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002 力が欲しいです

 修行が辛いわ。てか、修行で得た技能とか別にチートでも何でも無くね? とりあえずで体感3か月ぐらい魔法の修行をしてみたけど、ちょっと光を灯したり、火を発生させるだけでスゲー頭が痛くなるんだけど。3か月続けても成長が実感できないのがマジ辛い。心が折れそうだ……。現実逃避に転生先や注意事項の再確認でもするか……。




 転生先は魔法とか何でもあり、ってか調査が完了していない世界に決まった。既に先達の転生者が行ってるようだが、原住民やら管轄の違う世界の転生者とか入り乱れてゴチャゴチャしてるらしい。先達の開拓者が言葉を広めてくれているので言語の壁はないのは一安心。


 管轄って何? って聞いたら、無限にある世界をいくつかまとめた中で魂が輪廻転生しているらしい。(基本的に似たような世界でまとまってて、パラレルワールドのような差分が少ないものもあるようだ。)その輪廻転生の範囲が管轄で、神様的存在が管理しているそうだ。んで、まだ神の管理下に置かれていない世界も無限にあって、それを輪廻転生の範囲に含めるべく転生者とか送り込んで調査や、必要なら開拓とかしているんだと。


 神については諸説あるが、一番トップに最高神的な全知全能の神っぽいのが居て、無限に世界とかを創造・破壊・放置を繰り返してたら、管理するのが面倒な量になって、その世界を管理するために生み出された哀れな中間管理職っぽい存在が管轄神、と考えられられているそうだ。(最高神が悲劇や混乱を愉悦とするどこぞの鯨のような奴じゃないことを祈った。)


 で、『転生』について、正確には『転移』や『召喚』もあるとのこと。要点まとめると以下となる。


・転生

 赤ん坊から生まれ変わる。魂が元気なら意識は残るが、赤ん坊時代に大抵の知識は忘れてしまうらしい。

 魔法などの技能を習得した状態で転生した場合、魂が魔法を覚えているので、生まれたてでもある程度魔法が使える天才となれる。転生先は選べないが、よっぽどは親の庇護下で世界に溶け込みやすい。言語の壁は赤ん坊だから一から習得できるできる。ワンチャン貴族や幼馴染の女の子フラグなどが期待できるが、子に親は選べないので路上に捨てられるなんてこともあるかもね ミ☆


・転移

 肉体があればそのまま異世界に行ける。意識も記憶もバッチシ残る。肉体が無い場合は用意してくれるがスペックは一般人。

 赤ちゃんからやり直すとかまどろっこしい、転生ガチャが怖いなど場合は、適当に世界にポツンと転移することも可。ただし、世界に溶け込むためにはコミュ力が必要になるぞ。言語の壁は要対策。戦場のど真ん中に放り込まれたりすると怖いよね ミ☆


・召喚

 無目的なランダム転生や転移よりも、使命とか要望とかやることが分かり易いので、レールに沿った人生を送るのが得意な現代人にお勧め。言語の壁も一般的な英霊召喚システムなら現地の一般常識などを含めてお手軽に習得させてもらえる、はずだ。ただし、召喚主に騙されてひどい目にあうケースもある模様。魔王に破壊神として召喚されて生意気な勇者をやっつけることもあるかもね ミ☆


 こうしてみると、肉体が無く魂だけなので、筋力とかフィジカル面は鍛えようが無いな……。一応、剣術や身のこなしなどは技能なので魂が覚えていれば再現はできそうだが、基礎体力面は鍛え直す必要があるな。


 なので、魔法面を鍛えようとしているけど上手く行かない……。3か月もボッチで人恋しくなってきたり。そろそろイマジナリーフレンドのスキルが身に付きそうだぜ! フフフフフ……。




 更に3か月後。何だかんだでボッチにも慣れてきたぞい。ちなみに修行の場所は、大自然。大・自・然! 何これ? 山ごもり? 滝があるけど滝行しろってことなの?


