シーン26 人類差別はいけません
ジェリコ・ハーディア。
通称、人狼ジェリーはフリーの運び屋だったと、ルナルナは言った。
いや、過去形にするのはおかしい。
彼は現在も運び屋で、まだこの惑星上で働いている。
ただ、レバーロックへ顔を出す事はほとんどなくなって、今はもっぱら、エルドナ鉱山のコミュニティとブルズシティとの間で、小さな仕事を請け負っているとの話だった。
「レバーロックが発展してきたのは、つい最近の話だし、鉱山の事業も、それほど歴史は古くないからね、だから、ジェリーのような個人の運び屋が重宝だったんだ」
ルナルナは声のトーンを落としているつもりだったのだが、それでも周囲で耳をそばだてている連中には話が筒抜けのようだった。
奥の方で「けっ、ジェリーの話かよ」と、だれかが悪態をつくのが聞こえた。
「ジェリーは一匹狼でね、ミドルサイズのトレーラーを家がわりにして、あっちこっちのコミュニティを巡ってた。色々な話題も運んでくるし、その上めっぽう腕もたってね・・・。この星で生まれた若い連中には人気があった」
この星で生まれた連中か。
もしかして、マリアもそのうちの一人なのだろうか。
「親方も、アイツのコトは信頼していた。この町にある何台かのセミプレーンを仕入れてきたのも、そのジェリーさ」
「へえ・・・、じゃあもしかして、マリアにプレーンの操縦を教えたのは」
「もちろんジェリーだよ。マリアだけじゃない、自警隊の殆どが、アイツに戦い方を学んでた。ジェリーはね、レバーロックのコトが気に入っていて、ウチの店に来るたびに、いつかこの町に腰を落ち着けたい、なんてこぼしてたからな」
「なんだ、そんな人が居たなら、アタシなんて必要なかったじゃない」
ルナルナは否定しなかった。
もちろん、その眼は「それとこれとは話が違う」って語りかけていたけど、あえて言葉にはしなかった。
「だが、アイツは行っちまった」
「どうして? だって、まだ近くには居るんでしょ」
「ああ・・・」
彼女の口が重くなった。
どう話すべきか、悩んでいるように見えた。
「そこからは、俺が話そうか」
野太い声が割って入った。
いつの間にか、アタシ達の後ろにアブラム親方が立っていた。
彼は太い腕を胸の前で組んで、四角い額に、深い皺を刻ませていた。
「親方・・・」
「アイツを追い出すような形になっちまったのは、俺にだって責任があったわけだしな」
「んなことねーよ。親方は何もしてねえだろ」
「いや、何もしなかったから、こうなった。つまり、俺の責任だ」
アブラムは椅子を引き寄せ、自らも腰を下ろした。
「ジェリーをこの町から遠ざけたのは、結局のところ、俺達自身だ」
彼の声には、はっきりとした後悔が滲んでいた。
「なぜでやんす? その人が何か悪い事でもしたんでやんすか?」
それまでずっと聞き役に回っていたバロンが訊ねた。
「悪いこと・・・ではねえんだが、この町の人間にとっては、ちょっとばかりナーバスな問題をしでかした」
「どういう事でやんす」
「はっきりと言っちまうとな、マリアと、その、深い仲になったんだ」
「ふっ、深い仲って・・・お付き合いしたってコト?」
アタシは思わず前のめりになった。
男女問題は、古今東西を問わず、そりゃあ興味があるってものだ。
「お付き合いって・・・まあ、そういう事だな。二人の仲が良いってのは、うすうす感づいちゃいたが、その内にヒートアップして、気付いたら男と女の関係になっちまってた」
「男と・・・女」
なんだか生々しい想像をしてしまって、アタシはゴクリと唾をのんだ。
クールで、どこか近寄りがたいマリアの美貌が脳裏に浮かんだ。
男性なんて目もくれないような印象があっただけに、少しだけ意外な気がした。
とはいえ、この世の人間が男と女とに分かれていて、それで社会が成り立っている以上、マリアだって人を好きになる事はあるだろう。
男女が仲良くなるってのは自然の摂理なわけだし、別にどうという事じゃない。
「マリアはこの町で育った」
と、アブラムは話を続けた。
「誰もが小さい頃からマリアを知っていた。それに、ああみえて愛嬌もあってな、自然と、この町のアイドルみたいになっていた」
「へー、確かに見た目は綺麗ですもんね」
「見た目は」ってところを、こっそり強調してみたがスルーされた。
いや、悪意はないが。
「俺はマリアと誰がつき合おうがどうでもいい。だが、そう思わない奴らが居た。・・・というより、町の人間の半分以上がそうだった」
「そりゃいったい、どういう事でやんすか?」
「嫉妬・・・いや、もう少し根深いな」
アタシの隣で、ルナルナがため息をつくのが聞こえた。
「ジェリーとマリアの関係が、町の人間に知れると、途端にジェリーに対する態度が一変した。それまでジェリーに頼んでいた仕事が悉くキャンセルされてな・・・、それだけじゃない、言葉にするのも憚れるような誹謗中傷や、嫌がらせまで起きるようになった」
「なにソレ、信じらんない。町一番のかわいい子が誰かと付き合ったからって・・・」
「そう単純な事でもないんだ」
アブラムはぼりぼりとあごの下を掻いた。
「問題は、マリアがつき合ったのがジェリーだったって事だ」
アタシの頭に?マークが浮かんだ。
アブラムの視線が、アタシを通り越して端に居るバロンに留まった。
「ジェリーは、俺達とは見た目が違っていた。地球系・・・いや、テアードですらなかった。つまりな、異人類種だったんだ」
「んなっ・・・!?」
アタシとバロンは同時に絶句した。
え・・異人類種との恋愛だから、町中に反感をくらったってコト?
