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シーン7 二人はそういう仲だっけ

 ルナルナの駆るⅯランナーに先導されて、アタシはようやく目的の町、レバーロックへと辿り着いた。

 未舗装のメインストリートの左右に、数十の建物が並んでいた。まさしく惑星開拓者達の生活ベースという雰囲気が漂っていて、往来にはそれなりに人の姿も見受けられた。

 一応は中心地、という事になるのだろう。

 食料品を扱う店と、日用品を扱う店が幾つかあって、オープンタイプのランナーが数台留まっているのが見える。

 ストリートの先に、巨大な赤い山が見えた。


 ん。


 山?

 それとも、巨大な岩か?

 それにしちゃあ、奇妙な形だし、中途半端な大きさだ。

 あれは、どう表現したら良いのだろう。

 表面が赤く溶けていて、なんだが機械のような突起物も見える。


「ラライ、プレーンを駐機させよう。そのままストリートに入ったら、町の連中の迷惑になっちまうからな」

 ルナルナの声が通信機から届いた。


 彼女はメイン通りを回避して、裏手から、先ほど見えた赤い岩の方へとアタシを案内した。

 近づいて、アタシはようやくその正体に気付いた。


 これは、宇宙船だ。

 といっても、外装は原形をとどめていない。

 至る所が熱で溶けて、赤く腐食しているから、岩のように見えたのだ。

 どこの勢力に所属した船なのかもわからないが、もしかして、その昔、宇宙戦争か何かで大破して、この星に墜落してきたのではないだろうか。


 宇宙船の後方には巨大なハッチが開いたままになって残されていた。

 というより、誰かが手を加えて、そこを巨大な格納庫にしたのだ。

 中には他にも数台のセミプレーンや、大型の農機具、それにランナーなどが保管されていた。


「レバーロックの、共同倉庫さ、邪魔にならなければ、好きに停めて良いぜ」

 ルナルナが説明してくれた。


 そういう事なら、ありがたく置かせていただこう。

 アタシは中に入って、あらためて、周囲を見回した。

 構造的にも、見覚えのないつくりだ。

 こう見えてもアタシは宇宙船の構造にはかなり詳しい、使用されている部品や、ちょっとした特徴だけで、その船がどこのメーカーで作られて、どこの軍事勢力に納入されていたかまで推測する事が出来る。

 まあ。

 言葉を変えれば、アタシは兵器マニアなのだ。

 それも、筋金入りの。

 このアタシがわからないと言う事は、少なくともエレス同盟圏のものではない。時間があればもう少し調べてみたかったが、ルナルナを待たせている手前、そうもいかないだろう。


