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私と玉彦の正武家奇譚~学生編~  作者: 清水 律
第一章 わたしと玉彦の四十九日間
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5


 私は夏子さんに二階にいると声を掛け、ちょっと軋む木造の階段を上がった。


 お祖父ちゃんの家はとにかく古い。

 でも夏子さんのおかげか手入れは行き届いているので、汚い感じはしない。

 映画で見るような、古き良き日本家屋だ。

 二階にある突き当たりの部屋の襖を開くと、日差しが窓から差し込んでとんでもない暑さになっていた。

 私は部屋の窓を全部開け放ち、外の空気を入れる。

 この部屋は元々お父さんの部屋で、私が今回ずっと使う部屋でもある。

 部屋は整然としていて、机や本棚はあるけれど主の気配が無くて、最初は入ってはいけ無い感じがした。

 けれど一晩そこで過ごすと不思議とそんな感じがしなくなったのは、なんでだろう?と思う。


 叔父さんに言われた通り本棚を物色すると、すぐに数冊のアルバムが見つかる。

 手に取ってページを捲ると、お父さんが赤ちゃんだった頃のものだった。

 お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも若い。叔父さんはまだ登場しない。


 私はお父さんとあまり話したことがない。

 嫌いって訳じゃなくて、とにかくお父さんが家に居ないのだ。

 だからお父さんが帰ってきた時には、ここぞとばかりに機関銃の様に話をするのだけど、思い返せば私が話をするばかりで、お父さんの話はあんまり聞いてなかった様に思う。


 アルバムの冊数が進むたび、写真の中のお父さんが成長していく。

 子供の私が言うのも何だけど、お父さん、イケメン。

 優等生風で爽やかな感じ。

 笑うと見える八重歯はそのまんまだ。


 そして小学生くらいの頃から、その横にはもう一人のイケメンが。

 少しくせ毛の若干タレ目さん。

 優しいふんわりとした雰囲気。

 どうやらお父さんの親友らしく、お父さんがこの村を出る高校生の時まで彼は一緒に居た。

 写真の中には、知らない女の子と仲良く写っているのも何枚かあって、私は見なかったことにする。


 そして最後のページにあったのは、お父さんと親友と、その間にはにかんで立っている三つ編みの女の子の写真だった。

 高校の卒業式らしいその写真には、珍しくお父さんのコメントがついていた。


『川下っちと澄彦と』


 私は目が釘付けになった。

 あのイケメンは澄彦さんというのか。じゃなくって。

 川下っちって、まさか昨日来てくれた人なんじゃ……。


 同じページには他にも何枚かあって、その中の一枚にまた目が止まる。


 これって、昨日お祖父ちゃんが手を合わせていた石段だ。

 そこにはお父さんと、着物を来た澄彦さんが並んでいた。

 そして写真には続きがあった。

 多分これはお父さんがシャッターを切ったんだろう。

 石段を上り、途中で振り返り手を振る澄彦さん。


 お父さんのアルバムはそこで終わっていた。


 私は疑問を抱えながら、アルバムたちを本棚へ戻す。

 昨日村長さんの奥さんが言っていた、川下さんにちょっと優しくしたって言うのは一緒に写真を撮ったことなんだろうか?

 てゆうか、写真撮ったくらいで優しくしたとかっていうかなぁ。


 そして澄彦さん。

 彼の家は、あの石段の上にあるんだろうか。

 昨晩の歓迎会の時に澄彦さんは居なかった。

 お父さんの同級生も来ていたから、居たとしてもおかしくはないんだけどなぁ。

 もう村には居ないのかな?


 悶々としながら階段を下りて茶の間に向かうと、夏子さんがテレビの前に座椅子を移動してうたた寝をしていた。

 何となく起こすのも悪いと思ったので、そのまま麦わら帽子を被って外に出る。

 行くあてなんて無かったけど、なぜか私の足は石段のある方へと向いていた。

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