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シーン65 世界で一番、最低な奴

 ブラスター特有の焼けた臭いが、周囲に漂った。

 アタシは両手で口元を押さえ、目の前の光景を見つめた。


 一撃を受けたルナルナが、ゆっくりと倒れ・・・ない?


 かわりに。


「バ・・・馬鹿、な」


 テシーアの苦悶の声が漏れた。


 アタシは見た。


 ルナルナの両手が自由になっていて、そこに握りしめられた二丁の銃口を。

 その銃撃は、確実にテシーアの両腕を撃ち抜いていた。


 テシーアの手からアタシとルナルナに向けられていた銃がこぼれ落ちる。


「今だぜ、遅れるな!」

 合図を出したのは、ルナルナだった。


 無意識に、アタシは反応した。

 そして、バロンも。


 アタシは黄金の銃を引き抜き、振り向きざまに取り囲むヴァイパーの兵士たちに向けて撃った。


 一方、武器のないはずのバロンは。

 ・・・何と、口から一丁の銃を吐き出した。


「あー、もう苦しかったでやんす!」


 愚痴りながらもアタシと同じく銃を撃つ。


 取り囲んでいたストームヴァイパーの兵士たちは、何が起きたのか分からなかった。

 自分達の優位を信じて疑わない状況だっただけに、反応が遅れた。


 甘いのよ。


 銃を持ったアタシ達に、早撃ちで勝てると思うな。


 そこに、ルナルナの二丁拳銃も加わった。

 激しい銃音がその場に鳴り響いた。


 一方的な銃撃戦は、僅か数秒で幕を閉じた。


 状況は一変していた。

 周囲には倒れたストームヴァイパーの兵士たち。

 そしてその中央には、両腕を血まみれにして、茫然とうずくまるテシーア・ベント。

 その目は愕然としたままルナルナを・・・いや、その背後でにやけた笑いを浮かべているウォルターを見つめていた。


「お・・・お前」

 掠れた声になって、テシーアがウォルターににじり寄ろうとした。


 その足元を銃弾が抉って、彼女を制止する。

 撃ったのは、ウォルターだった。


「まあ、そう慌てんなって、信じられないのは分かるけどよ」

 ウォルターがニッと笑った。

 この笑い、どこかで見たことがある。

 直感的に、アタシは思った。


「お前、誰だ。その声・・・ウォルターではないな」

「ご名答、ってね。へへ、そんなの誰でもわかるか」


 ウォルターの目がアタシを見た。

 ちらっと悪戯っぽく笑い、その手を自分の顔にかける。


「さて、種明かしといきますか」

 ウォルターが言った。

 アタシの隣で、バロンがやれやれというため息をついた。

 ん?

 この感じ、バロンってば、こいつの正体を知ってる?


 わかっていないのは、もしかして、この場にアタシとテシーアだけ?

 アタシ達が茫然とする前で、ウォルターは顔を明かした。

 そこに現れたのは。


「さ、サバティーノさん!?」

 アタシの方が大きい声を上げてしまった。


「バカな・・・そんな筈は?」

 テシーアは二の句が継げないという感じだ。


「ああ、そんな馬鹿なだよな」

 と、サバティーノは今までの彼からは聞いた事も無いような口調と声を発した。


「ストームヴァイパーのスパイにして、貴重な情報源のサバティーノ。まさかそんな俺がお前たちを裏切って、ウォルターに化けていたなんて、そりゃあ信じられないよな」

「お前・・・・」


 テシーアの顔が歪んだ。

 アタシも思わず唸った。


 ちょっと待って、・・・初耳なんだけど。


 サバティーノがストームヴァイパーのスパイって、それ本当なの!!


「お前、違うな・・・。サバティーノでもないな。誰だ・・・キサマ」

 絞り出すような声で、テシーアが言った。

 両腕からぽたりと血が流れ落ちて、アタシは背筋が寒くなった。


「フン、さすがに苦労したぜ」

 サバティーノは手の中の銃をくるりと回した。


「ゴディリーとかいう監視役にも手を焼いたしな。いつ入れ替わりがバレるかヒヤヒヤもんだった。・・・まあ、めんどくさいんで、途中でご退場願ったけどよ」


 え、マジか。

 あのゴディリーさんも、ヴァイパーの手先だったってコト?

 アタシは呆気にとられた。


「ゴディリーとの連絡が取れなくなったのは、貴様の仕業か・・・く、単なる臆病風では無いと思っていたが・・・」

「はは、じゃあ、ついでにそれも種明かししちゃう?」


 サバティーノは余裕を見せて笑った。


 バロンがちらりと周囲を気にするそぶりを見せた。

 なんだろう。

 この感じものすごく気に食わない。


 長々と話なんかしちゃってさ。

 サバティーノって、もしかして時間を稼いでない。

 で、バロンも何かを知ってそう。


「ったくもう。本当ならこんな面倒な手間をかける気はなかったんだ。全部そっちの女のせいだ。ったく、とんだ疫病神だぜ」

 サバティーノがぼやくように言うのが聞こえた。


 今、アタシの事、疫病神って言った?

