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自作小説倶楽部 第15冊/2017年下半期(第85-90集)  作者: 自作小説倶楽部
第87集(2017年9月)/「薔薇」&「島」
16/38

02 柳橋美湖 著  島『北ノ町の物語』

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、実は祖父がいた。手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきて、北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。

 お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくそこは不思議な世界で、行くたびに催される一風変わったイベントが……。

 最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上で魅力をもった弁護士の瀬名さんと、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩さん、二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ。さらには魔界の貴紳・白鳥さんまで花婿に立候補してきた。

 このころ、お爺様の取引先であるカラス画廊のマダムに気に入られ、秘書に転職。

 ――そんなオムニバス・シリーズ。

挿絵(By みてみん)

写真(素材《足成》)


   北ノ町の物語 

.

      40 島

.

 クロエです。神隠しの少女救出作戦が続いています。新大陸のダイヤモンド鉱山〝竜の墓場〟行き鉄道連絡船に乗った私達・鈴木家。脚のある人魚族フェリー・アテンダント由香さんのご案内で、氷城に上陸しました。

     ♢

 島は氷でできています。普通の氷山と違うところは、南に流されて、溶けてしまうのだけれど、この島は、エンジンがついているらしく、溶けないような航路を周回しているところです。

 ショッピングモールをウィンドウショッピングした私達は、エレベーターを使って、氷山のてっぺんにあるお城に向かいました。

「氷山の城といえば女王が住んでいるのですか?」

「えっ、どうしてそれを……」

 私の従兄・浩さんが言うと、脚のある人魚・由香さんが驚いた顔をしました。

「俗界には『雪の女王』って話があるのさ」

 吸血鬼の白鳥さんがフォローしました。

 私たちの世界は、白鳥さん達の側では、《俗界》と呼ばれているようです。

     ♢

 凝ったもので、エレベーターも氷でできていて、まるで、キッチンの冷蔵庫に収まったみたい。けっこう速く、停止するときに、フワリとなりました。

 お城というのが、まるで、ディズニーランドのアトラクションのよう、お爺様ときたら、持ってきたカメラで、私達を撮影していました。

 そこでです。

 入口にいた近衛兵さんが、「女王陛下のおなり」と言いました。

 涙形をした大きな扉が開き、おつきの女官に護られて、古風なドレス姿を着た陛下が現れました。

 従兄の浩さんと、顧問弁護士の瀬名さんは、「雪の女王といえば雪女だ。油断すると、精気を吸い取られる」それぞれの守護天使である、電脳執事さんと護法童子くんに結界を張って私達を守ろうとしました。

 吸血鬼の白鳥さんは、「この氷山島の王国は、観光立国を目指しているから、手荒なことはしないと思う」というと、アテンダントの人魚・由香さんが、何度もうなずきました。

 女王陛下は歓待のポーズ。両手を開いて、私達のほうへやってきました。

「お久し振りね、サブロウ」

 サブロウ……。鈴木三郎、お爺様のことです。

「君は変わらず美しい」

(お爺様は顔が広い。どこでどういうつながりがあるのだろう)

 綺麗な女の人と親しくお話をしていると、私を秘書に雇っている、元魔法少女の画廊マダムは、柳眉をピクリと動かします。マダムは戦闘モードになると、現役時代の魔法少女姿に変身してしまうのでありました。

 嫉妬〈ジェラシー〉――ちょっと可愛い。

 雪の女王は、私達に友好的で、しばらくお話をした後、お土産に、宝石箱のような小さなケースをくださいました。

 浩さんと瀬名さんは小声で、「きっと蓋を開けると煙が出てきて年寄りになるんだ」「いや、ありとあらゆる不幸とたった一個の幸福がつまっているに違いない」と話していました。

 横で聞いていた白鳥さんが苦笑して、「なんなら僕の使い魔に開けさせてみますか?」と言いました。

 いったい、小箱には何が入っているのかしら?

     ♢

 それでは皆様、また。

             by Kuroe 

【シリーズ主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住む。クロエに好意を寄せる。

●鈴木ミドリ/クロエの母で故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。

●寺崎明/クロエの父。公安庁所属。

●瀬名武史/鈴木家顧問弁護士。クロエに好意を寄せる。

●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。

●メフィスト/鈴木浩の電脳執事。

●護法童子/瀬名武史の守護天使。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。

●神隠しの少女/昔、行方不明になった一ノ宮神社宮司夫妻の娘らしい。

●由香/ダイヤモンド鉱山〝竜の墓場〟のある大陸へ向かう三本マストの鉄道連絡船アテンダント。脚のある人魚。鬼族の軽便鉄道運転士から異界案内役を引き継ぐ。

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