表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/71

シーン60 迎撃戦、開始

 宇宙戦艦「テンペスト」は、町の上空に達した。


 アタシはトルーダータイプの出力を一気に解放し、敵機体の下方に飛び出していった。

 あっという間に敵のセンサーに感知される。


 船の下部に露出した数十ある対地レーザーの砲門が素早く動くのが見えた。


 機械反応は早くても、所詮人が操作してるんでしょ。

 感知=無差別攻撃ってオートコントロールされていない限りはね。


 アタシは上空に向けて、機銃を向けて連射した。

 ライオンに豆鉄砲を撃ってるようなもんだ。

 刺激することはできても効き目なんかない。


 と、甘く見ないでよ。


 狙ったのは対地レーザー砲門の先端についている照準用センサーだ。

 で、撃ち込んだのはパルス弾。

 僅かな狂いを生じさせることができれば、それでも十分。

 そして、アタシの銃撃の腕は宇宙でも3本指に入ると自慢しておこう。

 十数個ある砲門を的確に撃ち当てながら、アタシはちょろちょろと建物の合間を走った。


 思った通り、相手はこちらの攻撃に反応をした。


 警告も脅しも無し。

 いきなり、撃ってきやがるのね。


 だけど予想通りだ。

 アタシを狙った対地砲撃はほんの少しの誤差を見せた。

 駆け抜ける僅か数メートル後方の地面が熱線に焼かれて焦土と化す。


 よしよし、こっちに気をとられた。

 奇蹟的な回避を見せつつ、ほんのりと背中に汗をかきながらも、アタシは相手がこちらの術中にはまった事を確信した。


 なかなか攻撃が当たらなくて焦れてきたかな。そうすると「テンペスト」の兵装なら、お次は・・・。


 対地レーザーの雨が急に止んだ。

 アタシはその時が来た事に気付いて、機体を反転させた。

 まるで屋根のように覆い被さっている「テンペスト」の腹が、静かに開くのが見えた。


 やっぱり実弾を使う気だ。

 追尾型の高性能ミサイル。

 さすがにアレを撃ち込まれたら、一発くらいは何とか迎撃できても、まあこのトルーダーの性能じゃお陀仏ね。


 つまり。

 撃たせちゃいけない。

 このタイミングが全て。


 アタシは待った。

 ミサイルを格納した砲塔が露出し始める瞬間、その、数秒の隙を。

 そして、その時はすぐに訪れた。


「ミゲル! 今よッ」


 アタシは通信機に向かって叫んだ。


 ここは賭けだ。

 まあ、この戦い自体、全てが賭けのようなものなんだけど、その中でも最大の賭け。

 戦い慣れないミゲルにこんな大役を任せるのは不安だったけど。

 そしてアコ、彼女にも。


 だけど、こんな最悪な状況の中で、自ら残ってくれた彼らの想いは信頼に値する。

 彼らに、全てをゆだねるしかない。


 アタシの呼びかけに対して。


 ・・・何の応答も返らなかった。


 その間にも、アタシの命を確実に奪う事の出来る砲塔が、その無機質な脅威を浮かびあがらせてくる。


 ミゲル、・・・どうしたのミゲル!?


 アタシは顔面に、一気に冷たい汗が噴き出した。

 あと数秒。それで相手は発射体制を終える。


 ・・・5、4、3.


 まずい!


