009 ゴブリン退治
さて、有能な大魔導士と賢者がいることが分かったし、何か思いついたら丸投げして任せるとして、俺は自由に生きますかね。
長旅をするには準備資金が心もとないので、しばらくは魔物を討伐してお金稼ぎかな。ギルドに行って依頼を探そうっと。
「魔物討伐依頼ですか。最近ゴブリンに村を滅ぼされたとか、若い娘がさらわれた事件があり、早く何とかしてくれという依頼があります。ゴブリンが相手なので、D~Cランクの冒険者が討伐に向かったのですが、誰も帰ってこない状況です」
困ってる状況のようだし、これにするか。Cランクの冒険者を撃退するゴブリンというのも気になるしな。
「サトルさんがお強いのは分かりますが、おひとりでは危ないのではないでしょうか? パーティを組まれて行ってはどうでしょうか」
確かに、ひとりでは何があるか分からないから危険だな。ここは冒険者の酒場的に、パーティの仲間を紹介してくれるサービスもあるようだ。ここで出会いマッチングして、一緒に冒険をするのか。
……俺、生前はネトゲ廃人だったけど見知らぬ誰かとパーティを組む野良パーティとか苦手だったんだよなぁ。お互い無言でそれぞれが仕事をこなし素材集めをするだけ、と割り切ってやるのはいいけど、ちゃんとコミュニケーションをとって連携するとか難しすぎる。ギルドとかに入って親交を深めながらパーティを組めるといいんだけどなぁ。
何か、ちょっと哀しいことを思い出しちゃったじゃないか。見知らぬ誰かとパーティを組むのは新しい出会いがあって素晴らしいものになるかもしれないけど、はずれを怖がってちゃ勿体ないのかもしれないけど、行先は危険な冒険だ、安全に行くなら信頼できる仲間と行った方が良いに決まっている。
というわけで、アイとメイを人化させて、冒険者登録して、パーティを組むことにしました。
「あらあら、マスターはコミュ障ですねー」
「ご主人様はチキンなの」
たまに辛辣ですね。いつもお世話になっていますが、これからもよろしくお願いします。
ゴブリンの巣窟には飛んで向かった。移動呪文の応用で普通に飛べるようになったので超便利。ゴブリン達は滅ぼされた村の近くにあった洞窟に住み着いたらしい。洞窟の中は罠だらけで、パーティを分断されて各個撃破されたと、ひとりだけ逃げ帰ってきた冒険者が証言していた。
洞窟に近づくと、入り口の近くにゴブリンが潜んでいるのをウィルが発見した。しばらく様子を見てみたところ、どうやら見張りのようだ。中に入ってきた者を殺すので侵入を防ぐ門番はいない。入ろうとする者がいないかを見張り、侵入者が来たら内部に伝える役目と思われる。見張り役はそれぞれ離れた位置に三匹いて、定期連絡も行っているようなので、侵入を気付かれずに無力化することは無理そうだ。
見張りの目をごまかして、こっそり侵入するのはできそうだが、見張りのゴブリンも倒しておきたいからなー。かといって内部に侵入を知らされて、多分迎え撃ってくれると思うけど、万が一にも逃げられたら面倒だしなー。
よし、まずは洞窟の中を掌握しよう。ウィル偵察頼む。
「ウィっす。了解っす。別に倒してしまっても構わないっすか?」
一匹も残さず殲滅できるならいいぞ。と条件付きで許可を出し、ウィルを向かわせてみた。さてどうなるかな。
「アニキ、冒険者が交戦中っす。ヤバそうっすけど、援護していいっすか」
既に先客がいたか。なら俺も飛び込んだ方がいいかな? とりあえず援護は許可する。
「アニキ、捕まってる女性たちを発見したっす。酷い状態だったのでカッとなって制圧したっす」
分かった、もうじっくり偵察とか言ってられないな。俺も見張りをサクッと無力化して突入するわ。
やっぱり、ゴブリンが女性をさらった理由って繁殖だったんだな……。残酷な展開に直面すると引くなあ。強いゴブリンとか転生者っぽいけど、好き勝手やってるようだし、反撃されても文句は言えまい。討滅するぞ。
