表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自作小説倶楽部 第15冊/2017年下半期(第85-90集)  作者: 自作小説倶楽部
第85集(2017年7月)/「太陽」&「船」
5/38

04 らてぃあ 著  船 『黄金の砂漠の夢』

挿絵(By みてみん)

素材:足成



   『黄金の砂漠の夢』


 あれは1943年の夏のことでした。私は16歳で照り付ける太陽の下、青い海原を前に絶望していました。少し前まで使命に燃えた一等水兵だったというのに。私が乗り込んだ巡洋艦はあっけなく敵の潜水艦に撃沈されてしまい。下っ端のため何故こんなことになったのか、船の任務が何だったのかすらわからないまま海に放り出されてしまったのです。

 海に投げ出されて、どこをどう泳いだのかわかりません。海の上に顔を出すと覆いがついたままの一隻のボートが漂っているのが見えたので何とか泳ぎ着きボートに乗り込みました。それっきり同僚にも上官にも会えませんでした。私は海の上にひとりぼっちになりました。

 そうなってしまうと出向前に同僚といい気になって敵軍をこき下ろしたことすら後悔の種になります。覆いで太陽の光を防ぐことは出来たものの暑さと渇きは私を簡単に追い詰めます。いっそ海に飛び込めば楽になれるとも考えましたが、私の首に絡まるペンダントの鎖が私を生の世界につなぎとめていました。それは出征の時に幼馴染の少女から贈られたお守りでした。私は立派な兵士になって故郷に帰り、大人になった彼女にプロポーズするつもりだったのです。

 いくつもの幻が、蜃気楼が現れては消えました。私が何日、海を漂っていたのか記憶も定かではありません。半死半生の状態でいつ夜がきていつ朝になったのかもわかりませんでした。

気が付くと夜だったのです。それが夜だったのは間違いありません。夜という闇の時間が私をあるべき世界から隔離してしまったに違いないのです。

 目を覚ますと。空には白くて円い月が輝いていました。月の光が焼けた肌に冷たくて気持ちがいいと思い横たわっているうちに私は不思議なことに気が付きました。波の音がしないのです。ボートから身体を起こし海を眺めました。いくつもの起伏が私の前に広がります。しかしそれは海でも、海水ですらありませんでした。月の光の下、それは金色に輝いていました。身を乗り出して手ですくうと指の間からさらさらと零れ落ちて輝きながら散っていきました。思い切って足を出すとブーツが少し沈みましたが確かな感触がありました。

 いつの間にか、私が漂っていた海は金色の砂漠に変わっていたのです。

 茫然として座り込んでいた私の視界に人影が現れました。見上げると頭の上に壺を乗せた女です。飴色の肌に切れ長の目で長い布を巻き付けたようなドレスを着ていました。白人でないのは確かですが田舎者の私に彼女がどこの国の人間かわかりようもありません。身振りで飲み物が欲しいと訴えると壺が差し出されました。中には冷たい水が縁まで入っていました。私がそれを飲み干すと女のほうが身振りで付いてこいと言いました。そのままふらふらと立ち上がった私の足下に何かが落ちました。

 お守りのペンダントでした。

 それを拾い上げて我に返りました。

 女が人であるはずがありません。与えられた水を飲んだことすら悔やまれます。

 私はボートの中に戻るとうずくまり、女に向かって固い表情で首を振りました。女は眉をひそめましたがボートに触れることも無く立ち去りました。しばらくの間、女が仲間を連れて戻って来るのではないかと警戒していましたがひどい疲労感に襲われ眠ってしまいました。


「さて、見つけたぞ。まず盗んだ手記を出しな」

 俺は凄みを効かせて若造を睨み付けた。無精髭も似合わない相手はひぃ、と悲鳴を上げて鞄を抱き締めた。俺はそれをもぎ取り鍵を引きちぎると鞄の中から古いノートを取り出した。ざっとめくって異常がないか確認する。

「お、お願いだ。見逃してくれ。砂金を手に入れて戻って来たら、あんたにもたんまり分け前をやるからさ。俺はエルナーが漂流した海域を特定したんだ。きっとうまくやる。靴底に偶然入ってた砂金どころか樽に一杯の砂金を持って帰ってみせる。その手記の内容が嘘じゃないってちゃんと証明出来る」

俺はすがり付く若造を問答無用で船から引きずり下ろし、捜索に協力してくれた船長に丁寧に礼を言った。

 船長は「お互いに困ったもんですな」と応えてから、軽蔑の混じった視線を若造に投げ掛けた。

嘘じゃ無いぃ!! と叫びかける若造の頬を軽く叩いて、目を俺に向けさせてから言った。

「俺は エルナー氏の手記を疑っちゃいない。どこかに砂金の砂漠に通じる航路もあるだろう。だか、信じられないのは、お前だ。エルナー氏には帰りたい場所があって、愛する人間がいて、立派な大人になるという夢があった。だから、帰って来れた。だが、お前は若いのに人生にも人間関係にも躓いて、逃げて。エルナー氏の手記で一攫千金狙う。海に出たが最後、間違いなく帰って来れなくなるんだよ」

 若造は何か言おうとしたが余裕を与えず俺は言った。

「俺を雇ったのは誰だと思う? お前に手記を盗まれたとエルナー氏の孫のレイチェルと大家の婆さん、大学の学友たちさ。カンパを募って金を集めたんだ。帰ったらまず、皆に謝ることから始めるんだ。自分が世間を捨てても世間も同じとは限らないさ」

 若造はやっと自分の意思で俺の顔を見た。

     了

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