 乗ってきたセミプレーン、「フロッガー」を安全に固定して、アタシはルナルナが待っている入り口の方に向かった。

 歩きながら、先に駐機してある他の機体を観察した。

 全部セミプレーンだ。

 土木工事用の重機型が3台と、軍用機が一台あるな。

 重機型はありきたりなオルダー社製だが、軍用機の方はフロッガーと同じダイヤ重工製のモデルだ。

 遠距離支援型コルスロータイプか。

 ダイヤ重工製の軍用機なんて、非武装地帯では見かける事なんかまずないし、中古品とは言っても、滅多に市場には出回らない。

 それがアタシの乗ってきたフロッガーといい、一日の中で2台も見るなんて、随分と珍しいこともあるもんだ。


 それにしても、どのプレーンもロクに整備されてはいないみたいだし、随分と破損個所が多い。というより、本当に戦闘した後のような壊れ方をしている。


 ルナルナは、ハッチの外で、桃色の髪をヘアバンドで束ね直していた。


「もういいかい?」

 アタシが出てきたのを見とめて、彼女が聞いてきた。


「すごいわね、これ、エレスの船じゃないわね」

「詳しくはないけど、なんでも1000年くらい昔の戦争で落ちた奴だってさ」

「廃棄船か・・・」

「でもな、そのおかげでここに街が出来たんだ」

「え? どういうこと?」

「一部の動力部とか、生命維持のための基本機能が、まだ生きてるんだ。だから、街のエネルギーの半分以上はこいつが支えている」


 アタシは驚いて、見た目には巨大なスクラップにしか見えない金属の塊を見上げた。

 ルナルナは唇に笑みを乗せて、アタシにⅯランナーの後ろに乗るように勧めた。


 Mランナーにタンデムしたのは、これで二度目だ。

 風と、独特の振動がアタシを包んだ。

 やっぱり、なんとも気持ちがいい乗り物だ。

 そのうち、一台くらい自分用のマシンが欲しい気分になってきた。


 メインストリートに戻ってくると、町を歩く人たちが、興味深げにアタシ達を・・・というよりアタシを見るのがわかった。

 ちょうどストリートの真ん中あたりに、見覚えのあるホバートラックが止まっていた。


 よかった、バロンだ。

 どうやら無事に到着しているみたいだ。


「バロンさーん!」

 アタシが手を振ると、バロンは予想外の登場の仕方に、驚いた顔をした。

 ルナルナは彼に気付いて、マシンを路肩に寄せて止めた。

 バロンがぬたぬたと走り寄ってきた。


「ラライさん、あれ、プレーンはどうしたでやんすか、それに、その方は一体!?」

「プレーンの説明は後、バロンさん、ほらこの人がアタシの言ってたルナルナよ」


 アタシを先に降ろしてから、ルナルナは身軽にMランナーを降りた。


「ラライ、この人は?」

 彼女はバロンを一目見て、微かに戸惑った顔をした。

 ルナルナは、外見で人を判断するような性格じゃない。彼がタコみたいな外見のカース人だから、ではなく、単純にアタシが、男性に馴れ馴れしく話しかけたことに戸惑ったようだった。


「彼は、バロンさん。えーと、なんて言ったらいいのかな、アタシの居候先の人で、その、つまり友達っていうか」

 アタシはあらためて彼の事を説明しようとして、少し口ごもった。


 友達。

 で、いいよね。

 一応。

 なんとなく、もうお互いに、それ以上の存在として意識し合ってる自覚はあるんだけど。


 少し顔が赤くなってしまったのかもしれない。

 ルナルナはきょとんとした顔をして、それから、不思議そうにアタシと彼を見比べた。


「お初にお目にかかるでやんす、生まれはカースの第三惑星、人呼んで〈赤い閃光〉のバロンでやんす、お見知りおきを、でやんす」

 バロンは、帽子を取って仰々しく名乗りを上げた。


 これは。

 また変な地球の時代劇を見て影響されたな。

 それに。

「赤い閃光」って誰が呼んでるの?

 確かタコだけに「赤い悪魔」(レッドデビルフィッシュ)って呼ばれていたのは、なんとなく聞いた気がするけど。


「ルナリー・ティリアだ。ヨロシク」

 ルナルナはそれだけ言って、なにやら合点のいったように小さく頷いた。

 ミュズがトラックから荷物を降ろしているのが見えた。


「とりあえず、町についたのは良いでやんすが、何しろ勝手がわからないでやんすからね、まずは近くに泊るところがあるか、町の人に聞いてみようと思ってたところでやんす」

 バロンが説明した。

 そうね。でもそれなら、ルナルナに聞くのが手っ取り早そうだ。


「それだったら心配はねーよ。オレについて来な、なに、すぐソコさ」

 彼女はそういって、二つ先の角を指さした。


 それは、西部劇にでも出てくるような、いかにもっていう酒場だった。

 ストリートに面した入り口は観音開きになっていて、外から中の様子を覗くことができる。

 開店前らしく、店内はまだ薄暗かった。

 実際には金属製の建造物なのだが、内装はまるで木造のような演出になっている。円形の、これも木製のテーブルと椅子が並んでいて、入り口にはウェルカムと彫られたマットが敷かれていた。

 奥にはさらに個室もあるようだ。

 正面の奥はカウンターと厨房になっている。左手には階段もあって、二階まで繋がっているのが見て取れた。

 外から丸見えなのは、一見すると不用心にも思えたが、実際には目に見えないセキュリティシールドが張ってあった。


 まだ人もいないみたいだし、どうするのかなと見ていると、ルナルナはためらいもなくシールドに向けて手を伸ばした。

 ピッと、小さな音がした。

 何らかの認証が行われたようだ。セキュリティシステムが解除され、自動で店内の照明が暗く灯った。


「いいぜ、入りな」

 彼女は得意げにニッと笑った。


「ここって、もしかして?」

「ああ、オレの店だ。ほら、看板があるだろ『ブルーウィング』って」

「ちょ、その名前って・・・!!」


 アタシは絶句した。

 ルナルナはアタシの肩をポンと叩いた。


「なあに、よくある名前だし、どうって事ないって。 それに、『蒼翼』をモデルにした映画なんかを見るとさ、ああ、オレも少しは背負ってたんだなって感慨深くなっちまって、・・・なんだか、他の名前が思いつかなくてよ」

