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第八十四走 ガバ勢と闇夜の襲撃

 真夜中。ルーキたちは簡易テントの中で雑魚寝していた。


 布が敷かれた上に毛布をかぶるだけの簡素な寝床ではあったが、屋根があるだけ上出来。テントのようなかさばる荷物はRTAに持ち込めないため、十分立派な宿泊施設となる。


 カン、カン、カン……!


 夢を隔てて遠くから響く音にわずかに意識を覚醒させたルーキは、次に弾けた金属音の現実味に思わず上体を跳ね上げていた。


「ルーキ君」

「何事っすかね」


 一足先に目を覚ましたらしい委員長とサクラが、目線と声を向けてくる。

 その答えは、外から聞こえた誰かの大声で明らかになった。


「敵襲! 敵襲! 民間人は中央テントに退避! 戦える者は外に出て応戦せよ!」


 ルーキたちはおっとり刀で外に飛び出した。サマヨエルとカークは眠ったままだが、今はそれでいい。


「うわっ……!」


 外に出たルーキは、かがり火が照らす地面に倒れ伏した無数の人影を見て、思わず目を見張った。


「すでに犠牲者が!? どんな大規模な襲撃だ!?」

「いえ、違いますルーキ君! よく見てください。これは……」


 委員長に言われて慌てて視線を戻したルーキは、倒れた人々が目も当てられないほどズタボロで腐乱していることに気づく。


「こいつはリビングデッドっす! まわり見て! 数が多いっすよ!」


 サクラの言ったことがすべてだった。

 ルーキは、周囲でこの動く死体どもと戦うRTA警察と走者たちの姿を見た。

 キャンプ地は完全に取り囲まれたようだ。


「サクラ、ルーキ!」


 鋭い声で呼ばれ、ルーキは宵闇に振り向いた。

 サーベルを手にしたケイブが、こちらに駆けてくるところだった。


「起きたか! すまんが応援を頼む!」

「わかりました。仲間を起こしたらすぐ行きます。俺たちはどこへ!?」

「西側だ。ヤツら、そこから押し寄せてきている!」

「了解!」


 すぐさまテントにとって返し、サマヨエルとカークを起こす。


「何でオレたちがやらなきゃならねえんだ」と愚図るカークは、ほとんど待機と変わらない中央テントの警護を任せるとあっさり承諾した。相変わらずの不真面目さだ。


「み、みんな、気をつけてね!」


 サマヨエルの応援に拳を握って応えると、ルーキたちは駆け足でキャンプ地の西側へと向かう。


 戦闘用のかがり火が臨時に設置されたそこでは、すでに激闘が繰り広げられていた。


「腐りマンンンンンンンンンンンッッッウウウウ!!」


 一人の走者と、彼のトラウマとの激戦が。


「逃げてやったのに回り込んできてその上防御するなあああああああッッッ! タイムが、タイムが死んじゃうううううううッッッツツツツ!!!」


〈ランペイジ〉参加証の棍棒を振り回す彼は、一見半狂乱じみていて、それでいて恐ろしいほど的確にリビングデッドの頭を叩き潰している。


「あの動きは!」


 ルーキは思い出す。バーニングシティでの彼の独特の歩行法。わずかな筋肉の揺らぎや、体の傾きから、わざと相手に次の行動を読ませ、攻撃をコントロールする神がかった誘導技術だ。


 リビングデッドの動きは、敵に真っ直ぐ向かっていくという単純なもの。ビルはそれを完全に制御し、決して背後を取られることなく一方向からの攻撃に限定している。

 一対多に慣れ切った達人の動きが、ここでも遺憾なく発揮されていた。


「オウリャア! オウリャア!」


 ヴァイク市長も後ろ向きのフライングボディアタックで戦場を飛び回っていた。癖になっているのかもしれない。後ろ向きのフライングボディアタックで前に進むのが。


 そして囲まれても一切動揺せず、ハンマーのようなボディーブローを相手に叩き込み、怯んだところをぶっこ抜きのバックドロップ。背後から近寄ろうとしていた相手に投げつけることで、前後の敵を一掃する鮮やかな手並みだ。こちらも多人数相手に一切動じていない。


 あの腐乱死体をためらいもなく掴めるところが一番すごいところかもしれないが……。


「ちょっと、バーニングファイター!」


 ビルに向かって憤りを帯びた声が飛んだ。

 スカイブルーの髪と瞳をフードの奥に隠した魔術師風の少女は、ビルと同じくガチ勢のマリーセトス。


「何だ? ボウケンソウシャー。こんな時に。ハッ!? まさかバーニングシティの新規参入申し入れか!? もちろんいつでも大歓迎――」

「いや。あんなとこ走るならアイスホッケーマスクつけて〈スプラッターホーム〉に行く」

「鎖マンンンンンンンンンンンッッッウウウウッッッムムウウウウ!!! 名作性では劣っていないのになぜ避けられるんだアアアアアアアアアアッ! やっぱり全部あいつのせいだあああああああああああああッッッ!」

「はっきりと劣ってるから。そんなことより、いまあなたが脳天かち割ったの、ボクが使役してたゾンビなんだけど?」

「何? どいつだ? オレ様曰く、倒した相手はもう見えないも同然でわからんのだ」

「そこの子! 白いシャツの! イケメンだったのに!」

「死体を使うということは、貴様、ネクロマンサーか」

「そうだよ」


 マリーセトスは陰鬱な眼差しでこっくりうなずいた。


(そうだったのかよ)


 ルーキは今さらそれを知った。何しろ、一緒に走ったユグドラシルダンジョンでは、彼女はリズの試験官として、ずっと地図を書く姿しか見せていなかった。ただ地図を書くだけの変な人としか認識できていなかったのだ。


