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天使な子犬の正体は……? (前)

「あんっ」


「わぁっ、上手上手!」


投げた枝を上手に空中でキャッチしたリュカが、誇らしげに戻って来てサーラの足元にポトリと置いた。


「次はどれがイイかなぁ?」


「あん、あんっ!」


ずらりと並んだオモチャの中から、リュカのもふもふの前足が小さなボールを示す。早く投げてと言わんばかりのその様子に、


「よぉしっ!!」


サーラは気合いと魔力を右腕に込めて、大きく振るった。


「えいっ!!」


「あんあんっ! あん!!」


ドヒューンと勢いよく飛んだボールを、リュカも猛ダッシュで追いかける。

少し前だったら「やり過ぎた!?」と焦るところだが、今のリュカならちょうどいい。楽しそうなその姿にサーラはウキウキとしてその戻りを待った。


最近リュカがハマっている遊びは、「取ってこい」。サーラは本で読んで初めて知ったが、どうやら犬飼いの間では有名な遊びらしい。人間が投げた物をワンコが取りに走って、ちゃんと持って帰って来る……躾も兼ねた遊びのようで、リュカは「取りに走る」という部分にやけに闘志を燃やしていた。


ガサガサと茂みが揺れる。

最初は庭の中で遊んでいたものの次第にリュカの求める投擲距離が延び、今では森に向かっての全力投球だ。魔力を込める量を増やせばまだまだ飛距離は延びるけれど、そうすると今度は木々を避けるのが難しい。

運動神経抜群のリュカが木にぶつかることはないと知っている今だからこそ、サーラも思い切りよく投げられる。しかし、これ以上リュカが大きくなってしまえば、心配なのは自分の制球能力。むしろ今度は森の木々の心配をしなければならないかもしれない。


「あ、戻ってきたね!」


タッタッタッと軽やかな足取りで帰ってきたリュカは、口に見事、青いボールを咥えていた。


「お利口さんねリュカ! ちゃんと割らずに持ってこられたのね!?」


「あんっ!」


ドヤっとした顔も最高に可愛い。マジ天使。

蔓を編み込んで作ったボールは噛みつきやすく咥えやすい反面、中が空洞で壊れやすい。それを上手にキャッチして運べるようになったのだから、リュカの成長は疑いようもないうえに、尊い。


この素晴らしく可愛い王子様がウチに来て、暦の上では1ヶ月程が経っている。サーラの体感としては、もっと濃くてもっと短い1ヶ月。

初めは両手のひらにおさまる程に小さかったリュカだが、今ではしっかりと抱っこしなくてはならないくらいに大きくなった。確か、エレーヌの友人の家の猫がこのくらいの大きさだったと思う。もちろん、大人のニャンコだ。


「あんっ!」


さぁ、次も投げて! と言わんばかりにブンブンと高速で振られるシッポ。狐だろうがなんだろうが勝負にならないと思える程の立派なシッポで、いつの間にか真っ白というよりは銀色がかった色味になってきている。めっちゃ眩しい。後光、差してる。

ちなみに、銀色になったのはシッポだけではない。全身の毛が、真っ白から銀色に変わってきていた。お腹にあった黒い毛が見えなくなり、代わりにじんわりと全体が銀色に染まって……そのせいだろうか、近頃のリュカの佇まいは、見た事もないほどに神々しい。両耳につけたイヤーカフは長い毛の合間から僅かに覗く程度だが、それすら、何かの神具のようだ。