 魂の修行場は転生先の世界と同じ法則(魔法など含む)を魂内で再現した世界で、一瞬で何年分もの修行ができる便利なシステムを使ってる。ただこれ、魂に負荷かかりすぎるらしく、便利なのは一瞬で終わる転生担当側で、魂側のことは全然考えられていないシステムだと思った。(メンタルとタイムのルーム的な? 魂のことを考えて使用期間に制限を作った神様は偉いね。)


 でも、魂だけだからか食事は必要ないっぽい。リンゴとかその辺になってる果物が美味しいので食事に不満はない。睡眠は、起き続けてると集中力が続かないので適度に寝てる。性欲は、彼女いない歴120年の大ベテランだったので処理方法はお手の物よ!


 何か、現状の生活に不満は無く、気ままなスローライフを満喫しててもいいんじゃないかと思えてきた。ただゲームやラノベが無いのが退屈かなぁ……。魔法について色々試してみてるけど、扱える魔力(?)の総量を増やす方法が分からない。運用・操作は少しは上手くなったと自負できるけど、小さい火を自在に扱えても、大きい炎が作れなきゃ闘えない。てか、転生先の異世界の平均的なレベルが分からないからどれだけ鍛えれば大丈夫か分からないのも不安だ。


 考えれば考えるほどチート魔法を身に着けられる気がしなくなっていく……。アプローチを変えた方が良いかもなぁ。魔法以外に何を備えられるんだろうか……?




 更に6か月後、修行を始めて1年が経った。そこには、ちょっと周りを照らしたり着火できる程度の魔法使いがダラダラと過ごしている姿が! 『何も成長していない』とか言わないで、これでも頑張ってるんだから!


 魔法が成長しない言い訳として、自身の魔力を使った魔法は、肉体が無いため魔力が増えないから成長しない、と理論武装できるようになったよ。頑張る方向が違う? でも考察や推察や妄想や逃避は必要ですよ。何か魂の健全は保ててるっぽいので。


 自身の魔力が使えないなら、大気とか自然界とかにきっと存在する、存在して欲しい別の力を使えないかと、水につかったり滝に打たれたり、火を見つめて笑いかけたり、風になるべく奇声を上げながら走り回ったり、今は大地と仲良くなるためにゴロゴロ寝てるのである。狂人の行動とか言わない。いや罵声でも言ってくれる他人が欲しい。いよいよ精神がヤバくなってきたかと思い始めた頃にそれは聞こえてきた。


「力が欲しいか」


 そろそろ駄目かもしれんね。






「力が欲しいか」


 ちょっと、頭が真っ白になってフリーズしてたけど、また聞こえてきた。遂に無自覚のイマジナリーフレンドが話しかけてくるまでになったかと、壊れたテンションで応じる。


「あぁ、力が欲しい! ずっと待ち焦がれてたんだ、こんな展開を! 英雄がやってくる待つだけじゃねえ! 他の何者でもなく! 他の何物でもなく! オレのこの手で、たった一人の女の子を助けられるような力が欲しいんだよお!」


「フハハハハ、ならばくれてやろう! 我が名はガイア! 我が名を呼びその力を振るえ! お前はもっと輝けるはずだ!」


「うぉぉぉぉおぉぉぉおっっ! ガイアー!!!」


『ポコッ』


 何か、かわいい擬音が出そうなぐらい小さく土が盛り上がった。……えっ? これだけ?


「フフフ、見たか。これが我の力であるぞ!」(どやぁ)


 何やら、親指サイズの土人形(?)がどや顔(?)で話しかけてきた。いや、しょぼくね?


「あー、まぁ、うん。我もそう思う。でも生まれて間もないし、我はまだまだこれからである」


 てかこいつ何物?


「我は精霊である。汝が色々と呼び掛けて、わめいているのを哀れに思い、こうして力を貸してやったのだ」


 おー、どうやら自然界の力を借りるという方向は正解だったっぽい。今はしょぼいけど、まだまだこれからって言ってるし、これからはこいつと一緒に頑張ってみよう。それにしてもなんでガイア? ガイアって女神じゃなかったっけ?


