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私と玉彦の正武家奇譚~学生編~  作者: 清水 律
第一章 わたしと玉彦の四十九日間
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4


 翌朝。


 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんと叔父さんはもう仕事に出掛けてしまったので、夏子さんと一緒に朝食。

 昨日の御馳走の残りを食べつつ、他愛もない会話を楽しむ。

 大体が私の話ばっかりだったけど。

 その話の中で夏子さんは初めから村の人ではなかったこと、そして昨日の様に村の暗黙の了解の意味がいまだに良く解からないこと、お祖母ちゃんとの嫁姑問題が全く無くて良かったこと、そして私が来たので朝がゆっくりできて助かることなどを話してくれた。

 夏子さんは今妊娠中で、何となくお腹がふっくらしているのがわかる。

 いつもなら夏子さんも仕事に出るのだけれど、私が来たので、今日から子供が生まれるまで産休になったみたい。


「だからね、比和子ちゃん様様よ~」


「そんなことないです」


「ほんと言うとね、私朝がすっごく弱くて。最近妊娠のせいか眠気も酷くってね。でも皆頑張ってるのに、私だけお休みくださいなんて言えないでしょ。そんな時に比和子ちゃんが来てくれてお休みの予定が早まって。ナイスタイミングよ!」


 そう言って夏子さんは親指を私に立てて見せた。

 夏子さんとは何度か親戚の集まる席で会ったことがあったけど、こんなに気さくな人だとは思わなかった。

 いつも集まった皆の為に裏方の仕事をしているイメージだったから。


「これを機に、家の中の気になってた細かいとこの掃除とかできるし頑張るわ!あ、比和子ちゃんは好きなことやってて良いからね~」


 お休みと言いつつ家のことをしようとする夏子さんを私は尊敬する。

 好きなことをやってと言われても何もすることないから手伝うと私が言うと、夏子さんは大丈夫よ~と家の縁側を指差した。

 そこには大きな麦わら帽子と赤い水筒が置いてあった。


「午前中は涼しいから、近所を探検してくるといいわ」


 探検って……。

 私もう中学生なのに。

 でも私は朝食の後、夏子さんに言われた通りに紫のリボンがついた麦わら帽子をかぶって水筒を斜め掛けにしてお祖父ちゃんの家を出たのだった。




 何もない。


 いや、道路とか無駄に大きな家とか、畑はあるけど。


 あと山も森もあるけど!


 私が楽しめるようなものは何もなかった。


 ただ途中、小学校と中学校が一緒になっている学校は見つけた。

 校舎は私の学校と同じようなコンクリートの造りで、赤く丸い屋根の体育館が印象的だった。

 せめてあの学校の、図書館にでも入れたら良かったのに。


 そうして徐々に暑くなってきて、ポケットに入れていたスマホを見ると、もうお昼だった。

 一度家に戻ると、夏子さんが皆のお昼を作っていたので手伝う。

 お昼は冷やしラーメンだった。

 裏の畑で採れたキュウリや、鶏小屋から朝持ってきた玉子が思いのほかすごく美味しくて、暑さで食欲があんまりなかったけど、全部平らげた。


 食後。


 茶の間の横の、ぽかぽかした縁側でゴロリと横になり煙草をくわえてお祖父ちゃんが、同じく縁側でゴロリとする私の頭を軽く撫でる。


「なんか面白いもんでもあったか~?」


「なーんにもないよ」


「まぁ、そうだろうな」


 会話が終わる。

 ここに住んでいるお祖父ちゃんが、そうだろうなと言うことは、やっぱり何も面白いものはないんだと納得する。


「せめて学校が夏休みになったら、隣の亜由美ちゃんがいるのにねぇ」


 夏子さんが台所のダイニングテーブルのイスに座り、うちわを片手にこちらを見た。


「学校っていつまでなの?」


「たぶん七月二十日前後だとは思うけど、どうだろうね~」


 夏子さんはどっこいしょと立ち上がり、台所に立った。

 お祖父ちゃんは大きく伸びをしてから、トイレ。

 そして叔父さんは、灰皿に煙草を押し付けるとこちらをゆっくりと見た。

 叔父さんは物静かな感じで、こっちに来てからも挨拶くらいしかまだしていない。


「二階の兄貴の部屋の本棚に、アルバムあるから見てみるといいよ」


「お父さんの?」


「そう。面白くないかも知れないけど、暇つぶしにはなる、と思う」


「わかった。見てみる」


 叔父さんは戻ってきたお祖父ちゃんと一緒に外に出て行く。

 そういえば……。


「夏子さん。お祖母ちゃんって?」


「あぁ。お義母さんね」


 夏子さんは苦笑いして、振り返る。


「村長さんの奥さんの所よ。昨日の、川下さんの話をしに行ったんだと思うわ」


「井戸端会議的な?」


「それくらい可愛いものだったらいいんだけどねぇ……」


 言葉を濁す夏子さんを見て、私はちょっと嫌な気分になった。

 夏子さんにじゃない。

 お祖母ちゃんと村長さんの奥さんにだ。


 私のクラスの女子にも、集まっては他の人の悪口を言ってる子たちがいる。

 ひそひその時もあれば、わざと聞こえるように言う時もある。

 正直、何が楽しいのかわからない。

 一人の子に大勢で悪口を言うのは、卑怯だと私は思う。

 だから私は、そんなグループには入らない。

 だってあの子達は、その時に居ないグループの子の悪口を言っているから。

 そんなの、本当の友達じゃないと思う。


 こんなこと言ってると私はクラスで変わり者扱いを受けると思うかもしれないけど、そんなことは全然ない。

 自分で言うのも何だけど、私がいつも仲良くしている子たちの方がクラスの中心にいるから、私も自然に中心にいる。

 その子たちは勉強が出来たり、スポーツが出来たり、どこか一つ何かに秀でていて、私の親友の小町なんて、その名の通りめっちゃ可愛くて性格がいい。

 私はというと、勉強は上の中。スポーツも上の中。

 でも先輩後輩含めての人脈が面倒なくらいある。

 それは小学校の時に児童会の役員をしていたせいで、中学校に入学してからは、主にその先輩たちから目を掛けてもらっていたりする。

 で、この夏が終わったら生徒会入りすることが決まっている。

 一年生からは二人、選ばれることになっていて、私は会計として声を掛けられた。

 もう一人は副会長として、嫌々ながら引き受けたみたい。

 その一人っていうのが、家のお隣の須田守くん。


 守くんは、私の現在進行形の初恋の人だ。


 私の名字の一文字が彼の名前になっていて、小さい頃は守くんと結婚したら、上守守になるのかなぁと思っていた時がありました。

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