「オレ様曰く、死体ならそこら中にあるぞ。好きなものを選べばいいだろう」


 ビルがリビングデッドたちを叩き伏せながら平然と言うと、マリーセトスはそれが気に障ったらしく、


「どうせ使うなら見た目がマシなのがいい。こいつらみんなブサイクでイヤ」

「顔は腐っているかもしれないが、心はダフィー並みに美しいぞ! みんなまとめてぶっ飛んでくれるからな!」

「うるさいみんなゴンザレス!」

「何てことを……」


 呆然とうめくビルを残し、マリーセトスが肩を怒らせながらずかずかこちらに歩いてきた。そして、ふと顔を上げ、


「あ、新人チーム」

「ど、どうも……」


 マリーセトスの未だ憤懣冷めやらぬ眼差しが、じっとルーキを見つめた。


「この際、ルーキでいい」

「へ?」

「今すぐ死んでボクの下僕になって」

「ファッ!?」

「マリーセトス先輩。それは困ります」


 たじろぐルーキの前にリズが立ちはだかった。


「だって手持ちの死体がなくなっちゃったんだもの。あの脳みそバーニングのせいで」

「ルーキ君はうちのリーダーですし、渡せません」

「じゃ、誰か別の人いない? あ。何か一緒にいたムーフェンシアの兵士みたいな人は?」

「あれなら……」

「あ、やっぱいい。あれ何かキライっぽいから、つれて歩きたくない」


(委員長は何を言いかけたのですか?)とルーキは思った。


「とにかく、ルーキ君はわたしたちと戦いますので、先輩はプリム先輩と一緒に……」

「あ」


 委員長の言葉を遮るようにマリーセトスがぽかんと口を開け、ルーキを指さした。いや、正確にはその背後をさしていたのだと、背中に何かが飛び乗ってきた後で気づく。


「あ……!?」


 理解した時にはもう遅い。


突撃(チャアアアアアジ)!!!!」

「うわああああああああああ!!?」


 頭上から響き渡る鬨の声に、ルーキは自分の意思とは無関係に前に走り出していた。


「ゆけ! 我が軍馬(リュー)よ! あらゆる敵を踏みつけて勝利へと前進せよ、邁進せよ、驀進せよッ!! フラアアアアアアアアアア!!」


 普段の淀んだ雰囲気から一変、百万の兵を鼓舞する凛々しく勇ましい姫騎士と化したプリムが、グレートソードを振り回しながらルーキを叱咤する。


 こうなった彼女の言葉はもはや呪いも同然だ。ルーキは思考力を奪われ、ただ熱狂する一人の兵士となって、リビングデッドの群れに突っ込んだ。


「おお! 見事な突撃力だな、ルーキ君! 今度一緒に〈天地を喰らふ街〉に遠征してみないか!?」

「オレ様曰く、その脚力なら素晴らしいメガクラが撃てるぞルーキ! 今すぐバーニングシティに試走に行こう! な!?」

「突撃! 突撃だ愛馬よ! バイノハヤサデー!!!」

「うわあああああああああああ!?」


 メガクラで走ってくる大男と、後ろ向きのフライングボディアタックで前進してくる市長を背後に引き連れながら、ルーキは戦場を縦横無尽に駆け回ることになった。


 その光景は、ここ十年の〈ランペイジ〉をしてもっとも奇怪であったと、警備を担当したRTA警察の報告書には記載されている。


 ※


 翌朝。


「昨晩はご苦労だった。この先も頑張ってくれ」


 ケイブに見送られ、ルーキたちはキャンプ地を発った。

 ガチ勢他、すでに多くの走者たちが出発しており、こちらはやや遅れた形になる。


「はあ……うぅ……」


 その最大の原因は、ルーキが医者にかかっていたことにあった。


「ル、ルーキ、大丈夫……? 昨日の戦い、そんなに大変だったの?」


 とぼとぼ歩くルーキを見かねて、サマヨエルが心配そうに聞いてくる。


「ああ、それがさ……」

「病んだ姫騎士に無理矢理騎乗されて、明け方近くまでひたすら二人でハッスルしてたっすからねえ。乗られてるうちは何度でも元気にしてもらえると言っても、そら、気分的には疲れるっす」

「えっ……?」


 割り込んできたサクラの発言に、サマヨエルが顔色を失くした。


「サクラ言い方ァ!」

「事実を述べてるだけっす。あれ完全に(狂気)入ってたっすよね」

「やめろォ! 何すう!」

「ルーキ……。ねえ、昨日の夜、何してたの? ホントのこと話して」


 サマヨエルが切迫した様子でたずねてくるので、ルーキは誤解を解くために必死に釈明しなければならなかった。その結果。


「……ウソ。そんな人たちいるわけない……。わざわざ後ろ向きに飛び跳ねたり、仲間を死体にしようとしたり、仲間を馬にして操ったり……そんなの有り得ない。ねえ、ホントのこと話してよルーキ……」

「ですよね……」


 なかなか信じてもらえなかったのは言うまでもない。


ガチ勢との夢の共闘! これには主人公もにっこり。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おましょうま!Ver11 [一言] >逃げてやったのに回り込んできてその上防御するなあああああああッッッ! RPGあるある。何故ああいう時に限ってこちらのやってほしくない事を的確にやってく…
[良い点] いやールーキ君いろんな女性にモテモテで羨ましいなぁ え?変わってくれる?いいえ私は遠慮しておきます >なかなか信じてもらえなかった 前話で知り合い変な人ばっかりだねって言ってたのに信じて…
[良い点] 氏ねば下僕にしていただけるんですか!?(歓喜)
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