夢かな?
ミカサは、気が付くと東京にある、自室のベットで寝ていた。
「夢…?」
あの剣の様な杖が刺さった、お腹の辺りに、自然と手を運ぶ。
「…ふぅ」
何も無い。
一体、何だったのかしら。
そう思うミカサだったが、時計を見ると出社時間が迫っていることに気付く。
「…えっ!やばっ!」
ベットから飛び起き、窓のカーテンを勢いよく開く。
眩しい朝日が、部屋に差し込む。
筈だった。
窓から見える景色は、枯れた木と、細い月明かり。荒廃した街並み。
そして、ネフロス城であった。
「…なんなのよ…これ…。私、まだ夢を?」
すると、窓の右下を小さな肉球がついた、獣の手の様なものが、叩く。
「お目覚めですか?!ミカサ様」
手と声は存在するものの、姿を見せない存在。
その事が、余計にミカサの不安を煽る。
「…?!」
窓から離れ、返事もしないミカサ。
小刻みに震えながら、後退する。
しかし緊張からか、周辺への配慮は無く、小さな2人がけの椅子に引っかかり、上に置いてあるアクセサリーの腕輪を、床へ落としてしまう。
その音を聞き、外の存在は、ミカサへと確実に語りかけて来る。
「ミカサ様!おはよーございます!なぜ何も言ってくれないのですか?!と言うか、窓開けて顔を見せて下さいよ!僕、これ以上、届かないんですって!」
ミカサは、少し考える。
(夢だとしたら、別に何が起きても大丈夫だし、それに、これが現実だなんて、私、どうかしている。ストレス溜めてるつもりは、無いんだけどな…変な夢…)
そう思ったミカサは、窓の方へと進み、その手の主を確認すべく、窓を開き、とりあえず朝の挨拶をしてみる。
「おはよう」
窓を開いて下を見たミカサは、再び後退する。
「おは…って、ええ?!ミカサ様?!どうしたんですか?!私ですよ!城の使い魔のワンギョですよ!具合いでも悪いのですか?!」
ミカサは、その言葉に狼狽しつつも、また夢であると自分に言い聞かせ、窓の方へと近寄り下を見る。
そこには、身体が魚で、犬のような手足と尻尾、耳が生えた奇妙な生き物が居た。
そして頭には小さなシルクハット。
首には蝶ネクタイをしている。
それを改めて観察したミカサは、無の表情となる。
(何なの…コレ。私の夢だとしたら、私が想像した生き物なのよね。起きたら夢診断しよ…絶対、ヤバい…)
「ミカサ様?大丈夫ですか?」
ワンギョと言った生き物が、魚の目を潤ませてミカサを見ている。
(私、大丈夫じゃないし、アンタも大丈夫じゃ、なさそうだけど…ワンギョて…)
しかし何故か、ワンギョの瞳を見ていると、少し心が傷んだミカサは、落ち着きを取り戻し、優しく微笑む。
「ご、ごめんなさい。少し寝ぼけていたみたい。おはよう。ワンギョちゃん…大丈夫よ。心配かけたわね」
魚の顔なので表情は変わらないが、耳と尻尾を動かして喜ぶワンギョ。
「良かったです。ミカサ様!ワンギョうれぴー!あ!グロウ様がお呼びですよ。何でも先日の件について聞きたい事があるそうで…」
(先日の事…何かしら?てか、グロウって…あの人よ…ね…)
ミカサに、血の海となった映像が、蘇る。
(…っん…)
少し頭が痛む。
(何だか…私、少し…)
ワンギョが、語りかけて来る。
「やはり何処か具合いが悪いですか?グロウ様に、もう少し待っててもらうように言いますか?」
また目を潤ませて、ミカサを見つめるワンギョ。
それを見て、何故かまた、ミカサは胸が苦しむ。
「だ、大丈夫よ、ワンギョちゃん!支度が済んだら行くわ。少し待っててちょうだいね」
「分かりました!それでは少しお待ちしていますミカサ様!」
ミカサは、慌てて顔を洗い、髪を整え薄く化粧をし、身支度を整えた。
(水道も出るし、家にある物は、全てここにあるわ…まぁ、私の夢だものね、当然か…)
ミカサは、出かける時に、あまりスカートは履かず、ジーパンを好む。色気は無いが、本人は動きやすさを好んでいる。上は、決まって白いシャツだった。
鏡を見て、ミカサは少し戸惑った。
(何だか、私、若返った?16の時みたい…)
そして、家を出ようとした時、先程落とした、腕輪を見つける。
(あ、さっき机から落としたやつだ…、こんなの、持ってたかな?)
そう思いながら折角なので、その腕輪を拾い、着けて出掛ける事にした。
(私…あんな事があったのに、グロウっていう人に会っても大丈夫なのかな…)
そして、もう1つ。
玄関まで来た時、その部屋には似つかわしくない物体に気付く。
あの杖である。
(…え?!な、何でコレが家にあるのよ…や、やだぁ。でも綺麗ね。万が一の為に、一応、これも持って行こう、かな?)
