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ばっちゃんと俺  作者: 香月薫
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第1話

先日、掃除をした際に見つけた短編に加筆をした作品です。

当時は、台詞を中心として作ったものです。

だいぶ、加筆したつもりです。


不定期の投稿となります。

「輪廻転生」や「天翔ける龍のごとく」が煮詰まることが多く、その気分転換のために、時々投稿しようと思っているので。

すみません。毎週投稿できないで。


 

 賑わう街の中、彼氏彼女たちが多く溢れていた。

 楽しげな声が騒めきとなり、辺り一面に響き渡っている。


 それを縫うように、二人分のジュースを持ち、今時のコーデに身を包んだ夕月慎二が、足元が軽やかに疾走していたのだ。

「すいません、通ります」

 周囲に声をかけながら、上手くすり抜けていく。


 歩くだけでも、ぶつかってしまうほどだ。

 細心の注意を払い、ぶつからないようにしていた。


 ジュースが零れないように、器用に早歩きで抜けていく。

 邪魔され、怪訝そうに窺っている彼氏たち。

 秒殺で、半眼した彼女が、柔和な笑顔を彼氏に傾けていた。


「やっと、掴んだ女の子、逃がすものか」

 言葉に力が入る。

 脳裏を掠めているのは、先日できた彼女のことだ。

「夕月慎二。十七歳にして、やっと、できた彼女。どんなことしても、絶対に逃がさないぞ」


 コンクリートのように、決意を硬くする。

 両手に、紙コップがあるため、心の中で拳をギュッと握り締めていた。


「待っていてね。俺の可愛い彼女ちゃん」

 ワクワクと、心が浮き足立っている。

 ジュースを運ぶ顔が、すでに甘く、にやけていた。


 それも、そのはずである。

 今まで一度も、付き合ったことがない。

 十七歳にして、初めてできた彼女だ。

 だから、喉が渇いたと言う一言で、しっぽを振りながら、ジュースを買いに行ったのである。


「頑張るぞ」

 何十回目の合コンで、ようやくできた彼女だった。

 晴れ晴れとする今日が、慎二にとって、記念すべき初デートだ。

「待っているだろうな」

 口元が、だらしなく緩む。


 頭の中では、友達のアドバイスを、思い出していた。

「初日が大事だ。格好よく、決めてやるぜ」

 気合い十分以上に、溢れ出ていた。

 そして、彼女が待つ公園へ、向かって駆けていく。




 遥か前方にある信号機を見て、面倒だと巡らせていた。

 一分、一秒でも、早く待っているだろう、彼女のところへ向かいたい。

 焦っているので、立ち止まりたくない。

 速度を落とし、キョロキョロと辺りを窺う。


 行き交う車が、見えなかった。

「よし」

 植え込みを跨ぎ、ツカツカと、歩道から車道を渡っていく。


 頭の中は、彼女を、待たせてはいけないと言う文字しかない。

 ろくに、確認もせず、前へ飛び出してしまう。


「早く、会いたいよ。僕の可愛い彼女」

 けたたましい、クラクションの音が、突如、鳴り響く。

 その音に驚き、音の鳴る方に、咄嗟に顔を傾けた。

 車が、物凄いスピードで、自分に突進している姿が、目に飛び込んでくる。

「!」


(マジかよ。車が来る、どうにかしないと……。右か、左か)


 目には、スローモーションのような映像が、映っている。

 身体を動かそうと、巡らしていた。

 だが、どっちに逃げていいのか、判断つかない。


 途方に暮れてしまう。

「マジで、やばっ」

 どんどんと、近づいてくる車。

 悲鳴も、上げられないほどの恐怖を抱き、思わず、目を瞑る。


(もう、ダメだ。ごめん、親不孝な、俺を許してくれ!)


読んでいただき、ありがとうございます。

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