人類種差別なんて、そりゃ広い世の中だし、全然無いとは思わないけど、ちょっと考え方が古すぎない?
アタシもカース人のバロンも同じエレスシードを持つ人類だし、多少外見が違ったところで、結局それだけのコトじゃないか。
まあ、正直に言うと。
アタシも以前少しだけ、バロンに対する自分の気持ちに戸惑ったことはあった。
もっと異人類種との交流ついて理解を深めなきゃ、と思ったし、生まれてしまった恋愛感情を正しく飲み込んでいくには、色々と知らなければならないこともあった。
つまり、カース人を好きになるなんて、アタシが変なのか、それとも、こういう感情を持つことは、当たり前にある事なのか・・・をだ。
結論から言ってしまおう。
アタシの出した結論はこうだ。
異人類種を愛する事は、変な事でも、悪い事でも無い。
人の多様性、適応能力が生み出した素晴らしい進化の結果が、こういった形になって結実しただけなのだ。つまり、もとは一緒、本質が変わってしまったわけじゃない。
調べていくと、驚いたことに、異人類種の交配は、率先して行われるべき、っていう識者の声も多くあった。
多人類種の遺伝子を持つ人間は、純粋な人類種よりも適応力や免疫力も向上するし、抗原対応性も上がって、種としての力が高まるっていうのが、最近では通説になっているらしい。
たしかに、異人類種との間に生まれた人間には、アタシが知る中にも、毒に強いレルミーの特性を持つ者がいたりするし、何らかの優位性を持って生まれてくる事があるようだ。
逆に、それが原因で先天性の障害を持つなどの、悪い影響を及ぼしたって事例は、ほとんど耳にしない。
エレスシードで結ばれた人類種同士。
もしかしたら、異人類種っていう言葉自体が、ナンセンスなのかもしれない。
アタシは、そんな風に思うようになっていた。
まあ、そうは言っても。
人類種によっては、肉体的特徴が原因で、自然交配が難しいカップルもいるみたいだけど。
アタシは何気なくバロンを見た。
カース人の彼と、テアードのアタシ。
もし精神的にも肉体的にも、何も問題・・・無いわよね。
肉体・・か。
・・・
・・・・
・・・・・。
やばっ。
ついつい妄想してしまった。
顔がいきなり熱くなって、胸の奥がじんじんと痺れるような感覚がした。
いやいや。
きっと、そういうコトは、まだまだ先の話だ。
情動にそそられたティーンズじゃあるまいし、アタシは一体何を考えてるんだ。
慌てて顔を背けると、ルナルナと目が合ってしまった。
彼女は、呆気なくアタシの心を見透かした。
言葉には出さないが、目尻が楽し気に下がって、口角が上がった。
彼女は桃色の唇を開いた。
「この星の移住者の多くは、かつて地球の内戦を逃げてきた連中なのさ」
店内を埋めた客を見まわし、自身の言葉を確かめる。
彼女の言う通り、九割以上の客が、地球系人類の肉体特徴を持っていた。
「だから、エレスの価値観とは多少ずれている奴が多い。・・・辺境の惑星らしい偏屈な古い概念が根強くてねえ、なあ、その辺は旦那も否定しねえだろ」
指摘されて、アブラムは更に顔をしかめた。
「そうだな。ちなみに、俺は第二世代だから、それほど頭は固くねえつもりだ」
「第二世代ってコトは、この星の生まれなんですね。でも、この町はアブラムさんが開拓したって聞きましたよ」
アタシが言うと、アブラムは気恥ずかしそうに頭を抱えた。
「生まれ育ちはブルズシティさ。だが、どうしてもあの街に骨をうずめる気にはなれなくてよ、それでこのレバーロックに目をつけて移住してきた。俺がやったのは、せいぜいエネルギーを使えるようにして、以前よりは住みやすい場所にしただけだ」
「その言い方だと、アブラムさんが整備する前から、このあたりには人が住んでいたんですか?」
「ああ、町というには程遠いが、何代か前から、開拓は始まっていた」
「じゃあ、それなりに歴史はあるんですね」
「本にしたら三行で終わるくらいの歴史だがな。・・・ちなみに、俺が初めてこの土地に移住した時、先にこの辺りを縄張りにしてたのは、リップロットの爺さんと、マルティエの先代くらいだったかな」