と杖を手に取り、玄関に置いてある姿鏡で自身を見て見る。
黒いセミロングの髪に、白いシャツ、ジーパンに、金色で大きな赤い宝石が、ハメ込まれている大きな剣の様な杖。
不思議と重さは感じない。
(…こ、これはちょっと…今の私には不釣り合い、かな…)
ミカサは、杖を傘立てに入れ、手ぶらで家を出た。
家を出て、自分の家を見てみる。
廃墟の様なボロ家。
そしてマンションに住んでた筈が、小さな長屋になっている。
家には枯れた木々が張り付いていて、洋風のお化け屋敷の様だった。
ため息をつくミカサだったが、周りを見ると、似たような家ばかりなので、気にしない事にした。
(何なのかしら、ここって…)
すると窓側に居たワンギョが、犬のような足取りで歩いて来る。
「素敵な出で立ちでございます。ミカサ様。さあ、行きましょう」
「待たせちゃってごめんなさいね。行きましょう」
2人は、荒れているながらも所々に生活感がある、ネフロス城下をゆっくりと歩く。
(木は枯れてるし、夜だし、でも何だか既視感があるのよね…んー、何かしら…)
ミカサは、ワンギョと足並みを揃える為に、ゆっくりと進みながら街並みを観察していた。
(あ!分かった!ハロウィンよ!ハロウィン、あれだわ。あのイメージよ。なるほどねぇ、私、別にハロウィン好きじゃないけど、夢に出てくるもんなのねぇ…)
そんな事を考えている内に、ネフロス城の門前へと到着するミカサとワンギョ。
「さぁ、着きましたよミカサ様。今、門を開けますね。我は、ワンギョ!契約されし使い魔である!門よ開け!」
するとネフロス城の大きな門の隙間から、黒紫の炎が零れ、ゆっくりと開いて行く。
ミカサは、ただ呆然とそれを見ていた。
「ようこそ、ネフロス城へ。ミカサ様…」
門が開くと1人の女性が、ミカサを迎え、お辞儀をして顔を上げた。
髪は、腰まである白色。
目はツリ目で黄色く、全体的に上品さが漂う。
着ているのは、黒いドレス。
足にはスリッドがあり、艶かしい太ももが見えている。
「ワタクシは、ディ・ジェルドラ。魔王グロウ様の側近を勤めております。さぁ、ここで死ね!この悪魔女めっ!」
- 暁 ミカサ Lv.2 戦闘開始 -
ディ・ジェルドラとの戦闘が、突如として幕を上げた。
ワンギョは、オロオロとその場を走り回っている。
ディ・ジェルドラの攻撃。
ディ・ジェルドラは、長い髪を逆立てながら、大きくジャンプすると、ミカサ目掛けて美脚から旋風蹴りを繰り出す。
「きゃあああっ!」
ミカサは、それを必死で避ける。
蹴りの当たった地面は、割れた。
「な、なんなのよ!この人!」
例によって腰が抜けたミカサ。
動けず、その場でディ・ジェルドラをただ見ていた。
ディ・ジェルドラの目には、赤い炎が浮かび上がっている。
「よくも、グロウ様を…っ!許せん!絶対に死ね!ここでぇ!」
ディ・ジェルドラの追撃である。
今度は、ミカサへ手刀を振り下ろす。
それはミカサに直撃し、赤黒い血が、辺り一面に広がる。
「…グハッ」
倒れたのは、ディ・ジェルドラだった。
するとミカサが着けている腕輪が、光り輝き言葉を即す。
- 守護は、導かれた。今こそ召喚の時 -
ミカサは、立ち上がり。
倒れたディ・ジェルドラを睨みつけながら言う。
「さぁ、おネムの時間よ…イカレ女…」
ディ・ジェルドラは、立ち上がり後退し、距離を取る。その間に、何やら魔法を放とうとする。
そうしている間に、ミカサは詠唱をする。
「大地の轟、熱き流れに、封印されし、爆熔の主よ!今こそ、我が前へ!爆砕せよ!バガラ・ドラン!」
ミカサがそう唱えると、突然に大地が裂け、その中から業火の如く、溶けているような赤い手が、轟速で出て来る。そして、それは城よりも大きくなると、拳を作り、大地へ向かって落下して来る。
その下には、ディ・ジェルドラとネフロス城があった。
「あ、あっ…」
ディ・ジェルドラは、ただ戸惑いながら、その業火の溶ける手で、潰された。
ネフロス城と共に。
辺りは、赤い溶岩が飛び散り、まさに地獄と化していた。
そしてミカサと、その後ろに隠れていたワンギョは、光に包まれ保護されていた。
(今度は、赤い…)
そう思いながら、ミカサは、また目を閉じた。
これで目が覚めるのだと思いながら。




