03 E. Grey 著 島 『公設秘書少佐・黒谷御前2』
//粗筋//
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衆議院議員島本代議士の公設秘書佐伯祐は、長野県にある選挙地盤を固めるため、定期的に彼の地の選挙対策事務所を訪れる。そして、空き時間をみては、遠距離恋愛をしている婚約者・三輪明菜とデートを楽しむのだった。今回の長野入りは、センセイの縁者である黒谷夏帆が、愛車スバル360に佐伯を乗せての登場だ。幼馴染の不穏な動きに明菜は心穏やかではない。
写真(素材《足成》五十嵐優美さん)
02 黒谷御前
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「駐在さんはともかく、明菜、なんでアンタまで私の車に?」
「私は佐伯の助手よ。そして婚約者、捜査への協力と監視をする権利がある」
「婚約者? 権利? 佐伯さん、どういうこと、道中でつきあっている女はいない、愛しているっておっしゃていましたよね」
ギロっ。私は佐伯を睨んだ。
「言っていない、言っていない」佐伯が首を横にプルプル振った。
「おい、夏帆、悪ふざけが過ぎるぞ」
「ふわ~い」
夏帆は駐在の真田さんには頭が上がらない。子供のころ、山で遊んでいて崖から転落して木に引っかかっていたのを救助されたことがあるのだ。崖下は湖で高低差50メートルも絶壁で、真田さんはロープで降りて抱き上げた格好で、小路のある縁まで10メートルもよじ登ったのだ。
さて、夏帆が乗ってきたスバル360だが、これは富士重工の自家用車で、富士重工の前身は中島飛行機という。中島飛行機は陸軍戦闘機・隼などの名機を生み出したところで、航空機技術を応用し、スバル360の車体は、軽量・コンパクト化されたものだ。小型車であるのにも関わらず、前の座席を倒すことで、後部にも乗客を乗せることができ、前部を合わせると、合計四人が搭乗できる、当時としては画期的なデザインだった。
夏帆のスバルの車体は、パールホワイトにカラーリングされていた。
車にはドライバーの夏帆、助手席の佐伯、後部座席の駐在所の真田巡査部長、そして明菜四人が収まって、スバルは未舗装路を走った。未舗装路、ことに砂利が敷かれた道路はベアリングのようなもので、時速20キロを超すと横滑りを起こしてしまう。
役場前から、曲がりくねった峠を越えて、30分ほど行ったところに小さな湖があり、そこに小島がポツンと浮かんでいた。そこに橋が掛けられている。黒谷屋敷は小島にあった。
自動車が、赤い欄干の緩い太鼓橋を渡り、小島に渡った。
出迎えたのが、執事の木島龍之介、料理番の花山小次郎の二人だ。
それから車椅子の黒岩御前と二人の娘たちが出てきた。
黒岩御前には三人の子供がいた。
跡取り息子であった長男の源一郎は大戦で戦死した。このとき妻のお腹には娘がいて、生まれたのが夏帆だ。
源一郎の下に、朝比と夕比の姉妹がいる。つまり夏帆の叔母にあたる。
四十前後のはずなのだが見かけは十歳くらい若く見えた。
つづく
//登場人物//
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【主要登場人物】
●佐伯祐……身長180センチ、黒縁眼鏡をかけた、黒スーツの男。東京に住む長野県を選挙地盤にしている国会議員・島村センセイの公設秘書で、明晰な頭脳を買われ、公務のかたわら、警察に協力して幾多の事件を解決する。『少佐』と仇名されている。
●三輪明菜……無表情だったが、恋に目覚めて表情の特訓中。眼鏡美人。佐伯の婚約者。長野県月ノ輪村役場職員。事件では佐伯のサポート役で、眼鏡美人である。
●島村代議士……佐伯の上司。センセイ。古株の衆議院議員である。
●真田巡査部長……村の駐在。
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【事件関係者】
黒谷御前……地方名家で島村センセイの縁者。
黒谷夏帆……黒谷御前の孫娘で女子大生。現在は東京在住。明菜の幼馴染にしてライバル。
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*全10話程度の予定です。