「二人はそんなに前から」
「そうだ、本当の意味でこの町を切り拓いたのは、俺なんかじゃない。だからこそ俺は、彼らの考えを大切にしている。リップロットの爺さんがジェリーとマリアの関係をノーと言った以上、俺はそこに口を出す気はさらさら無かった。・・・良くも悪くもな」
アブラムは空になったジョッキを覗き込んだ。
ルナルナが追加を頼もうとするのを、彼は止めた。
「ともかく、この町じゃエレスとは道徳観念が違う。異人類種と付き合うってのは、特異で、受け入れがたい事だった。その上、女の方が、よりにもよって町でも人気のあったマリアだったから、憎しみがジェリーの方に集中しちまったってわけだ」
「それって、ジェリーって人は何も悪くないじゃないですか」
アタシは声が大きくなってしまった。
それが本当なら、なんてヒドイ話だ。
ルナルナに請われた以上は、この町の為にと思ったけど、なんだか気分が悪くなってきた。
「あんたの言う通りだ」
アブラムは、驚くほどあっさりとアタシの怒りを受け入れた。
「だが、さっきも言ったように、俺には、男と女の話に口を出すつもりも無かったし、それに町の連中が熱くなるのを止める手段だって持ってなかった。結局成り行きに任せていたら、ジェリーは身を引いちまった、というワケだ」
「だからさっき、何もしなかった・・・って。そういうことですか」
出会ったばかりのマリアが不機嫌なのも、事情を聞けばうなずけた。
大好きな自分の彼氏が理不尽に街を追われたにもかかわらず、そのかわりに来た得体のしれないアタシなんかが、無条件で歓迎されているのを見れば、そりゃあ腹も立つ事だろう。
というより。
今の話を聞いた限りでは、マリアは立派だ。
恋人と引き離されるなんて、きっと滅茶苦茶に暴れたいくらい辛いはずなのに、あのぐらいまで自分の感情を抑えているってのは、よほど自制ができている。
もしアタシがマリアの立場だったら、と考えると、自然と指先が震えてきた。
「でも、感心しないでやんすね~」
バロンが口を開いた。
「今どき人類種差別ってのもどうかと思うでやんすけど、何よりも、大切な運び屋を、そんな事で失ったんでやんしょ?」
「結果的には、そういう事になるな」
「それは幾らなんでも不利益でやんすよ」
さすがのバロンもあきれ顔になった。
「たとえ気に食わない事があったとしても、そこはあくまでプライベートの話でやんしょ。あまりにも大人げないでやんす」
「そうね、マリアも、そのジェリーって人も可哀想だけど、この町にとっても、結構な損失だったんじゃない」
アタシ達は声をそろえた。
アブラムは返す言葉が無くなって、ルナルナも、どこかばつの悪そうな顔になった。
二人が黙りこくってしまったところで、突然、またしても横から、新しい声が会話に紛れ込んできた。
「個人の運び屋を一人くらい失っても、かわりに、より大きなものを得れば、それは問題が無いって事ですよ」
あまり馴染みのない軽薄そうな声だった。
はじめてこの町に来た日の夜、少しだけ紹介を受けた男が、気付いたら後ろのテーブルにかけていた。
アブラムよりは若いが、青年というには老けている。
細面に金髪をしゃらりと伸ばして、男はカルツ酒のグラスを掲げた。
「この町はジェリーを失った。けど、かわりに僕達を得た。だから、結果的にはプラスだったんです。・・・ええ」
どことなく気障で、鼻につく喋り方だ。
アタシは一発で、この男に嫌悪感を抱いた。
えーと、ちなみに誰だっけ。
顔は見覚えがあるけど、名前まで覚えていないや。
「サバティーノだよ。ほら、鉱山とこの町の橋渡しをしてるって教えただろ」
ルナルナが小声で教えてくれた。
ああ、そういえば、そんな話を聞いたような。
「サバティーノ&ゴディリー商会の、サバティーノの方です。よろしく、可愛い用心棒のお嬢さん」
サバティーノは軽いノリでアタシにウィンクした。
む。
可愛いだと。
なかなか正直な男だな。
とはいえ、それくらいで第一印象の悪さをカバーできると思うな。
「サバティーノ商会ですか?」
