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私と玉彦の正武家奇譚~学生編~  作者: 清水 律
第一章 わたしと玉彦の四十九日間
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はじまり


 どうやら私にこの夏、弟が出来るらしい。


 そして父は海外出張で不在、母は早期出産の為病院に入院。


 入院には叔母が付き添い、中学生の私は家に一人きりで留守番をするという信用もなく、夏休みを少しだけ前倒しして、父方の田舎のお祖父ちゃんの家に預けられることになった。


 一人きりでも留守番くらい出来るのに、最近は物騒だから、とか、食事はどうするの、だとか。


 そんなの、お金があればどうにかなるよ!って言ってみたけど、そのお金を盗まれたらどうするのって。


 そんなの、警察に行くに決まってるじゃんか。


 結局私の無駄な抵抗は初めから無かったかのように、田舎へ行く準備や根回しは進んで。


 私は夏休みに友達と約束していたお泊り会とか、夏祭りとか、花火大会とか全部キャンセルになってしまった。


 ぶすくれて田舎へ行く前日、お母さんの所へお見舞いに行くと苦笑いして迎えてくれた。


 ひとしきり私が愚痴を言ったあと、それまで笑顔だったお母さんは神妙な顔をして背筋を正した。


 そして。


「比和子、いい? お祖父ちゃんの家に行ったら、ううん。お祖父ちゃんの村へ行ったら、必ず『しきたり』は守るのよ? どんな小さな事でも破ってはダメよ」


「なにその『しきたり』って」


「あなたはお祖父ちゃんの家に行ったのは小さい頃だったから覚えていないだろうけど、入ってはいけない所や、見てはいけないものとか色々あってね」


「どうせ古臭い言い伝えとかでしょ」


「比和子。お母さん、本気よ。もし『しきたり』を破ったら……」


「破ったら?」


「あなたはもう『こちら』には戻って来られない」


 お母さんの言葉に、一瞬悪寒が走る。

 今どきそんなこと、あるわけない。


「じゃあなんでそんなところに私を預けるのよ。家に居た方が安全じゃん」


 私の当たり前の反論に、お母さんは困ったように大きな溜息をついた。


「私もそうあの人に言ったんだけど、頑として譲らなかったのよねぇ……」


 お母さんのいうあの人とは、お父さんのことだ。

 生まれてこの方十二年。

 お父さんと過ごした日々は三百六十五日にも満たないかもしれない。

 人見知りが激しかった幼少期、帰って来た父を見て、知らないおじさんが泥棒に来たって私が大泣きしたのは、今でも鉄板の笑い話だ。


「しかもよりによってお祖父ちゃんの田舎だよ!? 携帯の電波もないし、コンビニだって、遊ぶとこだってないんだよ!?」


 そもそも遊ぶとこがあったとしても、一緒に遊べる友達なんてそんなとこにはいないのだ。

 口を尖らせて文句を言う私に、お母さんは心底同情したように頷く。


 でも。


「夏休みの間だけよ。お祖父ちゃんの所は田舎だけれど、自然がいっぱいあるから楽しんでいらっしゃい」


 あ~あ、さらば私の貴重な夏休み。



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