 誰にも聞こえないように、小声で囁く。

「もう、ルナルナったら」

 アタシは気になってバロンを振り向いた。

 案の定、彼は看板を見つめて、何とも形容のし難い表情をした。


 店内に足を踏み入れて、アタシは微かに残る酒とドラッグの香りに気付いた。

 思わず、眉間にしわが寄ってしまった。

 彼女はすぐに気付いた。


「そんな顔すんなよ。別にこの店でクスリを提供してるわけじゃない」

 彼女はすぐに、アタシの心情を察したようだった。


「ウチが提供するのはあくまで酒と食事とベッド、それにカードゲームの場所くらいさ。ただ、法のない外宇宙の宿命でね、客が何を持ち込むかまでは、こっちでも口は出さない。・・・まあ、店に迷惑が掛からない程度、っていう条件はつけるけどな」


 いいながら、彼女はカウンターの上に活けてある花に手を伸ばして、枯れかけた部分をそっとつまんだ。


 言われてみれば、まあ、仕方ないのか。

 だけどアタシは、どう理由をつけても「ドラッグ」は好きじゃない。

 清濁を許容する事は、生きる上では大切だけど、それでも納得したくないモノだって、人にはあるという事だ。


 店内は小奇麗で、あちこちに女性店主らしい、さりげない気配りが見られた。

 おそらく手作りの、可愛らしい小物が並んで、そのセンスの良さは、ちゃんとしたレジャー衛星に出店しても通用しそうな洗練さがあった。


 アタシはカウンターの後ろの台に、一枚の写真が立てかけてあるのを見つけた。

 人が映っていた。

 誰の写真かと思って目を凝らすと、ルナルナはサッとそれを伏せてしまった。

 彼女は誤魔化すように笑って、階段を指さした。


「二階を宿にしてるんだ。えーっと、二人でいいのかい」

 彼女はそう言ってから、アタシ達の後ろからついてきていた、もう一人の人物に気付いた。

 ミュズだった。


「ミュズさんも、泊まれるでやんすかね」

 バロンが聞いた。

「あれ、あの男の人は? 確かウォルターさんとかいう」

 アタシは若い男の事を思い出した。

 そういえば、さっきもトラックの所にはいなかったな。

「それが、町につくなりどっかに行ってしまったでやんす。助けてやったのに、お礼の一つも言わないで消えちまったでやんすよ」

 呆れたように、二本の触手で肩を竦めるような仕草をした。


「じゃあ3人ってことだね」

 彼女は少しだけ考えるような顔になって、それからチラリとアタシとバロンを見た。


「実はさ、二階に部屋は4つあるんだけど、出来れば2つは開けておきたいんだよね」

「じゃあ、相部屋にしなきゃいけないってコト?」

「まあ、そうしてくれると助かる。こっちも色々と事情があってさ」


 彼女はアタシとバロン、それにミュズを見比べた。

 まあ、女性二人で相部屋か。

 アタシは別にかまわないけど、ミュズさんもそれで大丈夫かな。

 よく知らない人と一緒に泊まるなんて、嫌がる人は嫌がるよね。

 といってもこんな星に一人で訪ねてくるような人だし、その位のコトは、覚悟してきているだろうか。


「普段は外から客が来るような町じゃねーから、悪いな」

「えーと、それじゃあ今準備するから・・・っと」


 彼女はカウンターの中に入って、ごそごそと鍵を探し始めた。

 と、そこに。


「じゃあ、あっしとラライさんの二人で一部屋ってコトでやんすね。大丈夫でやんすよ。いつもと一緒ででやんすから」

 こともなげに話す、バロンの声が響いた。

「え!」

 アタシは驚いて彼を振り向いた。


 彼は自分が何を発言したのか、まだ理解していなかったようだ。

 多分、「素」だったんだろう。


 確かに、アタシとバロンは船でも共同生活しているし、一緒の空間にいる事はもう当たり前の感覚になっている。

 だけど、それはあくまで部屋数が足りないからの特別措置みたいなもので、ベッドルームも分かれているし、行ってみればシェアルームって感じだ。


 旅先の宿で同部屋に泊まるって言うのは、ちょっと趣が違うんじゃない。

 それに。


 ほら、ルナルナが明らかに戸惑った顔をしている。


「え・・・と、ラライ、ああ、そういうコト?」

 ルナルナはアタシとバロンの顔を見比べて、それから彼女にしては珍しく、微かに頬を赤らめた。



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