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間話:蛇女になった私

書く予定も無かった話。

でもあった方が良いかと思いまして。


「⋯⋯この雀斑(そばかす)さえ無ければ⋯⋯」


 洗っても取れない汚れ。

 魔力の欠片も無いのだから、せめて美人なら良かったのに。他の兄弟達は母親が平民だから醜女なんだって言うけど、そんな事無い。お母さんは少なくとも色白の美人だった。

 不細工だったのは父親の方。兄弟達と同じ血の方。ぶくぶく太って、変な臭いがする貴族。女好きで、煙草ばかりふかしてた。私の顔を見る度に、「役立たず」「魔無し」「醜女」って。死んだ時は清清したわ。

 でも、流石に家を追い出されてしまった。血が繋がってるだけの庶子の妹じゃ、まだ少女だとしても置いているのが嫌だったのね。体裁だけだったけど、置いてくれた父親はまだ良かったのだ。


 私は王都へ働きに出る事にした。お母さんは正妻に苛め抜かれて死んでしまっていたし、私は身軽だった。領地で働こうと思っても、私の顔は知られていたし、兄弟達が手を回していて働く事どころか、親切にされる事も無い。

 別に領地じゃ無ければ、何処でも良かったとは思う。ただ王都なら、きっと仕事に(あぶ)れる事は無い。そんな気持ちでの王都行き。


 王都ならって思ったのだけど、私は学も無い小娘だったから。腐っても令嬢だった私は働いた経験も無い、紹介状も無い。文字の読み書き程度、その程度じゃ王都では雇ってくれない。ちょっと高望みした職場を探していたからだわ。それとも、魔力が有ればまた違ったのかしら?

 そうやって王都で職探しをしていたら、蓄えが無くなってしまった。王都の物価って高いわ。他の場所に移ろうかと思っても、交通費が心許無い。

 私は仕方無しに、中層区画の中でもマシな酒場の給仕になった。本当はそんなのやりたくない。酔っ払いって人の容姿に遠慮無く口出しするし、容姿を貶しておきながら身体をべたべた触るし。

 先に働いている娘達には、酔っ払い相手にはただにこにこして軽くあしらっておけば良い。なんて言われたけど、にやにやしながら雀斑を揶揄われて、にこにこなんて出来なかった。

 初日で嫌になった私は、雀斑に白粉を塗りたくった。枯れ木みたいな髪色に少しでも艶が出るように、ちょっと背伸びして髪に香油なんて塗った。

 嗚呼、誰も私が私って気付きません様に。


 働き出して幾らか経った後、お店に男の人が来た。

 いつも来る人達と違って、何処か垢抜けた人。背が高くて、長い黒髪が印象的な綺麗な人だった。何処か近寄り難くて、私は遠巻きにしていた。

 でも、口を開くととっても人懐っこい人だった。そしてとっても紳士的だった。

 誰の容姿も貶さないし、身体を触れるなんて全くしない。自分の自慢話しかしない男の人とも違う。それどころか、私の事を「可愛い」って言ってくれた。

 その人は、本当は私じゃなくて別の女の子の為にお店に来ていた。なのに、その子はその人の事ただの上客としか見て無かった。


「イケメンだし、いい人だとは思うけど、なんか微妙なのよね。それにプレゼントがすごい迷惑」


⋯⋯⋯⋯なんて羨ましい。

 貴女だって、そこまで可愛い訳じゃない。ただ男ウケが良いだけの娘の癖に。

 私を選んでくれた訳では無いけれど、あの娘があの人に靡いた訳では無いから、まだ我慢が出来た。あの人があの娘にプレゼントを渡していても、まだ許せた。


 だけど




「べ、ベリにゅぶぁ⁉︎」

「⋯⋯ご迷惑をお掛けしました。もう2度とこの店の敷居は跨がせませんので」


 吃驚するくらい綺麗な子が店に乗り込んで来て、あの人を連れて行ってしまった。店で1番可愛いって言われた娘も、領地で美貌を鼻に掛けていた姉も、死んでしまったお母さんですら霞んでしまう圧倒的に綺麗な子。

 私があんなに綺麗だったら、ううん、あの子の爪先くらいの美貌さえあれば、私の生き方は変わっていた筈。


 そしてあの子の言葉通り、あの人はお店に来なくなって。

 私はお店でずぅっと燻り続けた。見た目は良く無いし愛想も悪いから固定客は付かないし、誰か好い人が出来る訳でも無い。気付いたら店ではすっかり最年長だった。

 新しく入った娘が、背後で私を嘲笑っているのが判る。どうせ、不細工で年増とか言ってるんでしょ?知ってるのよ、解ってるの。昔っからそうなんだから。


「⋯⋯雀斑さえ無ければ⋯⋯」


 少し曇った鏡を覗いて、私は白粉を顔に叩いた。雀斑さえ無ければ、もう少しあの人に踏み込めた。お母さんに似てるって、お父さんに大事にして貰えた。

 もう少し、そうもう少し私が綺麗だったら⋯⋯








「この垂飾(ペンダント)はきっと願いを叶えてくれますよ」


 私にそう言ったのは、誰だったっけ?

 確か、お店に来た人だったと思う⋯⋯そうだったっけ?


「使い方?哈哈(はは)、時が来れば其れが教えてくれますからね。何の問題も有りません」


 私の願い⋯⋯私の願い⋯⋯そう、どんなにお願いしても綺麗になんてなれないのよ。だから。



 あの人が誰からも見放されます様に。






「⋯⋯⋯⋯⋯⋯それで、私だけのものになってください、ジークベルト様」


 そして、私が私って気付いてください。

個人的に雀斑は可愛い個性。

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