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自作小説倶楽部 第15冊/2017年下半期(第85-90集)  作者: 自作小説倶楽部
第88集(2017年10月)/「ハロウィン」&「魅了」
23/38

03 柳橋美湖 著  ハロウィン 『北ノ町の物語』 

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、実は祖父がいた。手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきて、北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。

 お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくそこは不思議な世界で、行くたびに催される一風変わったイベントが……。  最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上で魅力をもった弁護士の瀬名さんと、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩さん、二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ。さらには魔界の貴紳・白鳥さんまで花婿に立候補してきた。  このころ、お爺様の取引先であるカラス画廊のマダムに気に入られ、秘書に転職。  ――そんなオムニバス・シリーズ。

挿絵(By みてみん)

写真:足成/©工藤隆蔵さん




   北ノ町の物語 

.

      41 ハロウィン

.

 クロエです。神隠しの少女救出作戦で、軽便鉄道車に乗った私達は、鉄道連絡船で、大海原に浮かぶ氷城に上陸。雪の女王様のおもてなしを受けました。そしてお土産の箱を頂いたのです。

     ♢

 早朝未明、大陸行きの鉄道連絡船が、氷城から出航しました。氷城から少し緯度が南へ下ったのでしょう。遠くに見える島の山々は紅葉です。

 脚のある人魚族アテンダント・由香さんのお話によると、遠くに見えている島は、南瓜島というのだそうです。

 信号弾が上がったので、何かと思って、上部構造キャビンから遊歩デッキに出てみると、従兄の浩さんと顧問弁護士の瀬名さん、それからヴァンパイアの白鳥さんが、欄干に並んで海を観ていて話をしていました。

 従兄の浩さんが、白ワインのグラスを手にした、白いジャケットを羽織った、白鳥さんに尋ねます。

「白鳥君、あの信号弾は?」

「遠くに見えるのは、南瓜島っていう。下を見てみるがいい」

「なんだ、あの南瓜頭の一団は――」瀬名さんが首を傾げました。

 するとです、舳先で割れた白浪に、どんぶらこっこと南瓜の大群が漂っているではありませんか。いや違う、南瓜頭をした数百名が、水上オートバイを駆って、船の左舷にピッタリついてきているのです。

「瀬名さんも白鳥さんも初めてご覧になるのですね。北洋海賊〝南瓜党〟ですよ」

「北洋海賊? 南瓜党?」浩さんと瀬名さんが口をそろえてきき返しました。

「南瓜大王は、北洋を荒らしまわっていた海賊だ。しかしおかしい。数十年前、海上騎兵隊によって殲滅されたという話だが……」

「えっ、海上騎兵隊って?」

 ロケット砲で、鉤が付いたロープを飛ばして、船縁に引っ掛け、南瓜軍団がよじ登って来ました。

 海賊は、背中にライフルを背負っていて、甲板に雪崩れ込んでくると、威嚇射撃をしてきたのです。

 悲鳴があがりました。

 アテンダントの由香さんが、いつの間に用意したのか、機動隊がつかう防弾盾を巧につかって、海賊の銃弾をかわしつつ、時々、警棒で反撃していました。

「皆さん落ち着いて。メイン・デッキにいらっしゃるお客様は、キャビンへご避難下さい」

 外に出ていた乗客達が、船室に逃げ込むまで、時間稼ぎ。

 浩さん、瀬名さん、白鳥さんが、それぞれ、電脳執事さん、護法童子くん、使い魔さんを召喚。

 他の客とは逆に、お爺様とマダムが、「嫁入り前のクロエに何をする」と言わんばかりに、メインデッキに飛び出して来ました。

 こうしてメインデッキは大乱闘です。

 みんなで、徒手空拳で戦っていると、なぜだか、スピーカーから行進曲が流れてきました。

 白鳥さんは、無粋な戦いに飽きたらしく、呼び出した使い魔さんに後を任せ、デッキに設置されたベンチの一つに腰かけ一休みして、グラスの白ワインを口になさっていました。

「どうです、クロエさんも?」

(白鳥さんは空気を読まない……)

 船楼から、ジョン・フィリップ・スーザ作曲「黒馬騎兵中隊」のマーチが流れてきたではありませんか。

(マーチを流すくらいだったら、ちょっと手伝ってくださいよお……)

 南瓜大王と一味の海賊達のうち数十名が、私達・鈴木一門食客を取り囲みました。

「久しいな、海上騎兵隊長・鈴木三郎」

「先の戦闘で我々が壊滅したことで、部隊を解散させたことは、早計だったな。おかげで我々は、長らく地下に潜伏し、復讐の時を待っていたのだ」

 お爺様は、何気に、コートのポケットに手を入れると、中から小さな宝石箱を取り出しました。箱と蓋との継ぎ目から、ドライアイスが出す白煙のようなものが、フシュルルル……と噴き出してきました。

 不敵な笑みを浮かべたお爺様は、蓋を開けると、床に落としました。

「数を数える。0になったら皆で、ジャンプだ」

 3・2・1……。

「0」

     ♢

 それでは皆様、また。

             by Kuroe

【シリーズ主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住む。クロエに好意を寄せる。

●鈴木ミドリ/クロエの母で故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。

●寺崎明/クロエの父。公安庁所属。

●瀬名武史/鈴木家顧問弁護士。クロエに好意を寄せる。

●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。

●メフィスト/鈴木浩の電脳執事。

●護法童子/瀬名武史の守護天使。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。

●神隠しの少女/昔、行方不明になった一ノ宮神社宮司夫妻の娘らしい。

●由香/ダイヤモンド鉱山〝竜の墓場〟のある大陸へ向かう三本マストの鉄道連絡船アテンダント。脚のある人魚。鬼族の軽便鉄道運転士から異界案内役を引き継ぐ。

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