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第五十六話 ガバ勢と“フラット・ボーン”

 最深部のルームには防衛マシンの姿すらなかった。

 恐らくは、ここで戦闘すること自体シノノメ社にとってタブー。敗北を意味するのだろう。


《ハイスラァ! ハイスラァ! バラバラに引き裂いてやろうか!?》


 ブレードを振るうたびにいちいちうるさいゴンテツさんが主要施設を破壊し終えると、残るは奥にある一基だけになった。


 あれだけはABの基本装備では破壊しきれず、高性能爆弾で完全に吹き飛ばす手はずになっている。

 イオギラ隊長の話では、工場の職員はとっくに退去しているとのことだし、盛大にやってしまって構わない。


「よし……セット完了!」

「あとは脱出っすね。一応、元来た裏道から帰るっす」


 サクラの言葉にうなずきだけで応じ、ルーキはその部屋から出ようとした。


 ――唸り声が、した。


「……?」


 ルーキは思わず機体を立ち止まらせ、後ろを振り向いた。

 唯一生き残っている工場施設は、強固な装甲板に覆われて内部はうかがい知れない。

 それでも何かの陵墓を思い浮かべたのは、それくらいしか似たものを見たことがなかった自身の無知さゆえか。


「? 兄さん、何してるっす。早く逃げるっすよ。爆発に巻き込まれたいんすか」

「ああ。悪い」


 すぐに移動し、秘密の通路の入り口に足をかけた、その時だった。


 けたたましい音が、二度した。


 一度目は少し遠くから。

 二度目は、ルーキたちのすぐ後ろに、ひしゃげた装甲板が跳ねた時だった。


「!?」


 咄嗟に首をすくめたが、爆弾が爆発したのではない。

 熱波でも衝撃でもない、しかし確かな圧迫に肌を押された気がして、ルーキは逃げ込むように秘密の通路に機体を滑り込ませていた。


 陰に身を潜め、工場内部をうかがう。

 通路を揺さぶる巨人の足音がした。


 なぜ。ここにはさっきまで、防衛マシン一機もいなかったのに。

 ルーキもサクラも息をひそめたまま、一瞬だけ、それを見た。


 工場内の通路を駆ける、巨影。

 鳥肌が全身を埋めた。何かが、あの奥から出てきた!


「ゴンテツさん、今のヤツもう一度見られるか?」


 ABの目は人間の目とは違う。一瞬しかカメラに映らなかったものでも、それを永遠に記録し、出力できる。


《ナイトでなければ見逃してしまうこれが証拠ログ》


 示された画像は、一機のABを映し出していた。


「……な、何だ……? こいつ……?」


 ルーキとサクラは唖然としたまま、その姿を見つめていた。


 ※


「目標達成だ! ルーキたちがやりやがった! だが、おかしなことも言ってる!」

「何だと? どういう内容だ!」


 作戦成功の報告に胸を躍らせたシノノメの実戦部隊隊長イオギラは、直後に続いたサグルマからの警戒の声に水を差された気分で聞き返していた。


「最深部からABらしきものが飛び出してきたらしい。画像はマシンのトラブルで送れないが、異様に細いヤツだったそうだ!」

「異様に細い?」


 高機動戦闘に特化した軽量機が真っ先に頭に浮かんだが、ここがシノノメにとって重要なプラントであること、そして最も防御の硬い最深部にいたということを加味した思考が、とんでもない予想を弾き出した。


「まさか……シノノメの新型か!!」


 彼が感じたのは脅威ではなく、歓喜だった。


 現在の戦場は、プラント前の荒野から、施設敷地内へと移っている。

 集団での遠距離攻撃を徹底したこちらに対し、〈シノノメのギロチン〉は迂闊に飛び込んではこなかった。そうしてここまで押し込んだ。こちらの任務が完了したと知れば、ヤツはそのまま退いてしまうだろう。


 バナジン上層部の信頼を取り戻すには手柄が必要だ。〈シノノメのギロチン〉を仕留めきれない可能性が濃厚な今、相手企業の新型を撃破できればこの上ない汚名挽回(負け犬並の誤用)になる。


「よし、全機地下への入り口を固めて、未確認ABに備えろ! 絶対に逃がすなよ!」


 部下とコルボたちにそう厳命した、直後だった。

 地下搬入口をカムフラージュしていた施設の天井を突き破り、一つの巨大な影が宙を舞った。


「…………!? ヤツか!?」


 進入部隊より先に飛び出してくるとは。彼らは全滅したのか? いや、そうではない。俺の予想が当たっていれば、ヤツは……。


「何だ、あいつは……」


 スピーカーからこぼれてきた部下のつぶやきに、イオギラは引きつった薄笑いを浮かべていた。

 突き開けた天井の穴のすぐ横で、しゃがみ込むようにうずくまっているのは、報告に受けた通りの棒のように細いABだった。


「やはり“ボーンのみ(フラット・ボーン)”だ……!」


 外殻をつけていない。というより、装備が間に合わなかったのだ。外殻がなければ武器も扱えない。進入部隊を追い越せたのは、撃破したからではなく、秘密の運搬ルートがあったに違いない。


 工場が破壊されることを察して、慌ててパイロットが動かしたか。しかし、それは悪手だと言わざるを得ない。ボーンのみのABなど、筋肉のない人間と同じ。簡単に鹵獲できる。プロならば、あれは工場と一緒に消し飛ばすべきだったのだ。


