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8月24日 無駄

8月24日


 うっすらと肌寒い……かも? と感じる程度には涼しい。こういうのを待っていたんだよ。まだ八月でこの気象はちょっと気にかかるけど。


 研究棟に入った瞬間、クラシカルな音色が耳をついた。なんともおどろくべきことに、あのむさくるしい研究棟がオルゴールの音色に包まれている。懐かしい気分になるような、森の中の洋館で流れていそうな、人によっては不気味ともとれる古い旋律だ。結構好みの曲調で思わずテンションが上がる。


 どうやら放送設備の点検をしていたらしい。しばらくしてその旨を伝えるアナウンスが入った。あの曲を選ぶとは、なかなかセンスも趣味もいいようだ。侮れない人間が意外と近くにいることに喜びを隠せない。


 到着後は逆解析を進める。例の微妙に数値が違う問題はやはり最初にエリアを一括で指定して圧力を与えていたのが問題だったようで、順解析を進めていくとそれなりに文献値と一致した値がはじき出されてきた。


 さて、ここまで来たらもう後は時間との勝負。ってなわけで、ひたすら無心にパソコンをカタカタしてく。アソシスの方は最初のプレソルは表面形状に関係ないから、そこさえやってしまえば後で応用が利く。手順を端折れるってステキ。


 このときの私は、これが悲劇の幕開けだとは想像すらしなかった。


 で、途中でちょこちょこミスりながらも値をはじいていく。いいかんじにσとCの正解値がくびれのところに来ていて気分がいい。あと、どのみち正解値を逆解析で用いる可能性が非常に強いから、最悪正解値だけ処理してマテリアルにぶち込めば、そのときのプレソルに対応して逆解析ができる。非常用に覚えておくこと。


 そうそう、なんだったかでたーきーの話が出てきた。あいつはいまだに心を開いてくれない。いつになったら打ち解けられるのだろうか。研究室でまともに人としゃべっている所を見たことがないんだよなぁ……。


 あと、意外(?)なことに衣笠先生はきゅうりが好きらしい。きゅうり料理のレパートリーがいっぱいあるそうな。ただ、奥さんがきゅうりとか苦手だからしばらく食べられそうにないってぼやいていた。


 播磨さんはトマトがだめらしい。青臭いのとじゅるじゅるとしている所がダメだそうだ。うちの母上と姐者と同じことを言っている。トマト嫌いな人ってみんなあれがだめなのだろうか。『そこがいいんじゃないか』とは衣笠先生の談。


 あと、誰かはウリ科の食べ物がだめだけど、メロンは平気らしい。なかなかブルジョワな偏食だと思う。


 なお、是枝さんの偏食は筋金入りで食べられないものが多すぎるそうだ。生の魚もダメだからお寿司屋さんにもいかないとか。ちょっともったいない。


 おやつの時間頃、珍しく大海先生が学部生室にやってきた。なんかN●Kから【検閲済み】学的にカニの鋏の肉をうまく取り出す方法をメールにて聞かれたとか。化学的に分解すれば一番きれいだけど手間がかかりすぎるし、最初っからき裂を入れておくのも質問の意図に反する。


 わざわざ新しい方法を考えなくても普通に鋏で割るなりほじくるなりすればいいと思った。むしろ、人間の方がカニの鋏ごと食べられるようになれば問題なくね?


 詳しい時間は思い出せないけど、その前後に非常ベルが鳴り響いた。さすがにビビる。思わず警戒しちゃうよね。


 リ●ルノアで集中攻撃をされている。せっかくためたマナを毎回二十万近く奪われ続けている。あれさえなければ今頃アップデートができたのに。連中には血も涙もないのだろうか。


 夕方ごろ、なんだかんだですべての順解析値と逆解析値を出し終え、微妙に時間が余ったので、さぁいざ【検閲済み】の【検閲済み】を変えてみよう……と作業を進めたところで問題が発生。


 なんか、片方ボルト変動させたときの5-5の順解析結果と、さっきの順解析結果の値が違っている。


 言われてみれば、あのときみたコンター表示はちょっと違和感を覚えるような感じだった。等しいトルクを与えているはずなのに、なぜか内側のボルトの方が強く締まっているって結果だったんだよね。あのときはそういうもんなのか、で済ませちゃったけど。


 で、だ。このプレソルが間違っているってことは、今日の作業全部ミスってるってことになる。さすがにブチ切れそうになった。心の中では『クソがクソがクソがクソがクソがァァァァッ!』って叫びまくってた。


 もうそのあとは全力で今日の作業をやり直すことに。とりあえず、粗いパターンは全部終わらせ、中の順解析までは終わらせられた。幸いなことにさっき以上に……というか、ほぼ文献値と一致した結果が返ってきた。これで違ってたら泣いていたところだ。


 そうそう、途中のf-【検閲済み】曲線を作るところ、あれ0.5,2,4,6,8,10倍だけでも十分きれいな値が取れるから今後はそうするように。


 最初は一つの順解析・逆解析を終わらせるのに二時間かかってたけど、慣れてきたからか最後は一時間半くらいだった。このままスピードを極めていきたい。


 結局帰ったのは1930過ぎ。最後まで残って頑張った。家帰っても暗いし、夕飯が冷凍チャーハンで超悲しい。起きるのもつらいし、徹夜しようとその場で決めた。


 意外なほど長くなった。やはりテンションがおかしいのかもしれない。そして、いまだに何が原因で圧力分布がおかしかったのかが分からない。これ、解明しとかないと後が怖くね?

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