03 E.Grey 著 猫『黒谷御前5 公設秘書・少佐』
//粗筋//
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衆議院議員島本代議士の公設秘書佐伯祐は、長野県にある選挙地盤を固めるため、定期的に彼の地の選挙対策事務所を訪れる。そして、空き時間をみては、遠距離恋愛をしている婚約者・三輪明菜とデートを楽しむのだった。今回の長野入りは、センセイの縁者である黒谷夏帆が、愛車スバル360に佐伯を乗せての登場だ。幼馴染の不穏な動きに明菜は心穏やかではない。夏帆の祖父は黒谷御前といい、地域では有数の資産家だ。その黒谷御前が何者かに命を狙われているという。センセイの命もあり、佐伯は、夏帆の運転で、明菜とともに御前の屋敷へとむかった。その晩、御前は、時限式で放たれる吹き矢によって殺害された。
写真:足成/Ⓒびすこてぃいさん
05 猫
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翌日。
県警の検死によって、黒谷御前の死亡推定時刻は、午後八時から十時の間であると、真田巡査部長を介して、佐伯に伝えられた。
八時過ぎに、佐伯と真田巡査部長が入浴していた。脱衣した佐伯を見ようと、夏帆と二人の叔母、朝比と夕比の二人が脱衣場に来ていた。
私はその間に、黒谷御前にセクハラを受け、張り倒して部屋を飛び出した。入れ違いに、家政婦長の菊乃、その養女で新米家政婦の楓が部屋に入ってきて、変わり果てた御前を発見する。その入れ違う時間、五分ばかりの隙間に吹き矢が放たれたということになる。
「空白の五分間か……」佐伯がつぶやいた。
被害者の黒谷御前がいつも寝ている布団の枕元に置いてあった、エンディングノートには、遺言状と同じく遺産相続人の名も記されている。犯人はそれを読んで、老人を殺害した。――ならば実際、遺言状の記載はどうだったのか。
「エンディングノートと遺言状の内容が違う……」
法的拘束力を持たないエンディングノートでは、全財産を夏帆一人に譲るとあったのだが、法的拘束力を持つ遺言状では弁護士を通じて次のようにせよとあった。まず、屋敷など資産を売却し、使用人たちに勤務期間に応じて、退職金を差し引く。残る遺産は、長女の朝比、次女の夏比、そして孫娘の夏帆で三分割せよという内容になっていたのだ。
黒谷御前のエンディングノートと遺言状との内容に食い違いがあるのは、近く遺言状を書き直そうとしていた証となる。犯人はそれを阻止するために殺したのか?
現状での警察の仮説だと真田さんが言った。
家政婦長の菊乃と楓の二人は、犯行時間に、厨房とつながった使用人の控え部屋におり、番頭や料理人と一緒にまかないをとっていた。それから主人の部屋へむかうことになる。
佐伯は菊乃と楓に聞いた。
「八時過ぎ、部屋に入る直前、廊下で誰かとすれ違いましたか?」
「いえ、誰とも……。しいて言えば、旦那様が飼っておられたタマくらいです」
タマは年をとった雌の黒猫だ。
庭にいたそれが廊下を歩いてやって来た。
つづく
//登場人物//
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【主要登場人物】
●佐伯祐……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。
●三輪明菜……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。
●島村代議士……佐伯の上司。センセイ。古株の衆議院議員である。
●真田巡査部長……村の駐在。
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【事件関係者】
●黒谷御前……地方名家で島村センセイの縁者。
●黒谷源一郎……黒谷御前の一人息子で夏帆の父。先の大戦で戦死した。
●黒谷朝比……黒谷御前の長女。源一郎の妹。
●黒谷夕比……黒谷御前の次女。源一郎の妹。
●黒谷夏帆……黒谷御前の孫娘で女子大生。現在は東京在住。明菜の幼馴染にしてライバル。
●菊乃……黒谷家の家政婦。
●楓……菊乃の養女。
*全10話程度の予定です。




