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12月23日 日記の読者たち

12月23日


 朝、電車に乗ったらいつになく空いていて超ビビる。平日のはずなのにおかしい……と思って【電車】、【空いている】で検索してみたところ、今日は天皇誕生日で祝日だったという事実が判明する。どうやら私の思考は社畜のそれに近づきつつあるらしい。


 研究室に到着したのはいつもよりちょっと早め。駆け込み乗車とかするクズがいないとこうもスムーズに運行されることに驚きを隠せない。今度から駆け込み乗車するやつは取り締まってもいいと思う。だってアレで得する人なんてやる本人しかいないし、周りにとっては迷惑以外の何物でもないし。


 一限に英気を養い、二限の化学反応特論に出席する。今日は宿題の提出日だというのにこないだほど人がいない。クズもここまで極まると逆に感心するレベル。前回に比べて中身は難しかったし、おそらく仕上げることができなかったのだろう。


 なお、私、羽鳥、青松、柳下はきちんと提出した。いろいろ忙しかったから柳下が書いたやつをみんなで写したんだよね。前回の課題は私が書いたのをみんなが写したから、特別問題あるわけじゃない。いや、むしろみんなで協力して仕上げた友情の塊とでも言うべき美しいものなのだ。


 昔の私だったら人のを写して提出することなど絶対にしなかっただろう。人間、案外変われば変わるものである。なんかあの研究室に入ってからだんだん性格的にクズになっている気がするけど気のせいだろうか?


 ちなみに、羽鳥は宿題を提出してさっさと退室していたことをここに記しておく。学会の概要集の査読の関係で研究室から席を外せなかったんだよね。


 授業内容はやっぱりなんかわけわからん並列反応とかいうやつについて。あの先生、教科書とかをそのまま読み上げるような感じでイマイチ授業的に面白くないし興味を引き付けられない。


 そんなつまらない授業の上、面倒くさい課題まで出されてしまった。並列反応の濃度の式を出してこい……ってやつだったけど、意外なことにネットで調べたら途中式まで書いているサイトが存在していることを発見。肝心の途中式が途中で間違ってたけど、まああれくらいならすぐに気付けるだろう。


 もちろん、優しい私は柳下にそのサイトの存在を教えてあげた。さりげなく、ミスに気付いたのは柳下だったりする。


 そうそう、授業からの帰り道、ふと年賀状の話題になる。で、『大学生になってから小学校の教師からの年賀状を返していない』と口を滑らせたところ、柳下が満面の笑みで『それクズじゃん!』って言ってきた。青松も『それはないわー』って言ってた。


 とはいえ、忙しくて送り返す時間がなかったのは確かだし、あの先生子供ができたからっていきなり送ってきたんだもん。つーか、なんで未だにウチの住所を知っていたのだろうか。


 思えば、小学校自体は酷く退屈で休みがとても待ち遠しかった。学校なんてマジで行きたくなかった。授業はクソつまらないし、あれなら一人で教科書を眺めていたほうが何倍もよかったと思える。


 実際、あの頃の自分は予習も復習もしてなかったし、教科書を一度読んだだけで全部覚えることができていた。座学で苦戦したことはないし、テストではミスすることのほうが珍しかった。必至こいて塾に行く連中……正確にいえば塾に行っていることを自慢げに話す連中が心の底から理解できなかった。


 塾など学校の勉強の追いつけないやつが行くところだったのに、最近じゃ一種のステータス的な扱いになるらしいね。普段の授業を真面目に受けてれば行く必要ないのに、なんでそんなことすらわからないのだろうか。


 小学校時代ほど理不尽を感じたことはない。あの時代はとにもかくにも学校に通うというそれに喜びを見いだせなかった。


 午後は学会のデータをまとめる作業に入る。一応すべてのデータは出し終えていたため、あとは体裁を整えてまとめるだけ。


 が、【検閲済み】曲線がめちゃくちゃ重くて嫌になる。エクセルファイルの癖に2MBもあるせいで、動作にいちいち時間がかかる。グラフの位置を少しずらすだけでも五秒はかかるし、時折バグりかけたパソコンのように画面がおかしくなったりする。


 さらに悲しいことに、一次と二次の二つを統合させるため、クソ重いファイルを二つ開いたうえで、一つのファイルにもう一つのデータを載せなきゃいけない。ぼちぼち作業していたんだけど、案の定途中でエクセルがフリーズした。


