表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
183/213

1月14日 懐かしいあの味

1月14日


 クソ寒い。手の感覚が消えるレベル。


 研究室に到着したのはいつもと同じくらい。すでに水瀬が到着しており、テスト勉強らしきことをやっていた。あいつ、なんだかんだでかなり早く来ることがあるから侮れない。


 さて、朝からカタカタと先日の概要集の修正を行っていたところ、奇妙な鈴の音がちゃりちゃりと近づいてくるのに気付く。


 存外ビビる。この大学で鈴を持つ者を今までに見たことがないのに。よもやこれが噂に聞くドッペルゲンガーというやつなのだろうか。


 鈴の音はどんどんと近づき、とうとう扉が開かれた。そこに立っていたのはリュックを背負ったこもりんだった。『ちょっとこれやっといてくれんか』と公聴会の案内の封筒を置いていく。全く、なんとも紛らわしい。


 ちなみにこの封筒、実家と就職先に送らなくてはならないらしい。ぶっちゃけ自宅に関しては手渡しでいいと思うし、そもそも大学側で住所を把握していると思うんだけど、なぜわざわざこちらが手書きで認める必要があるのか。理解に苦しむ。


 午前中は院生室のパソコンで【検閲済み】曲線の表の修正に入る。相も変わらずファイルがクソ重く、マーカーの色一つ変更するのにも難儀する。毎度毎度思うけど、どうしてこの研究はこんな些細なことでさえこちらの手間を取らせるのか。そろそろブチ切れてもいいだろうか?


 なんだかんだで修正を済ませ、最後の仕上げはこっちのパソコンのペイントで済ませることに。またまた腹立たしいことに、バケツツールで分布の同じ部分を塗りつぶそうとしたところ、ほんのわずかに彩度や明度が違うらしく、塗りつぶした分布がすんげえ斑になった。


 今どきの子供だったらモニターをぶん殴っていたと思う。そうしなかったのは、こんなクソのせいで拳を痛めるのが馬鹿らしいと思ったってだけだ。


 午後もぼちぼちと作業をしていたら、大海先生がふらりと学部生室にやってきた。で、いきなり『ねえねえちょっとこれ見てよ!』とUSBメモリを取り出し、なにやらプログラムを作動させる。


 なんでも、円周率を求めるプログラムをVBで開発したらしい。実際に動かして見せてくれたけど、何百桁も出てくる結構ガチなやつだった。おまけにほかの計算プログラムも見せてくれた。


 大海先生、すんげえ自慢げだったけど、一体どうしてこのタイミングだったのだろうか? きっとちょっと暇になったのだろうと思う。こもりんのところで概要集止まっているらしいし。


 おやつの時間になんとなくココアシガレットを購入。昔はそんなに好きってほどでもなかったけど、最近結構はまっている。あの何とも言えない甘さが絶妙にデリシャス。


 ココアシガレットを食べていたら、銀さんが『大変なお願いをしてもよろしいでしょうか』って改まった顔で尋ねてきた。『どうかそれを一本もらえないでしょうか』とのこと。快く渡した。


 なお、山岸にもあげたんだけど、あいつはいつも『なんでわざわざ袋から出して箱に詰めなおすの?』って聞いてくる。そんなの、そっちのほうがかっこいいからに決まっているだろうに。


 夕方ごろ、提出した概要集の査読が終わって帰ってきた。やっぱり『傾向とオーダーが一致している』の部分で詰まった。このままでは本当にそうかどうかわからないとのこと。


 しかも、『【検閲済み】を四点推測したんだからそれぞれ【検閲済み】をだしてそこから標準偏差とかをつかって誤差を比較しろ』とも言われてしまう。ここにきて仕事がどんと増えた。


 もうやんなっちゃう。高木さんの修士論文だってそこまでやっていないのに。『傾向とオーダーが一致した』で済ませているのに。なんで修士論文がそれで通っているのに卒論がこれで通らないのか。


 そもそも、高木さんのは誤差の比較すらしていない。パッと目測で合っているからオッケーですね、で終わっている。


 繰り返しになるけど、なんで私の時に限ってこうもうまくいかないのか。今までに何度も理不尽を感じたことはあったけど、この数年特にひどい気がする。そろそろ堪忍袋の緒が切れそうだ。


 最後に。かつて公聴会に彼女を招待した猛者がいるらしい。呼べる彼女がいるとかうらやましい限りだ。


 あと、鈴井はこのクソ寒いのに【検閲済み】からチャリで来ていた。朝三時に目が覚め、なんとなく『チャリで行くか!』って思い当ったらしい。耳が千切れるかと思うほど寒く、ついでに出発後しばらくするまで上着の前が開いていたことを失念していたそうな。


 あいつもなかなかファンキーだと思う。研究室を出たのは五時を過ぎていたと思うけど、一体何時に到着したのか。興味を隠せない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