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私と玉彦の正武家奇譚~学生編~  作者: 清水 律
第一章 わたしと玉彦の四十九日間
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たまひこ


 朝から電車に揺られて、数時間。

 駅に到着してから、バスで一時間。

 田舎の緑の山は、深くなるほど黒く見えるのだと私は初めて知った。

 そして窓に映る、真っ黒い髪を頭のてっぺんに丸めて前髪を横に流し、ちょっとつり目で奥二重の不貞腐れた女の子は誰であろう、私だ。

 丸い感じのお母さんとは違い、細身のイケメンなお父さんに似ているお陰で、生まれてこの方ブスと罵られたことはない。

 けれど、代わり映えしない景色同様に見飽きた顔である。




 山間を抜けると、目指すお祖父ちゃんの村に到着。

 バスはこの村のバス停のロータリーをぐるりと回り、お客を乗せずに来た道を戻っていく。

 もう夕方近くなってしまったバス停で、私はひとりぽつんと木のベンチに腰掛けた。


 足元に二つのスポーツバッグを置いて、お祖父ちゃんのお迎えを待つ。


 到着する時間がわかっているんだから、先に来てくれているものだと思っていたけれど、私の予想に反してお祖父ちゃんは居なかった。

 誘拐されたらどうしてくれるんだと思いつつ、辺りを見渡して乾いた笑いだけが漏れた。

 バス停の周りには何もなく、強いて言うなら道路があって、この村唯一の公共の乗物だというバスの停留所なのに、コンビニもなく、自販機すらない。

 もちろん誘拐犯すらいる気配もない。


 私は駅で買った、もうすっかり温くなった緑茶に口をつけて飲み干すと、大きな溜息が出てしまった。


 最悪だ。

 こんな田舎で、夏休みを送るなんて。

 私が住んでいるところよりは涼しくて、湿気がないからむわっとしないのは良いけどさ。


 おもむろにリュックからスマホを取り出すと、予想に反して使える状態だった。

 こんなとこなのに、使えるってすごい!

 私はすぐにお祖父ちゃんの家に電話をし、電話に出たお祖母ちゃんに到着したと伝えるとお祖父ちゃんはさっき出たから、もう少しで着くよと教えてくれた。


 それから私は何をするでもなく、ベンチで呆けていた。


 帰りたい。


 電話からしばらくして、遠くから車が近づいてくる音が聞こえた。

 村の方を見ると、軽トラがこちらに向かってきている。 多分間違いなくお祖父ちゃんだ。


 私は立ち上がり、荷物を両手に抱え、乗り込む準備をする。


「おぉ比和子、大きくなったなぁ!」


「去年美千留ちゃんの結婚式の時に会ってるじゃん。そんなすぐには変わらないよ」


 軽トラの窓全開で、お祖父ちゃんが大声で話しかけてくる。

 私はお祖父ちゃんに言われたとおりに軽トラの後ろに荷物を置き、助手席に座る。

 シートベルトを締めると、軽トラはガタゴトしながら発進した。


 お祖父ちゃんは、お父さんのお父さんで、この村にずっと住んでる。

 そのまた上のもっと上の、もう何代前かもわからないご先祖様の時代からこの村にいるらしい。

 本当はお父さんもお祖父ちゃんの跡を継いでこの村に残るはずだったんだけど、お父さんの弟の光次朗叔父さんが跡を継いでいる。

 ちなみにお祖父ちゃん家は、野菜や米を作り、いくつも所有している裏山でも何かをしているみたいだけど、私は詳しく知らない。


「今日から比和子が来るから、みんな家の掃除で大変だったんだぞ~」


 そしてお祖父ちゃんは無駄に声が大きい。

 ひょろりとして背の高いお父さんとは違って、お祖父ちゃんは小柄でがっしりしていて色黒だ。

 きっといつも外で仕事をしているから。


 お祖父ちゃんの話を聞き流しながら、私は窓の外の代わり映えしない景色にうんざりしていた。

 時々畑に囲まれた家があるくらいで、緑、緑、緑。

 地球が温暖化しているというけれど、ここは無縁だと思う。


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