12月1日 溢れ出るカリスマ
──またひずみゲージ千切れた! 【【検閲済み】班実験担当】
12月1日
それなりに寒い。が、調子乗って着こんだら電車の中で地獄を見た。
研究室に到着したのはやっぱりいつもと同じくらい。なぜだか異様に人が少なく、研究室には羽鳥と柳下しかいなかった。
で、到着早々、『昨日最後まで残ったの誰だ? 扉開けっ放しだったんだけど』と羽鳥に言われる。ところが、最後は青松がきちんと戸締りをしたという証言が。
どうやら、かなり早くに先生が来て開けていったらしい。いつもと違うことされると本当にビビる。
そうそう、なぜかは知らないけど羽鳥がうまい棒の焼き鳥味をくれた。一口目は本当に焼き鳥っぽい味でそれなりにデリシャス。が、二口目からは普通のうまい棒。おいしくはあるものの、焼き鳥を期待しているとちょっとがっかりするかもしれない仕上がり。
とはいえ、最初の一口のインパクトはすごかった。うまい棒っていろんな味があるみたいだけど、一体何種類あるのだろうか?
二限の時間までいくらか時間があったため、昨日もらった卒業後のアンケートを書き上げることに。すでに柳下は書き終えていたため、適当にチラ見してパパッと仕上げる。どうせ二年後も同じことをするのに無駄だと思わなくもない。
二限は城木先生の強度工学特論。先生は今日も元気に雑談をしてくれた。
なんでも、城木先生は中学受験をしたらしい。受験科目はまさかの全科目で、国語算数理科社会、さらには図工、家庭科、体育に芸術もあったそうな。
ところが、城木先生はあれで体育会系ではないらしく(『よく勘違いされるけど俺体育会系じゃねえよ! バリバリの文系だよ!』って言ってた)、特にテスト種目に選定されていた鉄棒は絶望的なのだそうだ。
やれる技と言えば逆上がりと前回りくらいで、空中前回りとかちょっと進んだ技は一切できないこと。ちなみに、奥さんは体操部だったから鉄棒が超得意なんだって。
で、そんな絶望の体育テストをどう乗り切ったのかというと、『合法的に裏口入学してやったぜ!』と笑顔で答えてくれた。先生は帰国子女だから、体育テストのない帰国子女枠で入学できたらしい。なんかちょっと意外。
さて、そのうち城木先生のお子さんの話になった。現在五歳らしく、様々なのもに興味を示し、いろいろと質問攻めにしてきたりするとか。
特に最近のお気に入りは国旗についてで、プレゼントだか貸してもらっただか、ともかく新しく手に入れた国旗の本をちょこちょこと持ってきてはいろんな質問をするのだそうだ。
が、血は争えぬのか(自身で『誰に似たんだ?』って言ってた)、質問内容がめちゃくちゃ深い。『アメリカ国旗を縦に表示するとき正しいものは?』、『現在使用されている国旗の中で一番色を使っているのは?』、『一見同じに見えるこの国旗、違いは何?』、『日の丸が正式に認定されたのはいつ?』……などと、およそ五歳児の質問とは思えないものばかり。
なお、息子の様子を語る城木先生は非常ににこやかで楽しそうであったことをここに記しておく。あの人、下手したらこもりんと同じレベルで親バカかもしれない。
で、なんだかんだと話しているうちに今度は【検閲済み】研の話になった。なんかよくわからんけど【検閲済み】研では白い●塔ごっこが慢性的にはやっているらしい。しゅーみんがナントカって人の役をいつもやりたがり、半強制的にごっこあそびに巻き込んでくるそうな。
しかも、パソコンでカタカタと作業しているのにもかかわらず、二時間ほどその真正面でニコニコしながらずっと語りかけてきたりもするらしい。ここまでくるといっそ尊敬の念すら覚える。
あと、しゅーみんは仲良くなるとスキンシップが激しくなるとかならないとか。【検閲済み】くんはなぜか仲良くなって『【検閲済み】くん』と親しげに呼ばれることとなり、執拗に肩を揉まれるようになったんだって。
時系列が分からないのでここにいれるけど、『【検閲済み】研にとって便覧は聖書に等しいんだろ?』って話が上がった。もちろんみんな、【検閲済み】研の人すら笑っていた。
さてさて、盛り上がってきたところで城木先生はとっておきの話をしてくれた。なんと、以前城木先生に【検閲済み】の出演依頼が来たことがあるらしい。主人公が【検閲済み】っていう、なかなかビッグなタイトルだ。