「マスター、見張りは無力化しましたー」
「メイの炎で黒焦げなの」
「アニキ、洞窟内の掌握は完了したっす。抜け道とかは抑えたんで存分に暴れられるっす」
よし、洞窟内に突入する。
ウィルのナビで、まっすぐボス部屋に向かう。途中で冒険者がいた、男は重傷で、ふたりの女は襲われそうになったところをウィルが助けたようだ。よく見ると、貴族の護衛任務で一緒になったフェムとイーリスだった。
「小人が助けてくれたんです。小さくて妖精のようだったんですけど、サトルさんの精霊だったんですね、ありがとうございます」
「俺のことはいいから村の仇を、ゴブリン殺すべし!」
重症の男は自分のことよりゴブリンへの恨みが深いらしい。大切な人を殺されたか、村の生き残りかな。アイに治療を任せ、ゴブリンは倒してくるからここで休むようにと言って先へ進む。
ボス部屋に辿り着くと、そこには既に最終形態っぽく本気を出したボスゴブリンとウィルが一騎打ちをしていた。
ウィルが苦戦するとか、あのボスゴブリン強いな。ウィルも負けてないけど決定打不足で倒しきれない感じだ。部屋の中を見るとボス以外は全部倒したようだな。
「アニキ、全部片づけておこうと思ったけどコイツ強いっす、切っても切っても回復するっす」
回復できないぐらいのダメージを与えないと倒せないか。俺たちも行くぞ、ガイア。俺はメダルを地面に叩きつけて叫んだ
「来い! 破壊の巨神、ガイアカイザー!」
地面が裂け、その中から巨大な破壊の化身が浮かび上がってきた。巨神の眼から俺に向けて光が放たれ、俺搭乗! さあ、ボスゴブリンをやっつけるぞ!
「唸れ鉄拳、ガイアミサイルパーンチ!!!」
高速で飛んできた拳を、ボスゴブリンは手持ちのこん棒でたたき返してきた。拳が打ち返されて戻ってきた。なんてバッティングだ。てかあのこん棒魔力で強化してあんのかな? 普通のこん棒ならへし折れてないとおかしいし。
「Gaaaaaaaa!!!」
ボスゴブリンの咆哮が響き、口から怪光線をはいてきやがった。咆哮に竦んだところに必殺の一撃か、中々怖いコンボだがガイアは怯んではいない。目には目を、光線には光線を。
「喰らえ、ガイアビーム!!!」
相手の怪光線をかわしつつ、カウンター気味にはなったビームがボスゴブリンにヒット。右肩から先が吹っ飛んだが、まだ闘志の衰えない瞳に、若干ビビりつつもとどめを刺すために鉄球をくりだす。
「とどめだ、ガイアクラッシャー!!!」
直撃だ、今度はこん棒で打ち返すことができず、鉄球で全身が押し潰されたはずだ。流石にもう動けないようだが、じわじわと傷が再生しているように見える。ここまでやっても死なないのか、なんて生命力だ。ウィル、首をはねるぞ。風の刃を貸せ。
「了解っす、唸れ風の刃、空苦無っす」
ウィルの風の刃を、俺が魔力操作し、更に圧縮し切れ味を高め、ボスゴブリンの首を叩き落してやると、ようやく再生が止まった。
倒したか、しぶとい奴だったな。明らかに他の雑魚ゴブリンと力の差がありすぎだろ。
さて、これでゴブリンは全部倒したはずだから、女性たちを助けて帰りますかね。全裸の女性を助けて。ゼンラの。
「あらあら、全裸を強調し過ぎではありませんかー」
「ご主人様はスケベなの」
凌辱と聞いたときは引いたけど、助けて落ち着かせた後なら、色々期待しちゃうだろ。お礼にとか、ゴブリンを忘れさせて欲しいとか、みんなまとめてとか。
……ふぅ。冗談はさておき、ウィル、女性に着せられるような服とか布とかあったか?
「布はボロ雑巾みたいな奴しかなかったっす」
「あらあら、それなら蔦や葉っぱなどでどうにかしましょうー」
よし、それで行こう、では早速助けに
「そこのロボット(?) ゴブリンを倒したのはお前かにゃ?」
助けに行こうと思ったのに、何か聞き覚えのある語尾がやってきたなあ。