは、少し手前で止まり、門番の顔をじいっと見詰めた。しかし肝心の門番は変わらず正面を見据え、顔を見詰めるイザベラの事を気にした様子は無い。


(⋯⋯良かった、どうやら上手く姿を隠せた様ですね)


 何の反応もしない門番を見たイザベラは、術が成功している事を確信する事が出来た。それでも、ただ姿を見えなくしただけに過ぎないので、触れたり音を立てたりしたら気付かれる。接近し過ぎて体臭を嗅ぎ付かれる事も避けなければならない。

 彼女は風も起こさぬ様、ゆっくりと門番の横を擦り抜けて門を潜った。そして術を解く事無く、建物の陰へと移動したイザベラは周囲を見回し、そこで術を解いて改めてフードを深く被り直した。

 上級区画は王城が開放された事で、混乱が少しずつ治まり始めて来ていた。暫く前までは貴族の私兵が歩き回っていたが、以前の様な静けさを取り戻しつつある。それは、イザベラにとって好都合な事である。


(⋯⋯それでも、注意して進みましょう⋯⋯)


 イザベラが向かうのは、上級区画の東側。セレスタイン公爵邸である。

 なるべく人通りが少ない通りを選び、彼女は人目を避けて上級区画を進んだ。先程の術を使えるならば問題無いのだろうが、イザベラの練度では術がしっかり掛かっているのかも分からない。出来るならば、術に頼るのは宜しくない。

 セレスタイン家の擁する暗部の者は自身の姿を偽る魔法を極めていると聞くが、生憎イザベラにはそんな事は出来ない。お陰で直線ならばそこまでの距離が無い筈なのに、随分と大回りをする事になってしまった。誰か通行人が現れる度に道を逸れたり隠れたり、身体的にも精神的にもすっかり疲弊している。

 それでも、やっとの思いでセレスタイン公爵邸の柵へと辿り着いたイザベラは、人が多く出入りする表門では無く、裏門へと更に回り込まなくてはならない。


(⋯⋯⋯⋯一応、効果が有るかは分かりませんが、術を掛けておきましょう)


 先程の術を改めて掛けたイザベラは、裏口に向かうまでの間、人とすれ違わない様に祈るしか無かった。誰か他人の気配がする度に立ち止まり、一々フードを押さえて周囲を見渡すと云う何ともストレスの溜まる牛歩の歩み。裏門を潜った瞬間、安堵の吐息を溢したのも無理は無い。

 セレスタイン公爵邸の敷地内に入り、茂みに身を潜めてひと心地着いてから、今度はどうやって屋敷内に入り込むか頭を悩ませる事になった。


(⋯⋯屋敷の構造は、子供の頃に来た時と変化は無い筈です⋯⋯)


 問題が有るとすれば、この屋敷内にはジズとタンランすら敵わぬ化け物が大勢居ると云う事だ。

 イザベラの道術は素人に毛が生えた程度でしか無いし、魔法に至っても水魔法使いとしては優秀であったが、決して戦上手では無い。

 それに、屋敷内には使用人達が立ち働いて居る筈。下級使用人にならば出会したとしても、イザベラの顔を知っているとは思えないので構わないが、上級使用人は危険である。

 仕方無く茂みの中をゆっくりと移動するしかないイザベラだったが、ふと、たった1人で寂しく裏庭の草毟りをしている青年の後ろ姿を見付けた。青年は髪の毛をかなり短く刈っていて、毬栗の様な頭をしていた。


(⋯⋯こんな、無意味な場所の草毟り?何かを仕出かした罰でしょうか⋯⋯)


 まあ自分には関係無いかと、素通りしようとしたイザベラだったが、青年を見ていて()()()()()()()()()()()と思い付いた。

 それは魔法では無く、道術のひとつだ。タンランから見せて貰った書物に記載されていたのだが、試す機会が無いなと諦めていたものだった。

 まず使用用途の機会が無かったし、周囲に目撃者が居たら取り押さえられてしまうだろう。何より、イザベラからしたら気持ち悪くて嫌悪感が勝るものだった。だが、此処はイザベラの感情なんて二の次だ。

 一応周囲に他人の気配が無い事を確かめたイザベラは、新たに形代を取り出し、自身の指先を噛み千切って血を流し、それに塗り付けた。


(上手く行きます様に⋯⋯⋯⋯)


 必要な念とは別に、個人的な願望も込めてからイザベラは形代を飛ばした。

 形代は青年の背中に貼り付いたと思ったら、ぐんっと手足を伸ばして青年に絡まり出した。そんな事態に、青年も流石に慌てて立ち上がり叫び声を上げた。


「わっ⁉︎わっ⁉︎わああっ⁉︎あ゛ぐゅ⁉︎」


 しかし、青年の叫び声は伸びた形代が口内に潜り込む事で封じられてしまう。青年は形代を何とかしようと持っていた草刈鎌を振り上げ様と試みるも、もう腕には形代がきつく巻き付いていて、動く事が出来なくなっていた。

 此処まで来れば、術は8割成功したと思って良いとイザベラは考えた。後は、イザベラが上手く仕上げられるかである。

 イザベラは茂みの中で印を組み、発音を間違え無い様に(しゅ)を唱えた。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ 剥离(剥がせ)


 その途端、青年の口からくぐもった呻き声が聞こえたと思ったら、バリバリと云う音と、ゴリゴリ、ボキボキと云う音が響き渡った。

 音が止むまで待ち、静かになったと思ってからイザベラは茂みから出て青年に⋯⋯()()()()()()()に近付いた。


(⋯⋯⋯⋯上手く行った様ですね)


 イザベラは足下に転がる赤黒い人間の形をした物を見下ろして、術の成功に1人ほくそ笑んだ。

 この術は対象の皮を奪うものである。口に入り込んだ形代が、そこから全身の皮を剥ぐのだ。剥いだ皮は何故か服と共に形代が呑み込むので、形代を纏うだけでその人間に成り代われる。

 イザベラは形代を拾い上げ、皮を纏う前にずるむけになった青年を茂みへと隠しておいた。万が一にも、皮に血液を付着させる訳には行かない。


(⋯⋯これで、中に入れる⋯⋯⋯⋯)


 形代を握り締めたイザベラは、狂気じみた笑みを浮かべ、今度こそ皮を纏った。

もう誰も名前を覚えてないでしょう。黒ペンキからの丸刈りドゥヴァン君です。

せめて1人で無ければ、助かっていました。

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