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自作小説倶楽部 第15冊/2017年下半期(第85-90集)  作者: 自作小説倶楽部
第90集(2017年12月)/「大晦日」&「猫」
36/38

05 らてぃあ 著  大晦日 『大晦日奇譚』

挿絵(By みてみん)

写真:ぱくたそ/河村友歌 渡辺友美子/「仲良くお参りをする仏女」Ⓒ大川滝也



   『大晦日奇譚』


「ああ、もう、ムカつく! あたしが一体何をしたっていうのよ!」

 あたしはひとり毒づいた。

「カケルのアホ! 課長のハゲ! アヤコのドブス! 母さんの…」

 さらに悪口は三巡し、あたしは知る限りの罵詈雑言を吐き出した。

 そもそもの起こりはあたしの彼氏のカケルがクリスマスの予定をドタキャンしたことだ。仕事のトラブルという理由はこれで何度目かわからない。さらに腹が立つのはトラブル解消後、まっすぐあたしの元に来ないで、同僚と打ち上げと称して安酒場で呑んでいたことだ。翌日に渡されたプレゼントも指輪ではなくショボいペンダントだった。

 次の日は些細なミスを課長が指摘して、どうでもいいお小言を二十八分も続けられた。

 それらのことを親友だったアヤコに愚痴るとわかってくれないばかりか「あんたが身の程知らずなのよ。もっと謙虚になろうよ」と言われた。あたしは絶対アヤコの旦那のようなパンダ男で満足するものか。

 そして大晦日、実家に帰るとあたしの部屋は物置になっていた。

 母さんは「あんたはほとんど帰ってこないでしょう」と反省の色もない。

 怒る気力も失ってテレビに前に座っていたあたしにお婆ちゃんが「除夜の鐘を突きに行こう」と誘った。

 断ればよかったのに酔って思考力を失っていたあたしはお婆ちゃんとその友達と一緒に近くの山寺に向けて出発して……、気が付くとあたしは一人になっていた。

 充電し忘れたのか携帯は沈黙したままだ。

 道は真っ暗でなにも見えない。空気はひんやりと冷たいが風はなかった。足元はぐにゃぐにゃとしてひどく頼りなかった。泥だろうか。ブーツが汚れちゃう。

 遥か下を町の明かりが輝く。それが一層あたしをみじめにした。


 途方にくれたあたしの目に白いものが映った。ウサギ? そうではない。子供だ。離れた場所にいるから小さく見えた。6歳くらいだろうか。金の縁取りのある白い和服を着ている。

 子供でも助かった。あんな高価そうな物を着ている子供はさぞかし大切にされていることだろう。目の届かないところにいれば親は必死で探す。

「ねえ、ねえ。ボク。どうしたの? 迷子? お姉さんが一緒にいてあげようねえ」

 近寄ると子供は澄んだ水晶のような瞳であたしを見上げた。すごくきれいな子供だ。つか、男の子? 髪は肩に届くおかっぱだ。まあ、どっちでもいいか。

「迷子ではない。これから煩悩を取り除きに行く」

 大人のような口をきく。なんて生意気な子供。しかし機嫌を損ねられては困る。でも煩悩を取り除くというのは目的地は同じってことよね。

「君も除夜の鐘を突きに行くのね。あたしもよ」

「除夜の鐘?」

「一年の終わりにお寺の鐘を108回鳴らすことよ。108は煩悩の数。人間の五感と意識で六根。そこから生じる六塵という情報、それが好、悪、平の三種類に分けられる。どうしてか、さらに染と浄の感情に分ける。最後に過去、現在、未来。6×3×2×3で108よ」

 お婆ちゃんの友達からの受け売りだけどすらすらと頭から出てきた。あたしって天才?

「面白いな。じゃあ、今年はそれでやってみようか」

「?」

 疑問や生意気な態度を追及するより早く、目の前に鐘突き堂が現れた。周囲には誰もいない。お婆ちゃんたちはどうしたんだろう。いやだ。集団遭難?

 鐘を打つ太い棒の下には子供の背を補うのにちょうどいい高さの台があった。子供は迷わず台に上がり綱を引く。

「まずは過去の煩悩から」

 ごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~ん。

 あたしの内臓を揺るがすような音が響いた。

 勝手に突いたらお寺の人に怒られるよ。注意しようと思うが言葉が出ない。鳴り続ける鐘の音に自分の身体も心も打ち砕かれるような気がした。

「さて、今の煩悩」

 ごおぉぉぉぉぉ~~~ん。

 ごおぉぉぉぉぉ~~~ん。

 ごおぉぉぉぉぉ~~~ん。

 ごおぉぉぉぉぉ~~~ん。

 ごおぉぉぉぉぉ~~~ん。

 ………

 ふっ、と眼下の町の光が消えた。

「これからの煩悩」

 ごおぉぉぉぉぉ~~~ん。

 ごおぉぉぉぉぉ~~~ん。

 ごおぉぉぉぉぉ~~~ん。

 ごおぉぉぉぉぉ~~~ん。

 ごおぉぉぉぉぉ~~~ん。

 ………

 あたしは悲鳴を上げた。しかしすでに声帯はおろか、あたしの肉体は存在しなかった。恐怖すら粉々になり原子に分解される。

「これで最後だよ」

 澄んだ声があたしの魂に告げた。

 そして響く最後の鐘の音。


 宇宙も世界もあたし自身も再構築され、新しい年が明けていた。

     了


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