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11月4日 文化祭のお金の返金

 ──それじゃあ最後の人、電気と戸締りお願いします。 【研究室幹事】

11月4日


 嫌な夢を見た。白衣を着た【検閲済み】班(福山、桐野、鈴井、八柳、南郷さん、麻生さん)に囲まれ、カーペットルームの机の上で手足を拘束された夢だ。研究室の様子も【検閲済み】班のみんなも普通なんだけど、誰も私が拘束された状態で机の上に寝転がっていることに疑問を覚えていない。


 手足は拘束具でしっかりと固定されている。まさに実験動物のようだった。ちょうど両手を万歳するかのように固定されているため、ちょっとの身動きすらできない。


 それでもなお必死に足掻いていた次の瞬間、体に激痛が。血管の中に無数の針を流し込んだかのような、腕が張り裂けるかのようなもの。どことなく焦げ臭いにおいと鉄の匂いがすると思ったら、肌が裂け、ついでに黒く焦げていた。


 『磁束密度が安定しないねー。もういっちょやってみよっか!』と南郷さんの明るい声。首だけを動かして足先を見たら、福山がリード線の先を私の足の親指に着けていた。


 やめろ、と声をかけようとしたその時再び激痛が。目の前が真っ赤になり、口から血が溢れ出るのを感じる。両足が何かに蹂躙され、感覚がない。そのくせ針が血管内を暴れるような激痛だけは感じる。鼻の奥がツンと痛んだ。


 ここにきてようやく、自分に電流が流されているのだということを知る。『電流が一様に流れない……どうしろってんだよ!』と福山は何度も銅線の位置を変え電気を流してくる。脚、腰、腹、腕とだんだん頭に近づいてきた。


 貼り付け位置が頭に近づくにつれ、例の針の暴れる痛みも凶悪なものになっていく。拘束されているため、耐えるのも暴れるのもままならない。『もっと気合入れてやらなきゃ!』と麻生さんと南郷さんが福山に注意をするたび電流値が大きくなっていく。最後のほうは血反吐ともに針を吐き出したと錯覚したくらいだ。


 桐野らはひたすらテスターの数値を読み上げている。『もうちょっと電流値上げたほうがいいんじゃない?』、『ノイズデカいからなんとかしろよ』などと、その都度場違いなアドバイスを福山にしていた。


 そしてとうとう、『ここが一番一様に電流が流すことができる!』と福山が満面の笑みで私の舌をペンチで引っ張り出し、それを張り付けた。すでに首から下が炭化しており、動けない……というか、あいつがリード線を取り付けるときにボロって首から下が崩れた。頭しかもう残っていない。なのに悲鳴の一つも上げられない。


 『いってみよう!』と最後のスイッチが入れられた瞬間、目が覚める。最悪の気分。なんか全身が変な感じがする。疲れているのだろうか。ゼミが近いし。


 研究室への到着はいつもと同じ。休み明けなのに水曜日で先行履修がある。なんかちょっと得した気分。最終的な差引はマイナスなんだけど。


 一限は英気を養い、二限は先行履修に。やっぱり一次反応だの二次反応だのを学ぶ。正直あれってやる意味があるのかわからない。似たようなことしかやっていないし、具体的にどう生かされていくのかのヴィジョンが見えない。


 そうそう、振動実験のためにサーボパルサーを借りるって話だけど、是枝さんがずっと破断試験を行っているため、借りられなかったそうだ。ぶっ壊れた方も未だ島●の人が来る気配がなく、ほぼすべての班において絶望的な状況。


 午後は逆解析用の【検閲済み】曲線の作成を行う。こないだすでにマテリアルファイルを作成したため、それをn倍したファイルを複数作ってアソシスに読み込ませるだけの簡単で面倒くさい作業。


 せっかくなのでこの一連の工程を楽にするためのテンプレを作ってみた。Ez平均値を入力し、【検閲済み】を入力するだけでゼミに載せられるグラフが一発で仕上がるっていう優れもの。ついでに作業工程のメモも載せておいたから、知らない人間でも作業ができたりする。


 これでこの身に何が起きようとも庄内くんがなんとかしてくれるだろう。【マテリアルシート作るテンプレ】も改良を加えたし、彼がこの先困ることはたぶんないはずだ。


 そうそう、例の電気ケトルは完全にぶっ壊れたようで、もううんともすんとも言わないらしい。そのためお昼ご飯にカップめんの類を食することが不可能になってしまった。


 なので、柳下が全体ラインに『文化祭の売り上げから電気ケトルを購入してよいか』という旨のメッセージを送る。一秒もたたぬ間に羽鳥が賛成意見。それを呼び水として瞬く間に過半数の賛成が。これほど露骨な自演も珍しいと思う。


 文化祭で思い出したけど、売り上げの精算が一応終わったらしく、出資した分の返金があった。旅行代金の余ったお金(ジェット船利用が普通の客船に変更になったアレ)から回していたため具体的な金額は知らなかったけど、実に三千円ほども手元に戻ってくる。元は自分の懐から出ているものとはいえ、なんか得した気分。


 とりあえず、GE2RBを起動するために必要なメモリーカードを購入しようと心に決めた。実際、その日の晩に購入したことを記しておく。その時にもらった福引券は母上に渡した。ぜひとも有効活用してもらいたいものだ。


 あと、銀さんと羽鳥に勧められてスマホのFFをダウンロードしてみた。ガチャを引くもろくなのが当たらず。ちょう悲しい。


 夕方ごろ、羽鳥が文化祭と研究室対抗運動大会の写真をコピーして取得していた。なんでわざわざあんな大量の写真が必要なのか聞いてみるも、『記念にほしいだけ』の一点張り。自分に全く関係ない写真の方が多いのに、一体どういうことだろうか。果たして本当に記念のためだけなのだろうか。


 どうせまたクソコラ画像の素材として使うのだろうと思っている。あいつはそういうやつだ。


 最後に。日記メモに『謂れなき誹謗』と書いてあった。たしか真島さんに『──くんはM0が学会にでないとネチネチ言う』って言われたことだと思う。


 まさかそんな風に見られていたとは……。よりにもよってこもりんに言ってたし。ちょう悲しい……けど、私以外のM0は学会に出てないわけだし、私にはそれを言う正当なる権利があると思う。今日はこの言葉を持って日記の締めとさせていただく。

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