103 ラスト・シンデレラ
アダムの腕がイオリに伸びる。
ネブラスカの時と同様、イオリの首はガッチリとホールドされ身動きが取れない状態にされてしまった。
「テメェ、殺す、ぶっ殺してやる…!」
「正直、焦ったよ。めちゃくちゃ焦った。ボクの残基がここまで減らされたのは初めてだったからね。だからこうするしか無かった。残りの残機全てで肉体を強化しないとおよそこうしてお前を絶望させることは出来なかっただろうからね」
アダムは薄気味悪い笑みを浮かべてにい、と口角を上げる。
「ま、どうせ終わる世界線だ。このまま殺してやるのも良いが、もっと痛めつけた上で殺してやるよ」
「死ぬのはテメェの方だ!!」
イオリはずるりと背中から6本の触手を生やすと、纏めて巨大な一つの腕に変えてアダムに勢い良く殴り掛かる。
しかしアダムはまるで聞いていないのかケロリとした表情でイオリに問いかける。
「…なんだこのなまっちょろいパンチは?さっきの勢いはどうした?…ああそうか」
アダムはどこか納得したような表情でイオリに笑いかけた。
「お前、これ魔法だろ!ああ、通りで痛くない訳だ!ボクの中の書庫に情報がない訳だ!いや待てよ?ならさっきの攻撃はなんだ?あれは…」
しばしアダムは考え込む仕草を見せるが、納得出来る結論は出なかったのか被りを振って、巨大な腕でイオリを宙に放り投げる。
「まいっか!考えんのも面倒臭いから君もう死んでいいよ!じゃーね!」
気付いた時にはイオリの眼前にその腕があった。宙にいることもあり回避行動する隙すら与えて貰えない。
ーー無力。
ただ頭をよぎったのはその2文字だった。
…これで、終わりなのか。なんて、なんて呆気ない終幕ーー
だが。
ガチィン!!
「…なんだ?」
何がに弾かれるように、逆にアダムの腕がひび割れ、イオリは無傷で地面に投げ出された。
「げほっ、げほっ…」
「(なんだこの感触。ダイヤモンドでも殴ったみたいに硬かった。…どういうことだ?)」
確認と言わんばかりにアダムは追撃の拳を何発もイオリち浴びせ続けるがまるでイオリに外傷は無い。それどころかアダムの腕が傷つく一方でーー
「そうか…そうかあの女、余計なことしやがって…!」
何かに勘づいた様子のアダムは、頭の中の書庫にアクセス、そして一つの結論に至る。
「埃被り硝子姫改め【12時過ぎの裸足姫】。覚醒した天司の弾丸、分岐した第四段階目。能力は自身が死亡した場合にのみ【任意の対象への絶対不可侵の強制】…クソ!厄介な置き土産残しやがって…!!」