 言ったよね。


 アタシから目を逸らして、サバティーノは再び変装を解いた。

 そこから出てきた顔に、アタシはまたしても腰を抜かしそうになった。


 ・・・・。


 えーと。


「か、カリブ・ライトさんっ!?」


 そうだ。

 アタシがこの町に来た時、同じタイミングで街を訪れ、すぐにブルズシティに帰ってしまったはずの大学教授だ。


「ああ、カリブ・ライトだよ。お前がこの名前さえ知らなけりゃ、もうしばらくカリブ・ライトのままでいれたんだ。ちくしょう、あの野郎・・・使いまわしの身分証なんか寄越しやがって・・・」


 あの野郎?

 いったいこいつは何を言ってるの?

 もう、意味わかんないんだけど。


 テシーアも同様だった。

 彼女ももう、目の前で何が起きているのか、全く理解できていない顔をしていた。


「酒場に居たサバティーノの手下が、お前の様子を見てカリブ・ライトについて調べ始めやがった。仕方ねえからそいつにも消えてもらって、ついでにブルズシティでサバティーノの野郎と入れ替わってきたって寸法さ」

「じゃあ、あの時、町から戻ってきて、アタシの病室に来たのは?」

「ああ、俺だ。な、ちゃんと言ってただろ、ご期待に沿える機体を手配した・・・ってね」


 カリブ・ライトはバロンの「ディアブロス」を指さした。


 ああ、もしかして!?

 わかるようでわからないけど、とにかくカリブ・ライトはブルズシティでサバティーノと入れ替わって、ついでにバロンのディアブロスを持ってくるように、運び屋オレンジに依頼したってコトか・・・。


 でも、それってさ。

 カリブ・ライトはバロンがデュラハンの一員であることを知っていて・・・、しかも、その輸送をオレンジに頼めるくらい、アイツと信頼のあるやつ、って事になる。


 ・・・やっぱり。

 この男の正体って。


 カリブ・ライトはもうテシーアを見てはいなかった。

 楽しそうな目で、アタシを見ていた。

「シェード! アンタ、シェードね!」


 アタシは叫んだ。


 カリブ・ライトは最後の変装を解いた。


 見覚えのあるカールした黒髪。

 そして、一見するとクールな、無駄に整った素顔。

 こいつは、シェード・エルクス。


 自称、宇宙一の情報屋にして、宇宙一の探し屋。

 そして、争乱のあるところには必ず姿を現す、宇宙で一番、最低な掻き回し屋。

 人呼んで、黒の道化師だ。


「シェード? あの黒の道化師のシェードか? まさか、貴様が・・・」

 テシーアが信じられないモノを見たような顔になった。


「何故だ? 何故貴様が介入する? 何故、探し屋風情が、我々の邪魔をする?」

「うーん、それなあ」


 シェードは首を傾げた。


「最終目的を明かせないのは、アンタと同じでね。テシーアさんよ・・・なあアンタ、まだ余裕ある顔してるよな。そんな大怪我してるってのによ」

「・・・・!」


 テシーアの顔色が、明らかに変わった。

 だが、それはアタシの想像とは違っていた。


 これまで追い込まれたように見えていた彼女の表情に、再びあの艶めいた笑みと、不敵な眼差しが蘇っていた、。


 アタシはゆっくりと、彼女の側から離れた。

 バロンが待っていた。

 アタシは彼の腕に肩を包まれた。


 ルナルナは片足を引きずりながら、放置された雪路のもとに辿り着いたところだった。

 彼女の拘束を解き、口のテープをはがす。


 大きく息を吐きだすとともに、彼女が「ありがとう」と言うのが聞こえた。


 シェードが、再びテシーアに銃を向けた。

 テシーアは、フンと鼻を鳴らした。


 敵ながら、なんて強い女だ。

 これだけの怪我をして、普通ならその痛みだけで死にそうになるはずだ。

 それなのに、出血のせいで青ざめてはきているけど、その表情には、まだ例の傲岸さが浮かんでいる。


「さてと、化かし合いはここまでだ。テメエ達の真の目的、聞かせてもらおうか。なあ、ストームヴァイパー・・・いや、ディープパープルのテシーアさんよ」

「ほう・・・」


 テシーアが目を細めた。


「そう簡単に、私が口を割るとでも思ったか」

「いや、思わないね」

「だったら何故それほど芝居がかる? これは何の時間稼ぎだ」

「時間稼ぎじゃないさ。ただの時間つぶしだよ。ただ待っているのも面白くないんでね」

「増援が来るのか。なるほど、さすがは黒の道化師だな、手際が良い」

「無手で褒められるのは慣れねえな。へへ、それもこんな美人によ」

「美人、はっ、それこそバカにしている」

「お互い、案外と似た者同士だったかな、いや、違うな」


 シェードが銃を持つ反対の手で、クシャクシャの髪をかいた。


「俺はアンタほど、無駄に人を殺さねえ。俺が人を殺すのは、そいつがこの世界にとって不要だと、本気で思う時だけだ」


 彼の言葉の最後を、テシーアは聞く事ができかった。


 前触れもなく、シェードの銃は彼女を撃った。

 悲鳴を上げる間もなく、彼女の体は地面に倒れた。



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