 アタシが機体のスロットルを再び上げた瞬間、炎が上がった。


 ミサイルが轟音をあげて放たれる。

 アタシは視界の片隅で、その軌跡を見た。


 炎の矢は、大地から放たれ、そのまま「テンペスト」の下面を直撃した。

 射出体制に入りかけたミサイル砲塔の側面で炎を上げる。凄まじい爆発は、相手のミサイルが誘爆した証拠だ。


 『やったー、ラライさんっ、見てくれましたかっ!!』

 嬉しそうな彼の声が飛びこんできた。

「見たわよ! ミゲル! 最高のタイミングだったわっ!!」


 アタシは喜んで機体を方向転換させた。

 そこで、絶句した。


 ミゲルの乗るモッドスタイプの姿がハッキリと見えた。

 彼の機体は、町の入り口に積み上げられたコンテナハウスの上に立っていた。

 ちょっと、そこって、バカ、誰からも丸見えじゃない。


 アタシは悟った。

 なんでミゲルの攻撃が少しだけ遅れたのか。


 彼は確実性を選んだんだ。

 モッドスのミサイルを確実に当てるために、あえて隠れた場所からじゃなく、相手を視認できる位置に移動して、ミサイルを撃った。


 だけどそれって。

 ・・・。

 それって。


 対地レーザーが降りそそぐのが見えた。

 ミゲルの乗ったモッドスタイプが一瞬で炎に包まれる。


 ・・・・バッカヤロー。


 アタシは心の中で叫んだ。


 命を落とすとわかって、無謀な行動に出た彼に対して。

 そして、こんな無謀な作戦を立てた自分たちに対して。


 ミゲル。

 あなたって奥さんもいたんでしょ。

 好きな人を残して勝手に死ぬのって、そんな無責任なコトはないのよ。


 泣いている暇はなかった。


 追撃型ミサイルは、一門だけではないのだ。

 素早く隠れたアタシの機体を探して、一つ、また一つと、新しい追尾型ミサイルの砲塔が姿を見せ始める。


 もうひと踏ん張りだ。


 アタシは乱れる心を押し殺した。

 押し殺さなきゃ、今度はこっちが死ぬ。


 嫌だけど、ここはアタシという人格を押し殺すしかない。

 今のアタシは。


 ラライじゃない。

 蒼翼のライだ。


 アタシの中で、最後のスイッチが切り替わった。


 アタシ。いや、アタシじゃない。

 今のアタシはライなんだ。



 ・・・・・



 ライは機体をバーストさせて「テンペスト」の視界に踊り出た。


 対地レーザーが方向を変える。

 すでに照準が修正されている。

 普通の人間ならそこで終わる。だが、ライにとって、この程度の放火は慣れたものだ。


「甘いんだよ! この程度の射撃で墜とせると思うな!」


 返事のない無線機に叫ぶ。

 この無線の先に、かつての相棒、リンの姿を見ながら。


 レバーロックの町が焼けていく。

 容赦ない破壊は、いつの日か、この町を気付いてきた人々の目にどう映るのだろう。

 それでも、今は戦うしかすべがない。


「テンペスト」の巨体が微かに動いた。

 トルーダータイプを追う動きだ。


 恐怖の追尾型ミサイルは・・・。

 上手くいった、まだこっちを補足しきれていない。


 よし。

 第二の反撃に移る時が来た。


「アコっ、頼む。今だ!」


 ライは叫んだ。


 ・・ ・ ・ ・


 これまで一言も発することなく、ミゲルとライの言葉を聞き続けてきた彼女が、町の片隅でゴクリと唾を飲み込んだ。

 手にした、小さなスイッチに指をかける。

 今朝、ルナリーに手渡されたスイッチ。


 アコの役目は、安全な位置で待って、指示があった瞬間にこのスイッチを押すだけ。

 何が起こるかも知らない。

 どういう作戦なのかもわからない。


 だけど、大切な役目である事だけは確かだ。


 『アコっ、頼む。今だ!』


 声が飛びこんできた。

 アコは震える指で、小さなスイッチのロックを外し、そして押した。


 ・・ ・ ・ ・


 町のあちこちで、火花が上がった。


 小型のミサイルが次々と射出される。

 中には目測を失い町の中に落ちるものもあったが、それでも幾つかの砲撃は、「テンペスト」の腹部で炎の玉になった。


 上手くいった。


 ライは内心舌をだした。


 今のミサイルは、決して対空用の迎撃ミサイルなんかじゃない。

 いつもルナリーが担いでいた、小型のミサイルランチャーだ。

 レバーロックに残されていた全部のミサイルランチャーを町中に配置して、それを連動で射出できるようにした。

 しかも、幾つかのミサイルにはナパームを追加している。

 それらのミサイルは殆どが発射時に衝撃で爆発したり、「テンペスト」に辿り着く前に誘爆したが、一発くらいはテンペストの腹を焼いただろうか。


 だが、それでもいい。


 今のミサイルの意味は、牽制だ。

 あえて大きな爆発を見せて、こっちに火力がある事を知らしめる意味。

 そして、いくら頑強な船とはいっても、底部に連続する被弾の衝撃は、決して気持ちの良いものではない。


 そうすると、だ。 


「テンペスト」は、回避に出た。


 ミサイルの上がってくる方角を避け、そちらには無作為に対地レーザーを放ちながら、鬱陶しく機銃を撃ってくるライの機体を追ってくる。

 全てがこっちの思惑通り。

 ミサイルの配置も、タイミングも、敵の行動までも全部だ。


 ライは苦笑して、彼女が味方であることに心から感謝した。

 さすがだ。

 多少のブランクなんて関係ない。さすがは「灰色の月」のたてた作戦だけの事はある。


···一方。


身を潜め続けていた「彼女」の視線から「テンペスト」の機体が真横を向き、微かに前に進み始めた。


 この時を待っていた。

 こっちは「動けない」。だったら、相手に動いてもらうしかない。


「角度、距離、ともによし。悪いが墜ちてもらうぜ、テシーア」


 スコープを覗きながら、ルナリーは微笑した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