011 勇者の好敵手現る?
今日は魔王城が見えるところまで偵察に行くぞ。魔王城って言うと物々しいし、簡単に近くまで行ける気がしないけど、実体はただの前線基地っぽいな。魔王は常に最前線で戦うために、ここの前線基地に居を構えてるらしい。さて、砦を攻めるだけならごり押しできそうだけど、魔王を逃がさないようにするにはどうしたらいいんだろう? 挑発すれば出てくるのかな?
そんなことを考えながら周辺の地形をウィルに確認させていると、面白いものが見つかったらしい。
「アニキ、あっちの方に良く分からない遺跡っぽいのがあって、そこにイサムがいるっす」
冒険に出かけたと思っていたが、こんなところにいたのか。そういやこの世界の遺跡とか古代文明(?)とかってどうなっているんだ?
「あらあら、今更ですが別に古代に超文明があったとか、そういう話はありませんよー。考古学とか骨とう品的な価値はありますし、昔のお金持ちさんの金銀財宝が残ってたら大儲け、的なお話がメインですねー」
「そこに魔物が住み着いてると、一気にダンジョンっぽくなるの」
ダンジョンか、ウィルがいれば大抵の場所は偵察してきてくれるから、いまいち緊張感が湧かないんだよな。
「風が入れるところなら楽勝っす。風が入れない密室だってちょっと頑張れば楽勝っす」
密室殺人の凶器に最適だな。
「魔法ありきの世界で、密室はミステリーにならないの」
「うふふ、動機があればドラマは十分なりたちますよー」
そんな雑談をしつつ、せっかく見つけたので挨拶をしておくかと、イサムのもとへ向かうことに。
「おれの名はカゲマル。竜人族の末裔だ。この遺跡のお宝はおれのもんだ、黙って帰れば見逃してやるぞ」
「オレの名前はイサムだ。この遺跡の宝は渡さないぜ」
なんかリザードマンっぽい奴とイサムが対峙してる。取り込んでいるみたいだし離れて様子をうかがうことにしよう。相手は魔族の冒険者かな? 冒険者同士が遺跡で勝ちあったら早い者勝ちじゃないのかな。
「あらあら、あれは多分理由を付けて剣の勝負をしたいだけですねー」
「男の子らしいの」
「では、先に剣を相手に一本入れた方が遺跡を探索するということでいいな」
「望むところだ、怪我をしても連れが治してやるから安心しな」
離れたところにレイカが居るな。隣にナーガっぽい奴がいるが、リザードマンの連れかな。こっちはのんびり談笑してるぞ。男の子との温度差が酷いな。
「こっちのバカがうるさくてすみません」
「気にしなくてもいいじゃん、こっちの方から喧嘩を吹っかけてゴメンじゃん」
バカ呼ばわりだし仲良くやってるようだな。おっ、勝負が始まるみたいだ。観戦観戦っと。
イサムが先手必勝と素早いステップで距離を詰め、鋭い一撃を放つ。それに対してカゲマルは的確に迎え撃ち、弾き返した。
スピードはイサムの方が上っぽいが、力はカゲマルの方が上っぽいな。一撃入れるだけならイサムの方が有利に見えるがどうかな。
その後、何合か打ち合いが続いたが、カゲマルが強めに弾き返しながら大技の態勢に入った。
「行くぜ、竜人族奥義、天竜剣!」
凄い魔力が剣に集まってるな。
「魔力以外の力も集まってるの。多分種族特性とか竜の力なの」
へぇ、そういうのもあるんだ。さてイサムはどう迎え撃つ。あっ、あいつ特訓の時にガイアに貰った大地の加護で、カゲマルの足元にぬかるみ作りやがった。踏ん張りがきかず緩んだ一撃をかわしてカウンター気味にイサムの一撃が繰り出される。
「SLAAAAAASH!!!」
あれは『イサムスラッシュ』、必殺技に自分の名前を入れるなんてまさしく勇者の所業。勝負ありだな。
「あらあら、マスターが勝手に命名しておいて酷い言い草ですねー」
「負けた負けた、お前強いな、気に入った。また今度手合わせを頼む」
