鷹司莉音は厨二病 ~魔眼はまだ無い少女の異世界生活~
※こんな感じの話が書きたいなぁっていう、メモ帳代わりだから短いです。
鷹司莉音は厨二病患者である。魔眼はまだ無い。
どこで教育を間違えたか親はとんと見当がつかぬ。
『説明は後で、今は僕を信じて着いてきて──』
『ほわぁ……!』
何でも物心ついた時に歳の離れた従兄弟が見ていたアニメの糸目の優男(CV.石〇彰)や、花の魔術師(CV.櫻〇孝宏)というキャラに瞳を輝かせながら見ていた事だけは記憶している。
『……ふふ』
鷹司莉音はここで始めて〝妖しい魅力〟というものを見た。
しかもあとで聞くとそれは厨二病という人生の中で一番未来に与えるダメージの大きい難病であったそうだ。
この厨二病というのは時々その人に想起させては羞恥心を逆撫でるという話である。
しかしその当時は何ともレベルが低かったから両親は子どもの遊びと見て、別段おかしいとも思わなかった。
『ちっこくのほみゅら!』
『ぐ、ぐわー! やられたー!』
『まこうのてんせいたいであるわたちにかなうとおもうてか!』
まだ幼かった鷹司莉音のたどたどしい言葉に騙されて、一緒に遊ぶ時に何だか背中がむず痒い感じがあったばかりである。
『──The man who has no imagination has no wings』
『り、莉音……?』
掌に包帯を巻き始め、執拗に海外の諺を引用し始めたのがいわゆる厨二病というものの本格的な発症であろう。
この時の両親には自身の黒歴史が走馬灯の如く駆け巡った感じが今でも残っている。
『怪我でもしたの……?』
『か、母さん、多分今度はミイラごっこだよな! な! 莉音!』
『……ふっ』
『『……』』
第一怪我をもって始めて使用されべきはずの包帯を全身にグルグルと巻き付けて、これではまるでミイラだ。
その後も元凶である従兄弟にもだいぶ逢ったがこんな片輪には一度も出会わした事がない。
『もう! 中学校に入ってから始めての家庭訪問だっていうのに自分の顔に落書きなんかして!』
のみならず顔の目を中心とした部分がカラー油性ペンで前衛アートと成っている。
そうしてその前衛的な絵柄から時々どこで購入したのか分からない眼帯で隠される。
『──予見眼っ!』
『『……』』
どうも魔眼ぽくて実に弱った。
これが鷹司莉音の望む格好というものである事を、両親はようやくこの頃知った。
「こらっ! 莉音! 怪我もしていないのに包帯なんかして──って何よこの落書きはぁ?!」
と、そんな鷹司莉音も今では立派な女子高生──に成長しているのは身体だけで、彼女の両親を悩ませる難病は未だ治る兆しを見せてはいなかった。
それどころか重症化していく始末である。
今日も今日とて朝早くに起きたにも関わらず、厨二病メイク──本人曰く正装であり魔術礼装──をしていた為に遅刻ギリギリで二階の部屋から降りて来た自分の娘に対し、母親が目を吊り上がらせながら無駄な腕に巻いた包帯を剥ぎ取り、そこから出て来たお世辞にも上手いとは言えない落書きを見て叫び声を上げる。
「ほう……我が聖痕を見破るとは、さすがは我を現世に産み落とした母体よの」
「もう嫌ァァァァァアア!!!」
そんな自身の母に対し、関心したという風に片眉を上げながら感嘆の息を吐き、空中で林檎を持つような手で顔を覆いながらというポーズとった自身の娘の口から出た言葉にとうとう母親は泣き崩れてしまう。
「しっかりするんだ母さん! 病院の先生にも一過性のものだって言われただろ!」
「そう言ってもう十年は経つじゃないっ!!」
もはや主治医は鷹司莉音ではなく、その母をカウセリングする事を主題としているらしかった。
「では御母堂よ、我は往くぞ」
「その呼び方やめてっ!!」
実の母の悲痛な叫び声を背景に、もう冬も終わり暖かな春だというのに首に巻き付けた無駄に長いマフラーを『ばさぁっ!!』という効果音と共に翻しながら家を出る。
「今年もこの時期か──現世の時の流れはいやに早いものよな」
意訳するならば、『今年ももう春かぁ、時間が流れるのはあっという間だね』という事を呟きながら手を日差しにかざしながら目を細める鷹司莉音。
言っている事は馬鹿馬鹿しいにも程があるが、それをやっているのが飛び切りの美少女であるが為にいやに様になっているのが唯一の救いである。
「──ほう、定命の者らは相変わらず生き急いでおるな」
「鷹司莉音、遅刻っと……」
遅刻ギリギリなのにも関わらず『理を超越せし魔女は優雅たれ』という信念の下、優雅な足取りで登校した彼女は案の定と言うべきか……遅刻したらしい。
『ばさぁっ!!』という音を響かせながらマフラーを翻し、着席する鷹司莉音に慣れた様子で担任は名簿に印を付ける。
「おい見ろよあのマフラーの長さ……床がピッカピカじゃねぇか」
「新型のル〇バじゃね」
「マフラーの先端汚ったな!」
「なるほど、今日は魔女ロールなのね。把握」
そんな彼女を見ながらクラスメイト達は各自席の近い者たちと囁き合う。
もはや彼らは鷹司莉音の奇行を風物詩として楽しんでいるらしく、ある程度のサイクルで変化するらしい彼女の厨二スタイルを口調や格好から推察したりしている。
ある者はマフラーの異様な長さに驚き、 その結果として引き摺られたマフラーの先端の汚さに声を上げる。
「今宵の難事を乗り越えれば栄光が訪れるであろう」
「また何か言ってるよ」
「今日の学校が終わったら楽しみがあるって事じゃない?」
「なるほど」
ブツブツと何かを呟く鷹司莉音と、それを翻訳するクラスメイト。
(よし! よし! 今日の学校が終わる頃には届いてるよね!)
そしてその翻訳は見事正解であった……この日、鷹司莉音が『アナザー・ソウル・オンライン』の世界に降り立った。
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本文でゲーム世界に降り立ってねぇじゃねぇか!っていうね。
まぁでも、だいたいの雰囲気は掴めるんじゃないかなって思います(言い訳)