なんでも、【検閲済み】演じる主人公の学生は【検閲済み】について研究しているらしく、モロに基材研の研究とかぶっていたため、どういったことを研究しているのか、どんな環境で研究しているのか、指導してもらえまいか、あるいは一緒に出演してくれないか、とのことだったらしい。
もちろん城木先生は大喜び。【検閲済み】すら食ってしまうあふれ出るカリスマでとうとう芸能界進出を果たしてしまうと喜び勇む。が、隣で電話を聞いていた総務課に『NGで』と無慈悲なる宣告をされてしまったんだって。
『俺の芸能界進出を邪魔しやがって! 大スターの芽を摘みやがって! なんで【検閲済み】がよくてドラマがだめなんだよ!?』って言ってた。広報的な意味でも、別に出演したって問題なかったと思うけど。
なんか想像以上に城木先生の話が長くなってしまった。そろそろ普通の話題に戻ろう。
午後は引き続き学会とかの資料作成……なんだけど、城木先生の話が印象的すぎてイマイチ何をやったのか覚えていない。
ああ、思い出した。午後は仮配生の指導に励む。庄内くんと秋道くんを呼び出し、楽しいアソシス教室を開催した。なお、その間に銀さんには実験をやってもらうことに。うれしいことに何と加振位置の検証までしてくれることになった。本当にお疲れ様です。
さて、アソシス教室の方だけど、解析の引継は一応庄内くんだから、説明なんかは二人とも共通だけど、実際の作業は庄内くんに作業を担当してもらった。
さすがにあのポンコツをいきなり使うのは難しいようで、こちらもサポートに回ったもののかなり精神的に疲れている様子が見受けられた。秋道くんも『面倒すぎやしませんかねぇ……』って後ろから庄内くんのサポートに励む。
あのクソポンコツ、なぜかいきなり英語表記になるというバグをやらかしやがった。今まで何度も使ってきたけど初めて見るバグ。なぜこういうときに限ってそうなるのか、本当にわけがわからない。
唯一幸いだったことと言えば、無事にメッシュが切れたことだろうか。あればっかりは完全に原因不明で対処のしようもないし、どうしようもないからね。
なんだかんだで定時までに要素・節点ファイルを吐き出すところまで進めることが出来た。サポートありとはいえ、ほぼ初めてのアソシスで半日でモデル作りができたのはなかなかいい感じ。
一応マニュアルは丁寧に作ってあるから、メモを取ってなくてもある程度は何とかなるはずだ。もし問題にぶち当たった時、彼らがどう対応するのか今から楽しみが隠せない。
銀さんの実験の方は3 kNまで取り終える。なんかこれ以上は塑性変形しそう……というか現段階でねじ山がいくらか潰れてしまっているらしい。とりあえず、取れたデータだけもらい、これ以上の荷重の負荷については衣笠先生に相談するってことになった。
夕方ごろ、みんなで研究室でたむろしていると、ぺたんぺたんという特徴的な足音が聞こえた。そこにいたみんなが衣笠先生がやってきたと悟る。寝転がってスマホをしていた羽鳥は大慌てて姿勢を正し、パソコンに向かいあう。
が、やってきたのは東原。なんとも不思議なことに、東原と衣笠先生の足音がいい感じに似ていた。羽鳥のあまりのビビりっぷりにしばし笑う。
なんだかここ最近で一番と感じるくらいに長くなってしまった。文章量もさることながら、記述時間も三十分以上。内容が濃いのはいいけど、もうちょっとスピーディ、かつコンパクトにまとめられるようになりたい。
そんなことを書いたそばから山岸が繋げさんになったことを思い出した。丸と三角を繋げたことをいまだにネタとしてからかわれている。
山岸と言えば、微積分学の狩部先生のモノマネを披露していた。特徴的な低音としゃべり方が非常によく似ている。が、語尾の『~ね!』を再現していなかったのだけはいただけない。
指摘したら『あれだろ、一コマ二百回以上はやってただろ』と返される。そこまでわかっていてなぜやらないのか。
なお、山岸は狩部モノマネのまま『斎藤さん』をやっていた。『なんでそんなに声が低いの?』という相手の質問に対し、『狩部だからだよ』とさらっとクールに返す。あいつもなかなかファンキーだと思う。
本当にどうでもいいことだった。ここらで筆を置く。最近柳下が学会準備者特有の陰鬱な雰囲気を放ち始めたのでちょっと注意してみておくように。