間話:理想的家族
ここから5章入ります。
ルキウスの自慢は、優しくて賢い父王と、美しく笑顔を絶やさない母、そして聡明で自分そっくりな双子の弟である。
家臣から信頼され、国民から敬愛される素晴らしい王家だ。
ルキウスは家庭教師から課題として出された、古語で書いた日記を破り捨てた。もう提出して中身は見せたのだ、こんなものは不要だ。
「⋯⋯みーちゃんはまだしも、父上と母上は有り得ないね」
器が小さい上に、女にだらしなくて頭の足りない父王と、夫の浮気を知る度にヒステリックに叫ぶ母。全ての元凶は父王にあるのかもしれないが、母は物を投げて使用人に怪我を負わせているし、ルキウスとミシェルに王位を継がせる等と言って憚らない愚物だ。
「⋯⋯兄上達がいるのに」
細切れにした日記は全てゴミ箱に納めて、ルキウスはデスクチェアの背凭れに寄りかかった。寄りかかりついでに椅子の脚をがったんがったん上げ下げし、行儀の悪い遊びをする。
(こんな行儀の悪い事、兄上達ならしないだろ)
2番目の兄は物心付いた頃には王籍を抜けて、市井へと降ってしまったが、その名前は此方にも響き渡る程優秀な魔術師となられたらしい。そもそも母の癇癪さえ無ければ、未だに城に居られただろう。あやふやな記憶しか残っていないが、とても優しい兄だった。
それに何より、1番目の兄はルキウスにとって別格の存在である。何せ父王よりも王らしく、宰相よりもよく人を纏め、誰よりも魔力が高い。チェスゲームは負け無しと云うのだが、本当だろうか。
外見はどの舞台役者よりも華やかで、人当たりが良くて優しく、厄介な母を持つルキウスとミシェルにもとても優しい。
婚約者が未だに居ないのは、あまりにも完璧で令嬢達が気後れしたとか言われているが、実際は周囲の人間が慎重になっているからである。完璧な王には完璧な王妃をと、無駄にハードルを上げているのだ。
(そんな一の兄上より王に相応しくって⋯⋯無理無理⋯⋯)
ルキウスは己をよく知っている。
王族故に魔力は高いが、ものぐさで、ぼんやりしていて、剣を握るよりも毛布を握っていたい。勉強は割りかし出来るが、そこまで飛び抜けている訳でも無い。ルキウスくらいの頭なら、その辺にごろごろ居る。
それなのに、最近じゃ弟のミシェルまでもがルキウスを王にだなんて言い始めた。
(⋯⋯みーちゃんはすぐ流される)
母親がぴーちくぱーちく言っている事を鵜呑みにしたのだろう。日記に聡明と書いたのは本当に間違いであった。このままじゃミシェルはただの愚鈍である。
既に1番目の兄が立太子しているのだから、愚かな母は現実を見て貰いたいものである。
ルキウスは誰にも提出しない、自分だけの秘密の日記にこう書いた。
『僕の理想は、一の兄上が王様になって、二の兄上が帰って来て、僕とみーちゃんで出来ることをして兄上達を支える。父上と母上は要らない、捨てる。ポイ!どっか田舎でパンでも焼いておいて』
でも、その理想は叶わない。
本編、間話、特別編等を全て合わせると、なんとこれで100話目です。
こんなしょうもない物語にお付き合い頂いている皆様、本当にありがとうございます。師匠の呪いが解けるまでまだまだ紆余曲折がある予定なので、今後ともどうぞよろしくお願い致します。