「次はぁ、あ、これとかどう?」


取り出したのは、もう少し小さい頃のリュカが気に入っていた、兎のぬいぐるみ。お腹の部分に鈴を仕込んだ、サーラのお手製で、残念ながらここ数日はとんとお見限りだった。


「あんあんっ!」


「うん、じゃあ、行くよ? ……えいっ!」


「あん!」


「…………あ。あんまり飛ばなかったねぇ?」


形のせいか、軽さのせいか。ぬいぐるみはサーラの手を離れてほんの少し、庭の端に行くよりも早く、リュカに空中でキャッチされた。


「あんっあんあんっ!」


それでも、ポトリとサーラの足元にぬいぐるみを落としたリュカはこの上なく嬉しそうだ。


「え、もう1回?」


しかも、ぬいぐるみキャッチがお気に召したらしい。チリリンと音がするのがイイだろう。


「行くよぉ!」


10回ほど繰り返し、リュカのテンションは鰻登り。シッポはもはや振り切れそうだ。反対に、投げるスパンの短くなったサーラは、少し息が上がって来ていた。

エレーヌと違って試行錯誤は得意ではない、けれど。


「途中であちこちパタパタ安定しないから飛ばないのよね? 周りを魔力の糸でくくれば……手から離れたら30秒ももたないけど、とりあえず飛距離は延びるかも……?」


ちょっとだけ待ってくれるようリュカに頼み、サーラはぬいぐるみをじっと見つめ思索する。それから、


「お待たせ、リュカ。行くよ? ……えぃっ」


「あぅん……? あんあんあんっ」


形を固定して、腕力強化に使う魔力を増やした結果、兎のぬいぐるみはよく飛んだ。バビュンと飛んだ。

リュカも驚いて走り出しが一拍遅れ……というか、何その驚き方、むっちゃ可愛い。


「あんあんあんっ」


声がどんどん遠くなる。思った以上に飛んだらしく、なかなかリュカが戻ってこない。例え遠くに離れたとしても、イヤーカフのおかげで居場所はわかる。サーラも努力を重ね、短期間でこれに関しては魔力の扱いをマスターしていた。だから、迷子の心配はない、が。かなり奥まで行っているような……?


(え……木とか……大丈夫だよね? ぬいぐるみ貫通なんてことはさすがに……)


早くも次の不安到来かと思い始めた頃、ようやく白銀の塊が勢いよく駆けて来た。ポトリと落とされたぬいぐるみは……良かった、普通だ。木片とか、ついてない。


「あんっ」


「あ、ごめんごめん。あー……今度はちょっと高く投げるよぉ? ウサちゃんは跳ねるからね」


誰に対する言い訳なのか。乾いた笑いで言い足して、ポーンと軽く弓なりに投げる。


「あん!!」


「え?」


これなら万が一にも森に被害を出すことはない。そう思っての行動だったが、


「ウソ……っ!!」


予想外の光景にサーラは思わず目を見開いた。


「あんあんっ!!」


「すご……リュカ、天才!? え、ちょっともう1回見せて!?」


ポーン。

タタタ……ッ! トーン!! ……タタタッ……!

ポトン。


「あんあん!!」


「うわあああっ!! すごいよリュカ!! 天才! ってかやっぱり天使!! 羽生えてるんじゃない!? 大天使様!?」


高く放り投げられたぬいぐるみを追いかけたリュカは軽やかな足取りで地面を、森のはたの枝を蹴り、一瞬で木に登ると、跳んだのだ。

もちろん、口で兎をキャッチした後は下に落ちる。けれど、滞空時間が長くて、トーンと飛び上がった姿は犬とは思えないほどに優雅だった。


「もう……っ可愛くてカッコよくて優雅で美しいって何!? リュカ、神!? すご過ぎるっ!!」


サーラの絶賛と興奮が伝わっているのか、リュカはなんとも得意げに、澄ましたポーズを決めて見せてくれる。可愛い。可愛すぎて辛い。

それにしても、猫ほどしか大きさのない子犬がここまでできるなんて、思わなかった。やっぱり、ウチの子は特別可愛くて特別賢くて特別すごい。むしろ、この子をすごさを知り尽くすことをサーラのライフワークにしてもイイくらいだ。


「あんっ! あんあんっ!」


ワシャワシャと撫でて褒められ、心ゆくまで甘えたリュカが、「もう1回」と次をせがむ。幼さゆえなのだろうか、随分とぬいぐるみキャッチが気に入ったらしく、キラキラとした金色の目がサーラをじいぃっと見上げている。


「次はじゃあ、もう少し遠くね」


魔力で巻いて、全力で弓なりに。

さっきより森の方に進んだぬいぐるみを「あんあんあん!!」……ポーンとさらにもう1回、「あん! あんあんっ!!」……またまた高く「あんあんっ! あん!」……。


もはや、何回投げて取ってきて褒めちぎったのか、わからない。自分の体の半分近くあるぬいぐるみを軽々扱うリュカ、やっぱり天才。


「あんっ! あんあんあんっ! あんあんっ!」


「ごめ……疲れ……休ませて……」


無限ループ中の小さなワンコが元気なのに、自分がへばるのはどうなのか。思うものの、サーラは苦笑しながら汗を拭った。


(よっぽど気に入ったのかな)


飽きずに繰り返すリュカは集中力があるうえに根気もある。さすがウチの子、素晴らしい。


「あぅん? あんっ」


ふわふわの体を抱き上げて頬擦りする。柔らかなお日様の匂いがするリュカ。サーラはその細くてふわもふの毛を頬に感じるのが大好きだった。


「大好きよリュカ。あんなすごいことができるなんて、知らなかった。いつ覚えたの?」


しっかりと左手でお尻を支え、縦に抱っこすると、今度はリュカの方からスリスリペロペロと甘えてくる。可愛い。至福。


「リュカはいつでも一生懸命だもんねぇ。リュカ、だぁい好き」


「くぅぅん」


「うふふ。兎さん、ちゃんと取って来れたねぇ。リュカは狩りの才能もあるのかな?」


兎はぬいぐるみ。知ってる。でも、親バカ……いや、姉バカなので仕方ない。


白銀の毛並みはこうして陽にあたると、一層銀の輝きが強くなる。よく見ると根元に近いところは相変わらず真っ白で、長い毛の細い毛先に近づくにつれて神々しい銀色になっているのがわかった。


