2月4日 一般入試
──それじゃあ、社会で通用せえへんよ。 【発表練習後の准教授】
2月4日
朝の【検閲済み】線にて、人目を憚らずイチャつくバカップルと遭遇。人の目の前で飽きもせずイチャイチャイチャイチャしまくっていやがった。昨今の日本の風紀の乱れに悲しみを隠せない。朝から不快な気分にさせやがって。家でやれよ畜生が。
今日は一般入試の日のため、研究室に到着したのはおおよそ0830くらい。こっそりやってこいと言うのでこっそり来たのはいいんだけど、相も変わらず人がいない。先生もいないし、そもそもの人の気配がない。
で、ボーっとしながら日記を確認したら、なぜか20XX0203の夕方遅くに更新があった。それも、現行で付けている日記じゃなくて、あとで製本する用の原稿の方でだ。
どうにも気になったので変更点を確認してみる。ワードの普段は絶対使わないような機能を駆使し、元データと現データの相違を洗い出してみた。その結果、十月の日記の数か所に誤字修正の痕跡を確認する。
この日記に強い興味を示しているのは研究室内には八柳、世良さん、それにせいぜいが青松くらいしかいない。ついでに、誤字の修正を行ってくれるのは八柳か世良さんしかいない。
さらに、八柳はこないだ十一月の半ばごろまで校閲を行ってくれた。となると、わざわざ十月の半ば頃をチェックしてくれたのは、その事実を知らない世良さんということになる。
後で聞いてみよう……なんて考えていたら、突如校内放送が。どうやら【検閲済み】線の遅れの影響で試験時間を一時間遅らせるらしい。なんでわざわざ試験会場でないB地区にまで放送を流したのかはよくわからん。単純にそれができるほどの設備でないという可能性が非常に強い。
なんだかんだで日記を確認していたら青松がやってきた。二番目の到着。だからどうだってわけじゃないけど、日記メモにそう書いてあったからちゃんと書いておく。
1000過ぎに予定通り庄内くんが到着したため、仮配概要集の完成を目指すことに。ちょっとだけ惜しいミスによりRMSの計算が一部間違っていたため、こちらのデータを扱うことにした。
また、例によって例のごとく、【検閲済み】分布のグラフについてはそのあまりの重さにエクセルが落ちたらしく、作成できなかったとのこと。念のため作っておいてよかったと安堵する。ここまで繊細なアフターケアができる先輩もそういないのではないのかと自惚れる。
で、データが出そろったのでパパッと体裁を整えていく。グラフを全部入れ替え(【検閲済み】と【検閲済み】の関係のグラフに関しては庄内くんのものを使用)、それに連動して本文中の数字を入れ替える。最後に、図を小さくするなりしてスペースを作り、適当に今後の予定を組み上げて終了。
いくらか面倒だったとはいえ、まあなんとかなったと安心したところで衝撃の連絡が。なんと、秋道くんが練習中にケガをして救急車(?)で病院に運び込まれたらしい。金曜日の日記に詳しく書くけど、それはもうかなりグロテスクなことになったそうな。
ちなみに、銀さんもかつて負傷して一年間ほど選手として活動できなかった時期があったとか。脱臼骨折(?)とやらで、左手の親指の所の骨が外れ、さらには中で砕けたそうな。『まだちょっとだけ傷跡残ってるでしょ!』って手術痕を見せてくれた。
そうそう、あんまり関係ないけど、銀さんはあと二週間で今のイタリアンのバイトを辞めるんだって。昨日はバースデー用のお皿のデコレーションについて勉強していたらしい。『良くできてるっしょ!』ってデコったお皿の写真を見せてくれた。マジでかっこいい感じだった。
さて、秋道くんが研究室に来ることが絶望的になったため、衣笠先生が到着次第さっさと概要集を提出してしまおうということになった。が、待てども待てども衣笠先生は到着せず。
どうやら、入試関係の仕事で夜まで缶詰するのがほぼ確定していたらしい。できればそういうことは早めに知りたかった。
時系列的にどこに挟み込むべきかわからないけれど、柳下がスパイって呼ばれていた。あいつが何をしたのか非常に気になる。前からブラックなやつだとは思っていたけど、スパイ活動までしているなんて思いもしなかった。
柳下はどこまでブラックになるのか。あいつの本当の顔を知るのが非常に怖い。
午後の時間、うまい具合に南郷さんに発表練習の約束を取り付けることが出来たため、ぼちぼちと個人で発表練習をする。スライドが三枚追加されただけだから何とかなるだろうと高をくくった次第。
が、実際に南郷さんの前で発表をしてみたところ、なんと驚きの三分オーバーという数字を叩き出してしまった。これは非常に由々しき事態。どうしてそうなってしまったのか未だにわからぬ。
だいたいこんなもんだろう。あ、謝恩会についての話が出ていたけど、なんかやたらと会費が高かった。最後だからって安い店で済まさずに、ちょっとおしゃれな高級店でやるのが通例らしい。今までの倍近い集金があるとのこと。
さらには、先生方へのプレゼントについても考えねばならないとか。去年は衣笠先生に外付けハードディスク、他二人には電動マッサージ機を送ったらしい。意外に実用的なものでちょっと驚く。ハンカチとかそっち系じゃだめなのだろうか。
いずれ、それなりにまともな、かつ喜ばれるものを送らねばならないのだろう。予算が高くならなければなんでもいいや。
なお、予想通り日記の修正を行ってくれたのは世良さんだった。昨日も研究室に来ていろいろやっていたらしい。が、そのかいもあって【検閲済み】班の概要集は一日で通ったそうな。
最後に。
おやつの時間頃に来襲した小森先生が、『おう、クリタはおるか?』などと奇妙な言葉を発した。
苦笑いしながらそれに答えた粟田くんの背中は、非常に煤けていた。