99話 "星の悪魔"
「6回、これがなんの数字か分かるかい?」
「!?」
ネブラスカは驚き背後を振り返る。
そこには億劫そうで、しかしてどこか嬉しそうなアダムがいつのまにか地面に腰かけていた。
「正直、疑っていたよ。どの世界線の君も決して天司の弾丸を使おうとしなかった。ママの命令が無ければきっとこの役目をボクは放棄していただろう」
「その口ぶりから察するにお前はタイムリープでもしてるのか?…そんな能力者までいるのか」
「ボクはありとあらゆるリングを使役できる。神だからね。でもイオリ。これで終わりかい?報告にあった鎧武者にはならないのかな?」
「そうか。…お前には俺が今どう見えてる?」
「……質問の意図が分からないな…恐怖で錯乱でも…」
違和感。瞬間アダムは両耳を抑えた。
ぱんっ、と何かが弾ける音。目の前の小娘と『新型』が何かを喋っているが何も聞こえない。
何故だ。意味が分からずにそっと両耳から手を離すと、べっとりと両手を覆う血に目を丸くした。
途端、鈍痛。右頬にゆっくりと鋭い痛みが走る。
そして気付いた。自身の鼓膜が破れていた事実に。
右頬を貫きかねない衝撃に頭が『殴られた』と直感したその瞬間、アダムの身体は大きく吹き飛んでいた。
殴られた頬は衝撃を緩和させ切れなかったのか、皮膚ごと歯茎が外皮を突き破っていた。
アダムの身体はゴムまりのように跳ね、地面に投げ出されたと認識したと同時に今度は腹に鋭い一撃。
見えない。
イオリシンの姿が見えない…!
「ごはぁ…ッ!?」
ヤバイ、死ぬ。次の身体に乗り移れ、早く!!
ゆっくりと息の途絶えたメイリンの背中が裂け、中からアダムが現れる。
だが。
「そこか」
メイリンごとイオリはアダムを叩き潰した。
「(マジかこいつ)…!?」
「さあ、次はどっから出てくる?アリスか?ジプシーか?いいぜどっからでも。モグラ叩きみたいにプチプチプチプチ一匹ずつ潰してやるよ。ほら、祈れよアダム。それでお前のいうママが助けてくれるかもしれないぜ?」
その時見た。星空の下に立つ、まるで悪魔のような姿をしたその男を。
足は毛むくじゃら、頭には巨大な山羊の角が生え、筋骨隆々のその体躯は漆黒。胸の中心には遠い昔に見たとある刺青。
その刺青の記憶の在処に気付いた途端、アダムは腰を抜かす。
「な…なんで、なんでお前が…お前らが…!」
「『お前ら?』…何言ってんだお前」
「死んだ筈だ、生きている訳無い…!だって殺した筈だ!全員あのいけすかない勇者に殺された筈だ!」
アダムは息を呑んで震える指先でイオリの胸の刺青を直視した。
「なんでお前らがここにいる!?世界を滅ぼした"星の悪魔"が!!」