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間話:パン生地を皆で捏ねてみた

本編進めろよと、自分で思います。今良い所だし、間話もこの前やったばかりだし。

それでもこの話はタイミング的にも此処に入れたいんです。


あと間話ですけど、ささやかな伏線も入れたつもりです。回収は私の腕に掛かっています。


「いらっしゃいませぇ、アヴァール様、サミュエル様!」

「「⋯⋯⋯⋯おぅふ⋯⋯」」


 夕食の時間、食堂にてサミュエルとアヴァールを出迎えたのは、1度見たら決して忘れる事は無い圧巻な体型の令嬢であった。

 その令嬢は通常よりもがっしりとして横幅の大きい椅子に、()()()()と詰まりながら座っていた。いや、何故か縛り付けられていた。

 そして令嬢のすぐ後ろにはベリルが立ち、魔力を使って圧力を掛けている。


「お嬢様、仮にも公爵家嫡男のお二人の御名前を軽々しく呼ぶ事は罷りなりません。謝罪をし、言い直してください」

「お助けくださいませ!わたくし、この下民にずっと虐められているのです!」

「謝罪をしなさい。デザートを食べたければ、ヴェスディ公爵子息とセレスタイン公爵子息と言い直すのです。またキャロットラペのみの食卓で良いのですか?」

「いやぁ!人参はもういやぁ‼︎」


 デ⋯⋯⋯⋯丸々とした令嬢は、肉を震わせながら身を捩った。その姿はあまりにも醜悪で、サミュエルとアヴァールはお互いの顔を見合わせてこっそりと内緒話をした。


「⋯⋯⋯⋯アレが、魔法武器を注文した問題令嬢?」

「⋯⋯⋯⋯思っとった以上にあかんやん。確かゴリ陛下にホの字なんやろ?」

「⋯⋯⋯⋯初めて陛下に同情した」

「⋯⋯⋯⋯ほんまそれな」


 2人はこそこそと侯爵家の令嬢、アルエットを観察し、案内されて食事の席へと着いた。ベリルも席に着くのかと思ったのだが、何故かアルエットの後ろで立ったままである。


「⋯⋯ベリちゃん、座らないの?」

「申し訳有りませんが、一使用人が同じ席に着く事は致しません」

「はあ⁉︎散々わたくしと同じテーブルで肉を食べていたじゃない‼︎」

「それはお嬢様への教育の為です」

「嫌がらせだったわ!」


 きゃんきゃんと騒ぐアルエットを後目に、テーブルに着いていたピピンが頭を下げた。


「妹が⋯⋯申し訳有りません⋯⋯!」

「⋯⋯⋯⋯いや、いいよ⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯苦労しとるんやな⋯⋯」


 事の顛末を知っている2人は、額の広がった嫡男に同情した。こんな妹が居たら、きっと屋敷内でも気持ちが落ち着かない生活だろう。

 そしていざ、テーブルに料理が運ばれて来てからも、アルエットは騒ぎ立てた。


「ど、どうしてまたラペなの⁉︎他の人はマリネなのに⁉︎」

「簡単ではないですか。お嬢様が無礼を謝罪なさらないからです」

「な、何ですって⋯⋯⁉︎」


 どうやら、先程のサミュエルとアヴァールの名前を不用意に呼んだ事を謝罪するまでアルエットは人参しか食べられないらしい。恐らく前菜(オードブル)人参(ラペ)、スープは人参(ポタージュ)魚料理(ポワソン)肉料理(アントレ)もきっと⋯⋯口直しのソルベには凍らせた人参が出て来るのかもしれない。

 まさかそんなに厳しいの?と、サミュエルはベリルを見るが、ベリルは凄絶な表情で微笑むだけである。確かにベリルならやり兼ねないなぁと納得もした。


「⋯⋯いや、堅苦しい呼ばれ方は苦手だし、僕は名前で呼ばれても構わないよ。馴れ馴れしいのは嫌だけど」

「⋯⋯俺も、構へんで。距離が近いのは御免やけどな」

「まあ!ほら聞いた?下民!お優しいお二人は美しいわたくしをお許しくださるのよ!」


 名前呼びを許した途端、これである。サミュエルもアヴァールも、失敗したと痛感した。心なしかベリルの表情が怖い。「余計な事しやがって」と、心の声が聞こえて来る笑顔だ。


「⋯⋯⋯⋯俺ら、やらかした?」

「⋯⋯⋯⋯確実に。あの令嬢、思った以上にヤバいぞ」


 「親しくする気は無い」と言ったのにも関わらず、ぐいぐいと距離を詰めようとしてくるので、2人は前菜を食べる事も出来ずに胃が凭れて来た。ベリルが徹底的に抑え付けているのには、理由が有るのだと理解してしまった。

 2人に許されてしまったアルエットは、久し振りの野菜だけでは無いコース料理にうきうきしているのだが、その食べ方も汚らしい。物を口に入れながら大口で喋り、笑うので食べカスがあちらこちらに飛ぶのだ。それに、嫌いな物⋯⋯主に人参が入っていると皿の端に寄せるので、マナーが悪過ぎる。

 唯一姿勢がマシだなと思ったものの、それは縛られているからだとすぐに思い至った。よく見ると、背凭れやら二の腕やらに木の棒が差し込まれているのである。本来のアルエットはどれだけダメな令嬢なのか⋯⋯公爵家の2人は身震いした。