「あんっ! ……クン……あんあんっ!!」


「あっ! リュカ!?」


腕の中のふわふわあったかな美人くんが急にジタバタと暴れだし、ポーンと跳んだ。

と思えば、今度は止める間もなく走り出す。


「え!? どこ行くの!?」


あっという間に見えなくなる、白銀の背中。サーラは慌てて、リュカと自分を繋ぐイヤーカフに多めの魔力を流し込んだ。

エレーヌ謹製のイヤーカフは伝達魔法を応用している。そのため、普段は常時微弱に魔力を流して接続が切れないように維持しつつも、リュカがうるさい思いをしなくて済むようにしていた。


「リュカ、どうしたの!?」


いざという時は、強めに魔力を流せばサーラにはリュカの居場所が感じ取れる。そして、リュカにはサーラの不安げな声が届いているはずだ。


「ねぇ、リュカ!?」


探ってみれば、子犬は随分と森の深くまで入り込んでいるようだった。ボールやぬいぐるみを投げていた位置よりも更に先。普段はあまり用のない針葉樹の森の方向へ走っている。目的がまったくわからない。


「今行くね!」


一瞬リュカが止まったのを感じ取り、サーラはそちらに向かって駆け出した。

リュカは賢い。もしかしたら、人間にはわからない異変が森に起こっている、とか……。


(あれ?)


しかし、数歩も行かないうちにサーラは走るのを止めて庭に戻った。リュカがすごい勢いで戻って来る。名手の撃つ弓にも負けない速さだ。


(何か悪いことがあったって訳じゃ……なさそう、だよね……?)


リュカは伝達魔法が使えないから、魔術具があるとはいえ、向こうからサーラへ連絡してくることはない。だが、なんとなく……本当になんとなくだが、足取りが軽やかなような、リュカがウキウキしているかのような……そんな気配が感じられた。


「リュカ?」


彼なら魔術具を介さなくてもサーラの声が聞こえるだろう距離。そこまで戻って来ているのを感じつつ、サーラは魔力の出力を下げる。いったい何をして来たというのか……。

ガサガサと下草を踏む音が近付いて来る。しかし、やけにその音が大きいような……?


「リュカ……!?」


今日は驚かされてばっかりだ。


大人っぽく伸びてきたマズル。その口を大きく開けて、リュカは何かを咥えていた。茶色くて、毛むくじゃらで、後ろ足と耳が大きい……


「え!? え、本物!? え……リュカが狩ったの!?」


兎、だった。


喉元を食い破られた兎は既に息絶えているようだったが、まだほんのり温かい。獲りたて、狩りたて。


「え!? なんで!?」


「あんっ! あんあんっ!!」


白銀の子犬が自分と同じくくらいの大きさの兎を狩って戻って来るとは……今日一番、目を疑う。うーん……?


(……わたしの狩りに連れてったことはあるし……あの時も兎、だったけど……。え、でも、なんで突然……)


「あんあんっ!! あん! くぅぅん」


誇らしげに甘えてくる姿はさっきまでと同じなのに……咥えて来るものがあまりにも違い過ぎて、状況になかなか追いつけない。だって、兎のぬいぐるみならまだしも……


「あ。もしかして……?」


(わたしさっき、狩りの才能とか、褒めた……かも……?)


「……本物の兎だって狩れるんだ、って……やって見せてくれた……の……?」


しゃがんだサーラの膝に擦り寄るワンコの口元は、ほんの少し赤かった。


「あんあんあんあんっ!! あんあんあんっ」


テンション上がりまくって飛び跳ねるリュカ、激可愛い。とはいえ、背景が気になり過ぎる。


「ぇ……ホントに???」


「あんあんあんあんあんあんっ!!」


「えぇえ!?」


確かに、あちらの方向には兎の巣穴が多い。前にサーラが兎を狩ったのは別の場所だが……匂いか気配か、きっとリュカにはわかったのだろう。

だがまさか……もふもふふわふわで神々しくて可愛らしい、このまだ幼い子犬が、あの一瞬で躊躇いなく獲物を仕留めて来るなんて……それ程の獰猛さを内に秘めていたなんて……


「すご過ぎない!?」


いろんな意味で、すご過ぎる。


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