100話 焼け焦げた絵本
とある地下施設。
「さて今日も今日とて犯罪者共の実験と洒落こみたいんですが…」
ガチン、とそれまで食んでいた串焼きを噛み切り、目の端をひくつかせて後ろを振り返る。
「お?どうした怪訝そうにこっち見て」
豪快な髭面を撫でながら男は自身を鬱陶しそうに見る枯れ木のような男を見て、笑う。
「いやいやね。アタクシたちのとこに黒十字サマがいらっしゃるなんて前例が無いことですから、彼は緊張しているんですよ」
「なーに。そんなガチガチにならんでも良いさ。先にお前らの主人に粉かけて無理に見学させて貰ってんのは俺なんだからな」
「一応〜〜極秘の秘匿施設って扱いなんですけどね、区画24…」
「マァマァ。良いじゃありませんか。どうぞコチラへ」
シラミのよく飛ぶ白髪頭を軽く下げ、男は椅子へ視線を移す。
「おう、悪いな。そういやさっきからお前が食べてるそれ、なんだ?余ってたら俺にもくれよ」
「ああ〜〜毒犬の肝臓の串焼きでさあ。滋養強壮に良くてね。どうぞ」
男は恐る恐る頬張った途端口に広がる苦味にうげ、と漏らし白髪頭の男へ目をやる。
「…んで、残紙の拳とやらの完成は近いのかい?」
「へっへっへ…。同じ研究職につく同士、あまりあっけらかんと教える訳には行きませんなDr.アルコー。特に良い噂は聞かない貴方にはね」
「そうっすねえ〜〜シンブンに出てましたよね?アンタがグロい死に方して殺されたっていう記事。なんで五体満足なんです?」
「へっへっへ…そいつは企業秘密よ…と言いたいとこだが…ま、知っての通り俺の専門は死霊魔術でな。ついこのあいだ半不死になった所なのよ。ま、娘たちを何体か犠牲にする必要はあるがな」
「あら?そういやその娘さんは今日お連れでないので?」
枯れ木のような男に聞かれると気まずそうに目を伏せ鼻を明かしながら男は答えた。
「ああ。俺のネブラスカの一つが今連絡が取れない状況でな。一体居ないと全端末が起動不全を起こしちまうんだ。ま、おおかたアダムのとこにいるだろうから、多分そのうち帰ってくるだろ」
「アダム…?ああ、家族教とかいう新興宗教のとこにいる亡冠の手駒ですか。ありゃ確か元遺失物の一体じゃ無かったでしたっけ。12本しかない仙木の一つを人化するとは本当に何考えてるんだかあのメンヘラお嬢さんは」
「ま、それはそうと。今日はお前らにその遺失物の一つを手土産に持ってきてやってな」
その予想外の申し出に二人は別々のリアクションを取る。
「おおっ!」
「ええ…」
「おや、嬉しくないのですか西クン」
「そりゃそうでしょ轢瓦サンさ。仕事が増える訳だぜ?ため息の一つもつきたくなるもんですよ…まあいいや。それじゃドクター、その遺失物、見せてもらっても宜しいですか?」
するとアルコーは懐から火事にでもあったのか焼けた1冊の薄い本を取り出した。
「…絵本…ですか?」
「ああ。取り敢えず中身をみてくれ」
「どれどれ…」
白髪頭を掻きながら男は絵本をめくると、そこには意外にも綺麗に残った中身と文章がすらすらと書いてあった。
しかし。
「…申し訳ないですが専門外ですな。考古学はさっぱりなもので。まるで何が書いてあるのか分かりません」
その言葉に西は思わず仕事が減ったことに安堵し胸を撫で下ろす。
「いや中身は俺がもう解読した」
「は?」
「え?」
「この区画の遺失物の一つに創作物を具現化する万華鏡があっただろ?確かお前らの権限ならそいつを使ってこの絵本の中にいる登場人物を具現化させて人物像を特定させられるよな?」
「は、はあ…まあ可能ですが…。しかしそれにも万華鏡自身に創作物を読み込ませる必要があります。アタクシ自身が中身を知らないでそれをやると言うのも…」
「しかもアイツめちゃくちゃ気分屋な上にヨイショしてやんないと仕事しねーーんすよね…」
「はあ…これここだけの秘密な。一応遺失物の持ち出しは絞首刑モンなんだからよ」
アルコーは眉をひそめてため息をした後、ぼつりぽつりと絵本の内容を語り出した。