「スッキリした顔してるけど、負けたら家に帰って来いって言われてたじゃん。どうするの? 帰るの?」
「あっ! どうしよう……。まだ家に帰るつもりはないが、負けを認めないわけには……。そうだ、イサム三本勝負と行こう。遺跡の探索の権利とかどうでもいいから勝負を続けさせてくれ」
イサムはまだ忙しそうなのでレイカに声をかけることにした。
久しぶり、調子はどうだ。
「サトルさん、どうしてここに? 調子は良いですね。この前の遺跡ではミノタウロスを倒して、本物の宝石剣を見つけましたわ」
順調そうで何よりだ。イサムはいい勝負してたし、好敵手に巡りあった感じか。何度も敵対するのが面倒ならさっさと仲間にしちゃえばいいのに。
「無責任なこと言ってるなサトル、てかいつから見てたんだ」
立ち合いの最初からだな。ぬかるみの使い方とかうまくて良かったぞ。そして必殺の『イサムスラッシュ』、流行らせたい名前だ。
「おい、大地の加護は助かったけど、勝手に変な技名を付けるな」
「イサム、おれを無視するんじゃない、そいつは誰だ?」
俺は精霊使いのサトルだ、イサムとは同じ冒険者の知り合いだよ。ヨロシク。
「おれの名はカゲマル。竜人族の末裔――」
「こいつは自分のことを竜人族の末裔だと思い込んでる、ただのリザードマンじゃん」
「おい、ヘビ子、思い込んでるとはなんだ、俺は本当に――」
「あんたの両親、ふたりともリザードマンじゃん」
「それでも先祖に竜人は居るんだ、その証拠に俺には力が……」
「こいつは不思議と力が強いのは事実じゃん。冒険者になって修行の旅に出るっていうから、アタシも家を出たかったから便乗して冒険者になったわけじゃん。挨拶が遅れたけど、アタシはナーガのヘビ子、ポジションはレンジャーね、ヨロシクじゃん」
みんな一通り自己紹介を終え、あらためてこれからどうするか考えることにした。
「おれは、イサムに勝つまでついていくと決めたぞ」
「アタイも一緒に行くから、レイカよろしくじゃん」
「前衛とレンジャー職が増えて、パーティは安定しそうね。よろしくね」
「あれ? もう一緒に行くことが決まってる。一応パーティーリーダーだったはずだが、オレの意見は? 別にいいけどさ。」
どうやら話がついたらしい。
「で、サトルはこんなところで何をやってるんだ?」
俺は、あっちの方にある魔族の前線基地の下見をしてた。周辺を調べてたらイサムが居たから挨拶に来たんだけど、良ければ魔王倒すね手伝ってくれない?
「……は? 魔王を倒す?」
突然何言ってんだコイツ? って反応をされたので、マオやタイシとのやり取りから説明することにした。
「つまり、魔王を倒せばマオが魔族を率いて和平の道に舵を切るって言ってるんだな。俺は協力してもいいかな」
「私は、勝算があるなら協力してもいいわよ。無謀に無策で相手の親玉に特攻するようなら止めるけど」
「おれは魔族に見切りをつけて旅に出た身だからどうでもいいぞ。魔王側についてイサムを迎え撃つのも楽しそうだが、イサムと一緒に魔王に挑むのもありだな」
「バトルジャンキーはほっといていいじゃん。一般的な魔族の意見としては、十年前の戦争で痛い目をみたから戦争はこりごりじゃん。頭の固い主戦派を倒して、平和にしようって言うなら賛成じゃん。」
へー、一般的な魔族の意見はそうなのかー。もっと好戦的な連中ばかりなのかと思っていたよ。
「年寄りは、昔ヒト族に魔物と魔族もまとめてに迫害されたって恨んでるけど、若い連中は実感がわかないじゃん。ヒト族が魔族に対して偏見を持ったままだと和平を結ぶのは難しいと思うけど、わざわざ戦争しなくてもいいと思うじゃん」
何か思ったより根が深そうだけど、とりあえず戦争の芽を摘むために戦うとしますか。