アタシは鉄壁の愛想笑いを浮かべて、軽く首を傾げた。
「ご存じないですか? ほら、すぐそこの辻に店を出しているのですが」
彼は肩をすくめてみせた。
「通りに日用品の店があっただろ」
ルナルナが口を挟んだ。
「ああ、通りの反対側にあったところね」
「そうそう、あそこが彼の店なんだ」
サバティーノはにこりと笑った。
悪人っていうほどの感じではないが、なんだか裏のありそうな顔に見えた。
どうしてだろう。
アタシは人の良さそうな男を見ると、どうしても警戒心を覚えてしまうのだ。
「サバティーノの仕事はそれだけじゃない」
ルナルナは更に説明した。
「鉱夫や仕事の斡旋に、採掘資源の輸送や売却。最近じゃ人も多く抱えてるし、運び屋の真似事もしてるよな」
「へえ~、じゃあ、この町の何でも屋さんって感じなの」
「そうだな、まあ、それなりに頼りになる」
「それなりにってのは、ヒドイですね」
サバティーノは苦笑した。
「何でも屋っていうより、どちらかと言えば、便利屋みたいなものですよ」
微かに自嘲めいた口調になった。
もっとも、その声の奥には、むしろ成功者特有の自信のようなモノが垣間見えた。
「さっきジェリーの事を話していましたよね。確かに、彼も個人業者としては頑張っていました。だけど、これからの発展には組織が必要です。その証拠に、彼が居なくなってもこの町は成長を続けている。結局のところ、組織が整備できれば、困ることはないわけですよ」
僕達が居ますからね。
とでも言うように、彼は胸を張った。
ふむ。
どうやらこのサバティーノという男も、マリアとジェリーの仲を妬んだ一人のようだ。
一見穏やかな表情の下に、彼の別の性格が隠れているような気がする。
話を聞いてみて思ったが、アタシはサバティーノという男が、どうにも気に食わなかった。
いかに彼が有能な商売人だとしても、これだけは言える。
この先、どれほど必要に迫られても、きっと彼の店を頼ることはないだろう。
「サバティーノ」
アブラムが声をかけた。
「お前、明日は早朝からブルズシティに行く予定だったよな」
「ええ、仕入れがありますからね。何か入用ですか?」
「この間頼んだ、ランチャーの補充とな、・・・それに、セミプレーンをもう一台探してくれねえか?」
「プレーンですか、期待薄ですよ。それに、仮に見つかったとしても買えるかどうか・・・予算はどのくらい残ってるんです?」
「ざっとこの位だ」
アブラムは指を4本たてた。
4000万ニートってところか。
同盟圏内なら、中古で十分探せるだろうけど、はたして、この星じゃあどうなのか。
「それじゃあ、軍用は無理ですね、重機型もちょっと・・・。せいぜい装備なしの汎用型が買えるかどうか」
「そこを何とか頼む、この町の為だ」
「探すだけはやってみますが・・」
サバティーノは、ふと何かを思い出したような顔になった。
「ところで親方、一つお願いがあるんですが」
「どうした、俺に出来る事か?」
「ええ、実は明日、今の件とは別に、エルドナに便を出す予定なんですよ」
彼の眼が、一瞬アタシを見た。
何かを思案する目だ。
だが、すぐに思い直したように、アブラムを見据えた。
「鉱山で何人か怪我をしたらしくて、人の入れ替えを頼まれたんです。それは良いんですが、ほら、最近じゃヴァイパーの連中が何かと騒いで物騒だし、ウチで雇っている警備隊はブルズシティの方に回しますからね、出来れば自警隊をつけてもらえませんか」
「エルドナ便か・・・、一機くらいで足りるなら、ビーノをつけてやるが」
「それならありがたい、頼みます」
サバティーノはにこりと微笑んで、それから急に立ち上がった。
どこに行くのかと思ったら、アタシの隣に近寄ってきた。
「本当は貴女が良かったんですけどね」
「は?」
「だって、すごい腕利きなんでしょう。ふふ、それに、どうせなら美人とお近づきになれる方が楽しいし。・・・ねえ」
「こら、サバティーノ、てめえ」
アブラムが辟易したように声をあげた。
「だって、こんな綺麗な娘、この町どころか、ブルズシティに行ったって、そうはいませんよ。僕の目からしたら、マリアよりも上だ。・・・ああ、もちろんルナリーさんは別枠ですよ、特別枠」
