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自作小説倶楽部 第15冊/2017年下半期(第85-90集)  作者: 自作小説倶楽部
第88集(2017年10月)/「ハロウィン」&「魅了」
22/38

02 らてぃあ 著  ハロウィン 『ハロウィン・マジック』

挿絵(By みてみん)

写真:ぱくたそ/茜さやさん/©すしぱくさん




「お願いだ。リタ。陽の出町商店街のために一肌脱いでくれ!」

 従弟はそう言って、わたしの前でヒキガエルのように床に這いつくばった。いつだったか伝統的最大限の服従のポーズだと教えてくれた。『ドゲザ』だ。

「あのねえ。ちょっと。顔を上げてよ。たかが地方の貧乏商店街がハロウィンで盛り上がったところで焼け石に水よ」

「いや違う。明日はテレビ局の旅番組が通りすがるんだ。全国放送だ。そんな時に陽の出町ハロウィン祭が盛り上がっていたらどうなる? も一度言うけど全国の人が見るんだ。暇な若者や旅好きな夫婦は行ってみようと思う。それに地域のイメージアップだ。祭は明日から一週間。テレビ放映は明後日。必ず商店街の再興に役立つんだ」

「アンドリュー。あんたは静かでさびれた町が好きだって言ってなかったっけ」

「定食屋の娘さんがこのままでは家業を継がないと言っているんだ」

 頭が痛くなってきた。

 従弟のアンドリューはいまでこそマスチフ犬みたいに大きくなってしまったが昔は金髪碧眼のそれはそれは可愛い男の子だった。たとえ彼がわたしたちの学校を落第してもわたしは彼を見捨てなかった。

 夏休み訪れた極東の島国から求められるまま絵ハガキや伝統工芸品を送ったのもわたしだ。

 アンドリューは立ち直った。

 見違えるように元気になり、異国の文化を学び、一般人の学校に通って優秀な成績を修めた。そして大学を出ると就職のお誘いを蹴って旅に出て、東の国のド田舎に移住してしまった。

 まあ、そのうち帰って来るわ。田舎なんてすぐ飽きる。

 しかし根が真面目で勤勉なアンドリューはわたしの予想を裏切って地元の人々に気に入られてなじんでしまった。ついに永住するつもりで『安土竜』という日本名まで考えていた。なんだかむかつくので三日ほどモグラに変えてやった。


 テレビカメラの前で旅人役芸人は演技を忘れて叫んでいた。

『わっ!! す、すごい人、人、人だ! どうしてこんなに!!? あれ! ジャックオーランタンの大群です!! うわあ、あっちにミイラ男とドラキュラが!! ひええ! すごいリアルだ』

「うーん。こんな男が人気なの? 日本人のセンスはわからないわねえ」

 わたしはカウンターでスシを食べながら寿司屋のテレビを見ていた。

「あのーー。リタ。すこし食べすぎじゃないかな」

 アンドリューがか細い声で言った。

「まだまだよ。モンスターを作るのに魔法をたくさん使ったから、お腹が空くのよ。うわあ。タイショー。このオレンジ色のスシおいしい。とろけるっ! あと五つ追加ね。それとこのプチプチしたのも三つ」

 白髪のタイショーは皺だらけの顔を嬉しそうにゆがめる。

「はいよ。ウニ五つにイクラ三つ追加ね。姉さん。いい食べっぷりだねえ!」

 わたしの隣でアンドリューは幽霊のように青くなっていた。

     了

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