03 柳橋美湖 著 ハロウィン 『北ノ町の物語』
【あらすじ】
東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、実は祖父がいた。手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきて、北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。
お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくそこは不思議な世界で、行くたびに催される一風変わったイベントが……。 最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上で魅力をもった弁護士の瀬名さんと、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩さん、二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ。さらには魔界の貴紳・白鳥さんまで花婿に立候補してきた。 このころ、お爺様の取引先であるカラス画廊のマダムに気に入られ、秘書に転職。 ――そんなオムニバス・シリーズ。
写真:足成/©工藤隆蔵さん
北ノ町の物語
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41 ハロウィン
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クロエです。神隠しの少女救出作戦で、軽便鉄道車に乗った私達は、鉄道連絡船で、大海原に浮かぶ氷城に上陸。雪の女王様のおもてなしを受けました。そしてお土産の箱を頂いたのです。
♢
早朝未明、大陸行きの鉄道連絡船が、氷城から出航しました。氷城から少し緯度が南へ下ったのでしょう。遠くに見える島の山々は紅葉です。
脚のある人魚族アテンダント・由香さんのお話によると、遠くに見えている島は、南瓜島というのだそうです。
信号弾が上がったので、何かと思って、上部構造キャビンから遊歩デッキに出てみると、従兄の浩さんと顧問弁護士の瀬名さん、それからヴァンパイアの白鳥さんが、欄干に並んで海を観ていて話をしていました。
従兄の浩さんが、白ワインのグラスを手にした、白いジャケットを羽織った、白鳥さんに尋ねます。
「白鳥君、あの信号弾は?」
「遠くに見えるのは、南瓜島っていう。下を見てみるがいい」
「なんだ、あの南瓜頭の一団は――」瀬名さんが首を傾げました。
するとです、舳先で割れた白浪に、どんぶらこっこと南瓜の大群が漂っているではありませんか。いや違う、南瓜頭をした数百名が、水上オートバイを駆って、船の左舷にピッタリついてきているのです。
「瀬名さんも白鳥さんも初めてご覧になるのですね。北洋海賊〝南瓜党〟ですよ」
「北洋海賊? 南瓜党?」浩さんと瀬名さんが口をそろえてきき返しました。
「南瓜大王は、北洋を荒らしまわっていた海賊だ。しかしおかしい。数十年前、海上騎兵隊によって殲滅されたという話だが……」
「えっ、海上騎兵隊って?」
ロケット砲で、鉤が付いたロープを飛ばして、船縁に引っ掛け、南瓜軍団がよじ登って来ました。
海賊は、背中にライフルを背負っていて、甲板に雪崩れ込んでくると、威嚇射撃をしてきたのです。
悲鳴があがりました。
アテンダントの由香さんが、いつの間に用意したのか、機動隊がつかう防弾盾を巧につかって、海賊の銃弾をかわしつつ、時々、警棒で反撃していました。
「皆さん落ち着いて。メイン・デッキにいらっしゃるお客様は、キャビンへご避難下さい」
外に出ていた乗客達が、船室に逃げ込むまで、時間稼ぎ。
浩さん、瀬名さん、白鳥さんが、それぞれ、電脳執事さん、護法童子くん、使い魔さんを召喚。
他の客とは逆に、お爺様とマダムが、「嫁入り前のクロエに何をする」と言わんばかりに、メインデッキに飛び出して来ました。
こうしてメインデッキは大乱闘です。
みんなで、徒手空拳で戦っていると、なぜだか、スピーカーから行進曲が流れてきました。
白鳥さんは、無粋な戦いに飽きたらしく、呼び出した使い魔さんに後を任せ、デッキに設置されたベンチの一つに腰かけ一休みして、グラスの白ワインを口になさっていました。
「どうです、クロエさんも?」
(白鳥さんは空気を読まない……)
船楼から、ジョン・フィリップ・スーザ作曲「黒馬騎兵中隊」のマーチが流れてきたではありませんか。
(マーチを流すくらいだったら、ちょっと手伝ってくださいよお……)
南瓜大王と一味の海賊達のうち数十名が、私達・鈴木一門食客を取り囲みました。
「久しいな、海上騎兵隊長・鈴木三郎」
「先の戦闘で我々が壊滅したことで、部隊を解散させたことは、早計だったな。おかげで我々は、長らく地下に潜伏し、復讐の時を待っていたのだ」
お爺様は、何気に、コートのポケットに手を入れると、中から小さな宝石箱を取り出しました。箱と蓋との継ぎ目から、ドライアイスが出す白煙のようなものが、フシュルルル……と噴き出してきました。
不敵な笑みを浮かべたお爺様は、蓋を開けると、床に落としました。
「数を数える。0になったら皆で、ジャンプだ」
3・2・1……。
「0」
♢
それでは皆様、また。
by Kuroe
【シリーズ主要登場人物】
●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。
●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。
●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住む。クロエに好意を寄せる。
●鈴木ミドリ/クロエの母で故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。
●寺崎明/クロエの父。公安庁所属。
●瀬名武史/鈴木家顧問弁護士。クロエに好意を寄せる。
●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。
●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。
●メフィスト/鈴木浩の電脳執事。
●護法童子/瀬名武史の守護天使。
●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。
●神隠しの少女/昔、行方不明になった一ノ宮神社宮司夫妻の娘らしい。
●由香/ダイヤモンド鉱山〝竜の墓場〟のある大陸へ向かう三本マストの鉄道連絡船アテンダント。脚のある人魚。鬼族の軽便鉄道運転士から異界案内役を引き継ぐ。