 ――それにしても。と、内心の舌なめずりを押さえつつ、イオギラは思う。


「趣味の悪いツラしやがって……」


 四肢こそマシン然としたデザインであるものの、その頭部は人間の頭蓋骨そのものだった。建物の屋根にしゃがみ込んで周囲を見下ろす姿勢は、死神が天より次にさらっていく命を品定めしているようにも見える。


 シノノメのマシンは、どちらかといえば無機質な、生物性を感じさせないものが多かった。騎士や儀仗兵といった、貴族的な意匠を盛り込むバナジンとは、そういうところでもソリが合わない。

 その新型が、まさか「骸骨」とは。


 今モニター内では部下の機体が二機、屋根に飛り、新型ABにじり寄っている。

 武器は構えず、捕獲する体勢だ。彼らもフラット・ボーンの無力さと、あの機体の貴重さは心得ている。


「勝ったな……。娘の誕生日プレゼント買ってくる」


 イオギラがシートに身を沈め、満足そうにつぶやいた時だった。

 新型ABの前後を押さえていた二機が、四つになって屋根を滑り落ちた。


「!!??」


 イオギラは慌ててモニターを注視した。

 二機のハイランサーを両断した低い姿勢のまま、新型ABはその右手に持つ異様なモノを陽光に煌めかせる。


「あれは高周波ブレード……〈日蝕〉……!?」


〈月蝕〉に対抗してさらに巨大に作られたと噂されているが、実物が造られた事実はなく、試作品どころか、実験品としての存在すら怪しいオカルト級の武器パーツだ。

 愛読している月刊モーに書かれていたことが本当なら、あれ一本で、重装のハイランサーの許容積載量に匹敵する。製作者は当然、無能の極致だ。


「バカな! 何でフラット・ボーンのパワーであれが扱えるんだ!? カール、分析は!?」

《unknown! unknown!》


 何だというんだ。

 あの新型ボーンは、それ自体が外殻パーツ並のエネルギーゲインを持っているということなのか。あんなものがもし完璧な外殻パーツまで揃えたら、もうハイランサーの性能では手に負えない。


「攻撃しろ! 全機攻撃だ! あの機体を跡形も残すな!」


 バリスタルスピアーが一斉射される。

 いかに未知の技術で造られたABといえど、この飽和攻撃は対処できない。破壊してしまうことに惜しい気持ちが働いたが、命あっての物種だ。まだどこか冷静に物事が見えていた彼の頭は、次の瞬間、撃ち出されたスピアーが集結する空間に走った二つのZ字によって、何もかも奪い去られた。


 不完全爆発によって生じた中途半端な黒煙と炎熱の向こうに、二つの長大なブレード光が描く半月がぼんやりと浮かび上がる。


「〈シノノメのギロチン〉……!」


 我知らず絞り出た声に、操縦棹を握る手が震えた。

 新型ABの前に〈シノノメのギロチン〉が飛び込み、二機がブレードを同時に振るってすべての弾丸を撃ち落してしまったのだ。


 吹いた突風が、こちらとあちらを隔てていた煙を取り払った。

 果たしてそこには、ブレードを下に垂らすように構えた二機のABが並び立っていた。


〈月蝕〉と〈日蝕〉。異物的な兵器による視覚的威嚇効果など、豪傑一人の迫力で戦況が左右された古ではあるまいし、現代の戦場では有り得ないことだと思っていた。見たければ劇場にでも行けと。


 が、今、実物が目の前にある。


〈シノノメのギロチン〉と新型AB。共に武装は高周波ブレードのみという戦術的に誤ったアッセンブリでありながら、並みいるハイランサーがその場から一歩たりとも動けなくなっていることは厳然たる事実だ。

 飛び道具は通用しない。かといって、ブレードの間合いに踏み込めば……。


「…………?」


 イオギラはその時、〈シノノメのギロチン〉の奇妙な気配を察知した。

 古びたデュアルアイでこちらを睥睨する一方で、新型ABに対しても微妙な目線を向けている。とっさに助けには入ったものの、ヤツ自身、ここにシノノメの新型が隠されていたことを知らなかったのかもしれない。


 依頼上、傭兵に多くを明かさないことは、別に不自然なことではない。しかし、これほど強力な機体を開発しておいたなら、内々にでも切り札としてのABを一機くらい雇っておいても不思議はなかった。


 まるで、ここにこの機体があることを、企業の上層部ですら知らなかったような……。


 解けない謎をその容姿に宿したまま、新型ABが背後に飛ぶ。ボーンが本来持ちえない跳躍力と機動力。

〈シノノメのギロチン〉もブレードを肩に担ぐと、それに続いた。


 イオギラはそれを黙って見送るしかなかった。

 プラントTの襲撃は成功したのだ。後に地下から出てきたコルボたちも全員が無事で、損失と呼べる損失もなかった。


 しかし彼は、この時の寒気を以降ずっと引きずることになる。


 あの異常な二機のABが、バナジンの息の根を止めるために世界の何かが遣わした怪物にしか思えなかったのだ。


フラボして寝よ。

地下深くから未知のAC……ABが出てくるとか燃える展開じゃなーい?(なおRTA要素)

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