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自作小説倶楽部 第15冊/2017年下半期(第85-90集)  作者: 自作小説倶楽部
第86集(2017年8月)/「氷」&「城」
10/38

04 柳橋美湖 著  城 『北ノ町の物語』

   北ノ町の物語 

.

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、実は祖父がいた。手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきて、北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。

 お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくそこは不思議な世界で、行くたびに催される一風変わったイベントが……。

 最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上で魅力をもった弁護士の瀬名さんと、イケメンでピアノの上手なIT会社経営者の従兄・浩さん、二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ。さらには魔界の貴紳・白鳥さんまで花婿に立候補してきた。

 このころ、お爺様の取引先であるカラス画廊のマダムに気に入られ、秘書に転職。

 ――そんなオムニバス・シリーズ。

挿絵(By みてみん)

素材:足成/© 叶 奈々さん




      39 氷城

.

 クロエです。神隠しの少女救出作戦が続いています。北ノ町一宮神社前発の軽便鉄道車両は、ダイヤモンド鉱山〝竜の墓場〟のある大陸行き鉄道連絡船に収納されました。異界旅行のご案内役は、鬼族の車掌さんから、フェリー・アテンダントの由香さんに代わりました。由香さんは、人魚族なのというのですけれど、なぜか脚がありました。

     ♢

 元魔法少女でカラス画廊のマダムと、秘書の私は、船内を探検してみました。

「私たちで貴賓室を占領しちゃいましたけど、いいんでしょうか」

「いいのよ。船の貴賓室なんて、ふつう、誰も使わないわよ」

「普段誰も使わない貴賓室をなぜ客船は常備しているのでしょうね」

「それは客船だからよ」

 分かったような、分からないような答えがマダムから返ってきました。

 それはさておき……。

 船の構造は、上に行くほど等級が高くなり、貨物室のある船底に行くほど等級が低くなっています。旅客サービスはホテルに準じていて、スイートルームに当たる貴賓室、ツインルームに当たる一等室、そしてカプセルホテルのような二段ベッドが並べられた二等室になっていました。」

 貴賓室フロアの廊下には赤いカーペットが敷かれ、壁には寄港地を示したプレートが飾られていました。

 フロア・デッキに出て、階下のメインデッキを観ると、乗客達で溢れかえっています。

「あ、あれはなんだ。氷山じゃないか!」

 船が面舵一杯にして進路を変えました。

 氷山の一角という言葉があるように、海面に顔をのぞかせているのはごく一部で、末広がりになっているから、船底に近い側面を痛めてしまう危険があるという話を聞いたことがあります。

 このとき、明るく大きな声がしました。脚のある人魚族アテンダントの由香さんです。なぜだか、舳先のフェンスの上に立って、十字架のように両手を広げていました。海風で長い髪がひらひら舞っていました。

「皆さん、臨時寄港地・氷城へようこそ。観光とショッピングをお楽しみください」

     ◇

 プカプカ外洋に浮かんだ氷山をよく見ると、雪の女王が住んでいるような、お城がそびえ立っているではありませんか。

 上陸すると寒いので、上着の貸し出しがありました。南極観測隊のような恰好……。

 お城のある氷山には、客船がすっぽり収まる洞窟があって、内部には、接岸用の埠頭までありました。

「いやあ、よく出来た着ぐるみだなあ」

 従兄の浩さんがそう言うと、お爺様の顧問弁護士の瀬名さんがうなずきます。

 港のタラップから、ロビービルに入ると、ゲートのところで、白熊や、アザラシの恰好をした港湾係員さん達がお出迎えしてくれました。

 けど……。

 人の腰よりも低い、ペンギン達をどう説明したらいいのでしょう。

(もしからしたら、動物たちはみんな本物じゃ……)

 浩さんと瀬名さんの守護天使である電脳秘書さんと護法童子くん、それから、お爺様とマダムがお喋りしながら、ゲートを抜けて行きます。

 この違和感を誰も気にもとめていない。

「気にしない、気にしない。ここはごく普通の異界なんだし」

 吸血鬼の白鳥さんが、使い魔さんを連れて後に続いて行きます。

 私はゲートの前で一瞬立ち止まり、置いてきぼりになったので、小走りして皆の後を追いました。

     ♢

 それでは皆様、また。

             by Kuroe 

【シリーズ主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住む。クロエに好意を寄せる。

●鈴木ミドリ/クロエの母で故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。

●寺崎明/クロエの父。公安庁所属。

●瀬名武史/鈴木家顧問弁護士。クロエに好意を寄せる。

●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。

●メフィスト/鈴木浩の電脳執事。

●護法童子/瀬名武史の守護天使。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。

●神隠しの少女/昔、行方不明になった一ノ宮神社宮司夫妻の娘らしい。

●由香/ダイヤモンド鉱山〝竜の墓場〟のある大陸へ向かう三本マストの鉄道連絡船アテンダント。脚のある人魚。鬼族の軽便鉄道運転士から異界案内役を引き継ぐ。

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