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ふわもふ子犬はお利口さんです。

短めなので、続きは明日投稿します。

リュカがうちの子になって1週間。白いふわふわくんは、『子犬の飼い方』に書いてあったような、夜鳴きもトイレトレーニングの問題もなく、実にお利口に我が家での生活に慣れてくれた。

最初の日、本を見ながら細い木の枝で犬用のケージを作ったのだが、むしろそれはお気に召さなかったようだ。サーラの部屋の隅に、ベッドとトイレが余裕で入る大きなケージを設置したところ……リュカは魔法で固定したはずの小枝をどうやってか噛み砕いてしまったし、夜はサーラのベッドに入り込んだ。

本には、「安全地帯があると犬も安心できる」と書いてあったのに、やはり机上の空論なのかもしれない。実際の性格は実物を前にした飼い主にしかわからないのだろう。

加えて言えば、ワンコと一緒に寝る幸せも本には書かれていなかった。温かくてふわふわで……極上の眠りを提供すると一文でも入れてくれれば……連日寝坊することはなかったのに。


「リュカぁ、お散歩行くよぉ」


けれど、本には有益な情報もたくさんあった。その1つが、「遊びや散歩でコミュニケーションをがっつり取ろう!」という項目だ。わかった、じゃあたっっぷり時間を取ろう、だって三分の二の本がそう奨めてくる!


(家事は……いっか、魔法でやっちゃお)


手作業の好きなサーラだが、その気になれば魔法であれこれ短縮できる。ご飯作りはリュカのためにも頑張るとして、掃除洗濯なんかは魔法でチャチャッと終わらせよう。


「籠と、水皿と……」


サーラは毎日、朝ごはんの後の日課として森の散策をしている。リュカと出会ったのも、その途中。あの日は木いちごの林方面を散策していた。


まずは見た事のある場所がイイだろうと、ここ数日、リュカの初めての散歩コースにも木いちごの林を採用している。わりと平坦な道だから、リュカがぽてぽて歩くにも、抱っこするにも負担が少ない。


「ホントはそろそろ湧き水の滝の方にも行きたいんだよねぇ……」


サーラの散策は健康のため……というより、もっと生活に密着している。幾つもある散策コースを回って、野草や薬草、滋味溢れる森の恵みを採取するのが目的だ。

リュカを散歩に慣れさせるため、万が一リュカの親がリュカを探していた時のため………とコースを固定していたが、そろそろ湧き水に芽吹く水芥子みずがらしの花が咲く。年に一度のこのチャンス、できることなら収穫してドライフラワーにしておきたかった。


「リュカには食べられないけど、人間には美味しいんだよぉ?」


そのまま茹でてお浸しでも良し、乾燥させてから煎じて香辛料にしても良し。しかも、消毒殺菌作用と発汗痩身作用、さらには冷え症とむくみ改善の効能まである。

いずれ薬膳料理の食堂を開けたらな……と漠然と考えているサーラにとっては、見逃せないアイテムだ。


「うーん」


悩みつつ、リュカを見る。

庭先で蝶々を追いかけながらサーラを待つ子犬は、相変わらずめちゃくちゃ可愛い。でも、なんだろう……この1週間で、随分と足取りがしっかりした……?

初めて会った時はポテポテころころして、ちょっと歩くだけで転んでいたのに、一昨日あたりからは駆けるような仕草も見せる。大きさだって……両手で持っても手足がはみ出るほどに大きくなった。


(ワンコの成長ってめちゃくちゃ早い……。野生だから尚更なのかなぁ?)


だとしたら、なんとも可愛い赤ちゃんの頃に出会えた自分は運が強い。すっっっごい幸せ。


(ま、疲れたらどっちみち抱っこだから…………イイよね?)


うん、そうしよう。


「リュカ! 今日はいつもと違う道に行くよぉ」


木いちごの林への道を覚えて準備していたらしいリュカに声をかけ、今日は反対方向、と指をさす。賢い子犬は、まだ短い足を一生懸命動かしてサーラの指した方へと向かい、数歩進んで振り向いた。


「きゃんっ!」


「うん、そう、よくわかったねぇ」


可愛い可愛い!!

飼い主バカと言われようが、リュカの可愛さは天下一品。出会った日からサーラの人生は薔薇色だ。


「あ……でも、リードが……」


意気揚々と歩みを再開させたリュカの、天に向かってふさふさと振られるシッポの攻撃力たるや、無限大。可愛いは武器。

とはいえ……可愛さに夢中になってばかりもいられない。初めて行く道なのだから、できることなら迷子防止のリードをつけたい。


「リュぅカ、ね、これつけよ? 迷子になったら怖いから、ね?」


「う゛う゛う゛ぅ」


「……やっぱり嫌かぁ」


可愛くて賢くて最高に天使なリュカだけれど、1つだけ。極度のリード嫌いらしいのだ。植物を編んで作ったリードやハーネスを見せると、歯を剥いて威嚇する。

小動物の必死の抵抗もキュンキュンするよね、という本音は別にして、正直、こればっかりは困ってしまう。だって、本には「可愛いからこそ、リードをつけることが大切です」と書いてあるのだ。こんなに可愛いんだから、多分、リードをつければもっと可愛い。


「リュカがリードつけたとこ、見たいなぁ」


なんとなく言葉が通じているのではないかという気がするから、この際いっそ、褒め殺し作戦で……


「絶対似合う! カッコイイ! 森の視線一人占め!」


「ぅう゛う゛う゛う゛」


「ね! リュカ様! お願いします! これつけて! どうかわたしのお願い叶えてくださいっ」


恥も外聞もない土下座作戦も……


「う゛う゛う゛う゛う゛」


(なんでもっと怒るの!?)


残念ながら、子犬渾身の唸り声の前に撃沈した。


「ダメかぁ。……まぁ、そこまで嫌なら仕方ないかなぁ」


諦めてサーラはリードを束ねて籠にしまった。持ち歩きの荷物に入れるあたり、微妙に諦めきれない証拠だろう。場所が変われば気分も変わるかもしれない、と一縷の望みをかけてみる。


「んじゃまぁ……気を取り直して。行きますか! リュカ、今日も疲れたら抱っこするからねぇ、無理しちゃダメだよ?」


「きゃんっ」


「うん、イイ返事!」


「きゃんきゃんきゃんっ!」


「わかったわかった、引っ張らなくても行くってばぁ、スソ離して? あはは、お利口さんね。じゃあ、出発!」


「きゃんっ!!」


初夏の森は昼近くても過ごしやすい。元気良くてちてち歩くリュカを斜め後ろから眺めながら、サーラは「うふふ」と笑みを零した。

子ワンコの居る生活、最初はわからないことだらけだったけど、


(わたし、なかなかイイ飼い主できてるんじゃない? ま、すべてはリュカが可愛いからねっ)


もはやたった1週間前の、母との二人暮らしが思い出せない。ワンコ最高、というか、リュカが最高。


「リュカ、木の根っこに気をつけてね」


今日も良い1日になりそうだ。


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