「汝が地面に向かって、『ガイアー、俺を導いてくれー』とか『ガイアは俺に何も答えてくれない』とか、散々話しかけてきたから、我はガイアと命名されて生まれたのだ」


 おおっと、俺のせいらしい。恥ずかしっ。地面から出たってことは土属性? 地の精霊とかってことかな?


「いや、我は土属性などといったスケールに収まらん。最終的には光と闇が合わさり最強に見える大精霊となる予定である」


 おぅ、何か中二病っぽいことを言い出したが、これも俺の影響か? まぁいいや、これからヨロシクな、ガイア。


「うむ、我ら精霊は長い年月を生きれば生きるほど強い力を持つ。末永く宜しく頼むのである」


 えっ、時間かかるの? どうやら一朝一夕で強くなる方法は無いようです。






~12000年後~


 待って、飛ばし過ぎじゃない?


「どうした、サトル。そろそろ我の究極フォームも完成したし、そろそろ転生するのか?」


 いや、もう何か準備万端だし、赤ん坊からやり直す必要もないから異世界転移でいいかと思ってるけど、そうじゃなくて、12000年後って何だよ。


「それは、新連載開始直後から延々修行パートはつまらないから、サクッと飛ばして無双しようということであろう」


 俺の12000年の苦労が……。


「いや、サトルは途中から普通にスローライフを満喫して、修行というより余生を過ごすといった感じだったような気がするんだが……」


 まぁ、生前は不老不死に憧れていたし、話せる相手(精霊)も居たから、このままずっとこの世界で過ごしてもいいかなぁって思ってるけど。


「サトルの魂はそれに耐えられるようだが、今の世界は魂修行システムによって作られた世界で、システムの制限で生前の100倍ぐらいで限界だと一応言われたらしいじゃないか。サトルの場合は12000年もあるから期限は気にしなくていいと思われていたようだが、流石にそろそろ修行は十分であろう」


 まぁ、ぐだぐだ過ごしたとはいっても、12000年もあったからねぇ、色々考えられる限りの備えはできたと思うよ。精霊は長い年月を生きれば生きるほど強い力を持つって聞いて、とりあえず期限限界まで頑張るかと、ちゃんとスケジュール管理もしたし。


「では、我ら精霊は装飾品となって汝とともにあろう」


 そう言って、ペンダントのメダルに物質化したガイアを身に着け、他に指輪やベルト、ブレスレットなどを装着する。他の精霊たちは秘密。転移後すぐに呼び出すと思うけど。じゃあ、死後の世界に戻りますかねぇ。




「おかえりなさい、サトルさん。普通は一瞬で出てくるのにちょっと長かったですね。何年ぐらい修行してきたんですか?」


 死後の世界に戻ると、転生担当がそのまま待っててくれた。本当にちょっと長い程度の時間で12000年を体験したらしい。


「12000年! 魂は大丈夫なんですかそれ? そんだけ屈強な魂なら、管理者より上、幹部よりもさらに上、管轄神にもなれるんじゃないですかね?」


 雑多な世界を管理する立場も少し興味はありますが、大変そうだし、今はせっかく手にした力で異世界転移を楽しもうと思います。


「へぇ、修行はうまく行ったんですね。何か剣とかペンダントとか付けてるし、向こうで鍛冶とかもやれたんですねぇ」


 精霊がいるので剣は必要ないけど、見栄えとして作ってみた。ガイアの力で鉱石を剣の形にしただけなので、頑丈だけど切れ味は微妙だ。


「では異世界転移しますね。肉体は現地の標準的なスペックで構成されます。年齢は魂年齢が反映されます。武器や装飾品はそのままもっていけます。準備はいいですか?」


 大丈夫だ、問題ない。


「では、いってらっしゃい」



 こうして、ようやく(12000年かけて)異世界に一歩を踏み出した。


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