「よく言うぜ、この軽薄男」
ルナルナも呆れた顔になった。
「なあラライ、気をつけろよ、こいつ女と見れば口説く奴だからな」
うん。そのようだ。
アタシはそっと、ルナルナを盾にして隠れた。
容姿を褒められるのは大好きだが、誰に言われても嬉しいわけじゃない。
「酷いなあ、僕はルナリーさんだけは口説いた事ないでしょう」
サバティーノは軽口を叩きながら、アタシのコトをまるで獲物でも狙うように見つめてきた。
悪いけど、ごめんだ。
いくら「綺麗」だの「可愛い」だのを並べられても、こうまで下心が丸見えだと、はっきり言って気持ち悪い。
そんなアタシの心も知らず、サバティーノは更に言葉をかけてきた。
ルナルナもアブラムも側にいるってのに、なかなか出来る事じゃない。
「良かったら、お近づきの印に何か一杯おごらせてもらえませんか」
彼はアタシのドリンクを確認して、意外そうに目を細めた。
「あれ、もしかしてお酒は駄目なのかな? それなら、うちの店に美味しいチョコレートドリンクがありますね、良ければ用意しましょうか」
よくもまあ、フランクさを演出するものだ。
悪い人間ではないのかもしれないけど、かといって、こんな誘い文句でアタシが簡単に頷くとでも思ってるんだろうか。
もう、困ったな。
アタシの表情を見て、ルナルナが腰を上げた。
サバティーノを注意するつもりなのだろう。
でも。
なんだかこんな事で、ルナルナを煩わせたくはなかった。
彼女が口を開くよりも早く、アタシはサバティーノに向かって感情を吐いていた。
「ごめんなさいね。アタシ、連れが居るんです」
アタシはぴしゃりと言った。
「え、連れ?」
サバティーノの声がわずかに裏返った。
どうやら、彼の眼にはカウンターの奥に佇む異人類の男性は、人として認識されていなかった様だった。
アタシは立ち上がった。
彼の前をつんとして横切り、それからバロンの隣に立った。
それから、わざとらしくしなを作り、彼の肩にそっともたれる。
サバティーノの口が驚きで半開きになった。
気付けば、アブラムの親方も同じ表情になっていた。
アタシ達の関係を単なる「仲間」だとしか認識していなかったのだろう、唖然とした表情で、確認するようにルナルナを振り返る。
「この人が、アタシのプライベートパートナーです」
「ら・・・ラライさん?」
バロンまでもが、上ずった声をあげた。
ルナルナだけが、なんだか愉快そうな顔になった。
「アタシ達、付き合ってるんです。だから、誘うのはよしてください」
「つき合うって・・・え? そのタ・・・いや、その人、異人類じゃないですか」
「それが、何か?」
アタシは睨みつけてやった。
周りの客たちまでもが、一気にざわついた。
でも、なんだか、それが気持ちよかった。
頭の古い地球人類め。
異人類種と恋愛するのが、そんなに悪い事か。
馬鹿にすんな。
アタシが誰を好きになろうと、誰に文句を言わせるもんか。
こうなりゃ、アタシは堂々と見せつけてやる。
アタシはバロンにしなだれて、茫然とする街の男達に、二人の関係を見せつけた。
不思議な沈黙が生まれ、サバティーノは「はは」と乾いた笑いを洩らしてから、気まずそうに後退った。
「こほん」
と、ルナルナが咳払いをした。
ありがたい、いいタイミングだ。
アタシはバロンにむかって、過去最大級の微笑みを浮かべた。
彼のもともと赤い顔が、一気に上気するのがわかった
「ねえバロンさん。アタシなんだか疲れちゃった、部屋で休まない?」
「そ・・・そそそ、そうでやんすね」
アタシの声がセクシー過ぎたのか、バロンはこれまでになく緊張した声になった。
こら、バロン。そこはしゃっきりしてよ。
思ったが、笑顔で腕をからめた。
席を立ち、並んで階段へと向かう。
「ごゆっくり、明日から自警隊の訓練よろしくな」
ルナルナの明るい声が飛んだ。
アタシは振り向いた。
彼女は、どうやらアタシの心情を感じ取ってくれたようだ。
魅力たっぷりのウィンクが、アタシ達の背中を見送った。