 魚料理(ポワソン)が終わり、口直しのソルベが出た時である。

 不意に鋭い視線を感じたサミュエルは、前を向いた。あまりにも汚らしい食事風景を見たくなくて、ずっと下を向いていたのである。視線の主人はベリルであった。

 ベリルは先程までの微笑みを止めて、むっつりとした表情だ。そんな表情でも美しいと思えるのが、彼の美貌の証明でもある。

 何だろうとサミュエルがベリルの顔を見詰めると、ベリルは口をぱくぱくと動かし、サミュエルに何かを伝えようとしている。最初は愛の告白かな?なんて馬鹿な事を夢想したサミュエルだったが、その口の動きを観察して思わず笑いそうになった。


「───そう云えば、アルエット嬢はミシェル陛下に憧れているのでしたっけ?」

「えっ!ええ⋯⋯!よくご存知ですのね⋯⋯!」


 ご存知の理由は、その所為で侯爵家が危機に陥っているからなのだが、このデ⋯⋯丸々した令嬢は理解していないのだろう。


「もしかして、陛下も美しいわたくしの事が気になっていらっしゃるのかしら!」


 なんとも脳内にピンクのゼリーが詰まっていそうな発言だが、そうやって自身の肯定を行う事は悪い事では無い。しかし程度にも依る。勿論、サミュエルはアルエットの言葉を肯定してあげるつもりも無い。


「⋯⋯え、どうでしょう?」


 なあ?と、サミュエルは隣のアヴァールを見た。

 サミュエルの視線と言葉に、アヴァールも察した様で「せやなぁ、陛下にも理想が有るからなぁ」と、(うそぶ)いた。


「へ、陛下の理想⋯⋯?」

「そうですよ。陛下は戦闘狂⋯⋯いえ、騎士ですからね。確か細身で小柄な女性がお好みです」

「あとマナーが悪いのはあかんなぁ。食事中にうるさすぎるとか、姿勢が悪いとか。好き嫌いもあかん。あと勉強出来ん阿呆もあかん。陛下も阿呆やけど、勉強だけは出来るお人やからな」


 一国の国王に酷い言い草だが、サミュエルもアヴァールも手を緩めるつもりは無い。


「差別的な発言もお嫌いだよね」

「せやな。公明正大なのが、陛下のええとこや。⋯⋯ま、区別はする方やから同族嫌悪かもしれんけど」


 アルエットは2人の会話を黙って聞いていたが、顔色がどんどん悪くなっていった。身に覚えが有るのだろう。結構具体的な女性像を話しているので、ポジティブな解釈が出来ないのだ。


「⋯⋯わ、わたくし、気分が悪いので失礼したいわ⋯⋯」


 アルエットは、肉に埋もれた首を後ろに回し、ベリルに弱々しく主張した。何時もより大人しいのは、先程の「差別的な発言は嫌い」と言われたからだ。


「畏まりました、お嬢様」


 ベリルは何時も以上に爽やかに微笑み、令嬢を椅子ごと抱え上げて連れて行ってしまった。幾ら身体強化が強力だとしても、細身の身体であの巨体を持ち上げるとは驚きである。


「⋯⋯あのアルエットが、まさか大人しくなるなんて⋯⋯!」


 常に苦労を掛けられて来たピピンは、感動して涙を流す程であった。


「ベリちゃんのお陰だねぇ」


 あの時、ベリルは口の動きで「陛下の話題」「理想の女性」とサミュエルに伝えたのだ。なので、サミュエルはアルエットとは正反対のイメージの女性をミシェルの理想として伝えまくった。ちなみに、サミュエルはミシェルの理想なんて知らない。本当に適当に言っただけである。


「アヴァールは知ってる?陛下の理想の女性」

「なんや、お前知らんのか?」

「何を?」


 比較的アヴァールはミシェルと年齢が近いので、話す事もあるのだなと思ったのだが、詳しく聞くとそうでは無かった。


「王家の男は小柄で胸のでかいのが好きなんや。顔の好みはそれぞれやろうけど、歴代で寵愛を受けるのはそんなんばっかやで」

「⋯⋯⋯⋯」


 なんとも残念な話を聞き、サミュエルは何も言えなくなった。王族の威厳も有ったものでは無いと。

 同じく初耳だったのだろうピピンは、顔を真っ赤にして俯くばかりであった。

もう少しアルエットに対して当たりを強くしても良かったとは思うのですけど、腐っても貴族令嬢ですから。おバカなだけで、悪人と云う訳でもありませんし。流石に過度な暴力とかはしませんでした。無駄に貶める様な事も避けました。なのでスカッとする様な事は無かったと思います。


やり込める描写も考えものですね。何が面白いかは人それぞれだし、不快に感じる事もあります。やり込めるだけやり込めて、そのまま投げ出して「ざまあ」も面白いですが、反省させるのも大切な事です。最近の昔話の改編も、そう云う意図があるのでしょう。

彼女も今回の事で、少しは改めるとは思います。






でも昔話は原典派です。だから(?)時々グロい描写が入ります。⋯⋯⋯⋯あれでもマイルドにぼかしてるんです、全年齢だから。

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