 柳下、青松に助けを求めるも、元のデータがクソ重いんじゃどうしようもない。毎回毎回思うけど、どうして研究作業がこうも思い通りにならないのだろうか。昔っからこうだ。何かに呪われているといっても否定できる要素がない。


 おやつの時間をちょっと過ぎたころ、朝から行方不明になった日記が本棚に返却されていた。


 どうやら世良さんが試験片を磨きながらずっとあっちで読んでいたらしい。ここ最近ずっと読んでたけど、とうとう読破したとか。『めっちゃ面白かったよ!』と褒められる。ちょううれしい。


 たしか八柳だったと思うけど、『すごく読みやすい文章』ってその時一緒に褒められた。『こもりんからは「キミの文章は日本語がなっとらん」って言われたけど』って言ったら、苦笑いされた。


 で、八柳から『小説家にでもなるか?』と言われたので、『私の文章は硬い文章にしては柔らかく、軽い文章にしては重いらしい。それゆえどの層にも受けない代わりに、受ける人にはとことん受けるだろうと言われたことがある。今回は身内ネタだから余計にそれが顕著なのだろう』と答える。『なんかわかる』って世良さんにも言われた。


 ちなみに、世良さんからは『面白いのはいいんだけど、ちょっと赤ペンで修正したいところがいくつもあった』と言われてしまった。ワードのセクション区切りのクソ仕様のところで段落とかがぐちゃぐちゃになってしまったところが気になるらしい。


 あれは書いた自分でも気になるからしょうがない。推敲する余裕があまりなかったのと、セクション区切りをする前はきちんとしていたから油断していたってのがある。まさかエピグラフを入れただけであんなにずれるとは思いもしなかった。


 あと、世良さんは紙媒体が好きらしく、『続きが気になるけど、パソコンの奴はあんまり見る気がしないんだよね』って言ってた。本じゃないと読む気がしないのだとか。気持ちはよくわかる。


 そうそう、八柳だけど、『俺の登場少なくね? ゼミと文化祭の準備しか出てないじゃん』ってこぼしていた。あいつは前期は就活していたし、そもそもカーペットルームで研究やっているからあんまり会話する機会がなかったんだよね。


 別に会話しないわけじゃないけど、日記に書くほどのものじゃなかったし。敢えて言うなら、コンビニで買ったデ●ズニー仕様の清涼飲料水をコンプして机に並べていたってのだけは覚えている。


 どうせこの部分が八柳に読まれるのは相当後になるだろうからこそ書くけれど、実は最初に日記を読破したのが八柳だったってのは結構意外だった。まさか持ち帰ってまで読むとはマジで思っていなかった。最初に読み切るんだとしたら柳下か青松か世良さんだって思ってんだよね。


 読んでいるかもしれない八柳へ。これだけ書いたけど満足してくれただろうか? たぶん【検閲済み】班の人よりかは出番多いと思うよ。


 思えば、意外にもこの日記はいろんな人に受け入れられている。わかっているだけで、井浦、青松、羽鳥、福山、山岸、八柳、柳下、世良さんが読んでいる。福山は普通に楽しんでいたし、井浦は身内ネタで面白がっていたし、山岸は肝要な研究部分をすっ飛ばして主に電車のおねーさんの記述を楽しんでいたし、そしてブラック柳下は『研究のところ要らない。あと栞ない?』ってなんともブラックに楽しんでいる。


 後期分の日記の製本がいつになるかはわからないけれど、せめて八柳と世良さんには現物を渡したいものだ。たぶん前期の記録よりもページ数も文字数も多くなるから、下手したら上下巻に分かれる可能性すらある。多少分厚くても無理やり詰め込んだほうが良いだろうか。


 今度は表紙にも工夫したいと思うけど、はてさて。とりあえず、時間を見つけて編纂作業を進め、なるべく早く製本できるようにしたい。


 内容の割に妙に長くなった。やっぱ家で書いているせいだろう。どうも家のパソコンでやると日課を彷彿として長くなるようだ。


 知られちゃまずい情報をバレかねないところに書くのって妙なスリルがあって超楽しい。前にどこかに書いたけど、この日記の本当の意味に気づく人っているのだろうか。福山が一瞬アヤシイ記述について聞いてきたけど、あれだけじゃ絶対にわかるはずがない。


 注意深く四月から読めば気づけないこともないだろうが、はてさて。もし計画が最終段階に突入し、すべてがシナリオ通りにいったのなら、そのときはバラしてみるのもいいかもしれない。今はまだ時期尚早だ。

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