アホ可愛いってこれのことか
あれから2日経った昼ごろ、家の扉をノックする音が聞こえた。
ギルはそんなことしないし、気のせいかと思い無視をした。
2回目のノックの音。
ふむ、気のせいじゃないのかもしれない。
重い腰をゆっくりあげ、扉に向かう途中、3回目のノックが聞こえた。
せっかちなやつだ。私は覗き穴も見ずに、扉を開けた。
「おなかがすいた!帰り道も、わからない。おまえ、俺を助けろ!」
私を見るや否や、詰め寄ってきて要望を一方的に話してくる…鬼の子?
こめかみに小さな突起が二つ付いてるし、これは鬼だな。
鬼って何食うんだ?
「おい、聞いてるのか?まず開けるのも遅いし、お前は愚鈍だな!」
なんだか腹が立つやつだが、踏ん反り返っているのが少し微笑ましい。
アホみたいだからだ。決して可愛いとかじゃない。
「どんなもの食うんだよ。うちにはご馳走はないよ。」
喋り方や態度がなんだか偉そうだ。
実際に偉い立場なのかもしれない。
「肉であればなんでもいいぞ!」
なんでもいいと言うことなので、干し肉を与えることにした。
「お前…これなんだ、こんな固い肉初めてだ!何が何でも食ってやる…!」
干し肉をめんどくさいから分厚いまま渡してやったら、なぜか闘争心を燃やしている。
やっぱりこいつは、アホだ。
「帰り道なんて、お前がどこからきたのか知らないよ。どこから来たんだい?」
最近外を出てないから情勢には疎いが、そうそう地名は変わらないだろう。
鬼に国があるとかも知らないが。
むしろ鬼なんて初めて見たが。
「知らない…。どこって言われても、場所なんて知らない!綺麗な鳥が俺をここまで導いた。そいつが俺の帰り道を知っているかも!」
こいつは、本当にアホだ。
導いたんじゃない、ただ勝手に鳥に付いて行っただけだ。
道なんて知っているわけがない。
「はぁ…とりあえず、迎えがくるまでここにいな。仕方ないね、全く。」
鬼族に敵とみなされても困るからな。
全く、仕方のないことだ。
「そうだな!仕方ない、ここにいてやるよ!」
どの口が言うんだこのガキが。
*
それから4日後、迎えが来た。
とても逞しくて恐ろしい形相の鬼たちが、慌てていたのが滑稽だった。
何度もお礼を言われたが、違和感が凄かった。
しかし、ギルが帰ってくる前に来てくれてよかった。
扉を開けるなって、言っていたような気がするからな。
あいつは話が長いから、ほとんど聞いてないが。
扉を開けるな、外に出るな、だったと思う。
まあ、バレないだろう。大丈夫だ。