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シムヌテイ骨董店  作者: 藤和
2007年
48/75

48:ホットミルクティーを飲んで

 すっかり気温も下がり、街中をイルミネーションが彩るようになった頃。この日は朝から粉雪が降っていて、身も凍るようだった。


「……積もっては居ないのが、不幸中の幸いかな?」


 真利はだるまストーブで暖めているシムヌテイ骨董店の中から、窓越しに外を見る。窓のすぐ側には隣の家の壁が有るので、背が高い真利でも背伸びをして少し斜めに視線をやらないと、地面は見えない。

 冷気を纏った窓辺から離れ、だるまストーブの側に置いた赤い倚子に腰掛ける。だるまストーブの上には小さな金属製のラックが置かれ、更にその上には鍋が置かれていて、中ではミルクティーが湯気を立てている。

 いつものチャイナボーンに、おたまでミルクティーを注ぐ。今日は久しぶりに、羊のミルクを見付けたのでバター茶にしてみた。

 バターの油膜が張り、火傷をしそうな程熱い。けれども、寒がりな真利の体を温めるのは丁度よかった。

 ゆっくりとひとりでバター茶を味わっていると、店の入り口が開いた。


「いらっしゃいませ」


 にこりと笑ってそう挨拶をする。視線の先には、林檎と、しっかりとコートを着込みマフラーまで巻いた木更と理恵が居た。


「真利さんめりくりー!」

「メリークリスマスです」


 そう言ってストーブの周りにやって来た木更と理恵を見て、真利は倚子から立ち上がって、カップをレジカウンターの上に置いた。


「ふふっ、いらっしゃると思っていましたよ。今倚子をご用意いたします」


 レジカウンターの裏から木製の折りたたみ椅子を出してストーブの近くに広げ、林檎に勧める。その後に、バックヤードからスツールをふたつ出してきて、木更と理恵に勧めた。

 女性三人が椅子に座り、林檎が小さな箱を真利に差し出して言う。


「そう言えば、この前新宿に行った時、買ってきたの。よかったらみんなで食べない?」


 その箱を見て、真利はにこりと笑う。


「ああ、キャラメルですか、ありがとうございます。今日はバター茶ですし、丁度良いですね。

それでは、こちらもも準備します」


 林檎から渡されたキャラメルと、レジカウンターの裏の棚から出した四つのココットを持ってバックヤードへと入る。給湯設備に付いている台の上で、箱から出したキャラメルを一口大に包丁で切り、それを数個ずつココットに入れて店内へと持っていった。


「はい、まずはキャラメルからお渡ししますね」


 そう言って、待っている三人にひとつずつココットを渡す。自分の分のココットは一旦レジカウンターの上に置き、また棚からカップを出した。萩焼のカップと、グリフィンが描かれたカップと、ワイルドストロベリーの柄のカップだ。まずは萩焼のカップにバター茶を注ぎ、林檎に。次にグリフィンのカップに注ぎ、木更に。最後にワイルドストロベリーのカップに注ぎ、理恵に渡した。


「お待たせ致しました。どうぞ、お召し上がりください」

「うふふ、いただきます」

「やった、いただきまーす」

「いただきます」


 真利もココットを持って椅子に座り、膝に置く。熱いバター茶を飲んで、甘いキャラメルを囓って、口の中で塩味と甘みが混じり合った。

 美味しいお茶とお茶請けで、話が弾む。話の主な内容は、クリスマスプレゼントについてだった。


「私、クリスマスプレゼントに手縫い糸の二十四色セット貰うんだ」


 そう言って嬉しそうにする木更。貰う物の内容と今までに聞いた話から察するに、人形の服を自分で作るつもりなのだろう。木更が持っている人形を、真利は見たことが無い。けれども、理恵が持っている物と似たような感じなのだろうなと、なんとなく思う。


「私は、かわいいまち針が欲しいってお願いしたんです」


 理恵もこの分だと、自分で人形の服を作るのだろう。大切にしているあの人形に、どんな服を作るのかと思うと思わず笑みがこぼれた。


「ふたりとも、随分と可愛らしい物をお願いしたんですね」


 真利の言葉に、木更が口を尖らせて言う。


「なにさー。私の柄じゃ無いって言いたいの?」

「そう言うわけでは有りませんよ。折角糸を貰うのですから、沢山使ってくださいね」

「おう、勿論よ」


 にっと笑ってキャラメルを囓る木更に、林檎がくすくす笑いながら言う。


「お人形さんに服を作って、見せてくれるんでしょ? 楽しみにしてるわね」

「おう。がんばるまん!」


 そのやりとりを見て、真利が理恵に訊ねる。


「理恵さんも、お人形にお洋服を作るんですか?」

「そうなんです。糸は今までに結構色々買ったから、まち針が欲しいなって」

「そうなんですね。出来上がったら、僕にも見せてくれますか?」


 真利の言葉に、理恵は嬉しそうに答える。


「はい、勿論です」


 暫く人形の話で盛り上がって、木更が意地悪そうな顔をして真利に訊ねた。


「ところで、真利さんはクリスマスプレゼント渡すような人、居ないの?」


 その問いに、真利はきょとんとして答える。


「いえ、特には。結婚していないので、子どももいませんし」


 真利の言葉に、林檎がくすくす笑って言う。


「クリスマスプレゼントは、子どもに渡すばかりじゃ無いでしょ。

渡したら喜ぶ人、居るんじゃない?」

「まぁ、プレゼントはいただけたら大体の場合は嬉しいですしねぇ」


 もしかして、木更と林檎は自分からのプレゼントを期待しているのだろうか。でも、そこまで欲深い人でもないし。と、真利は不思議に思う。

 ふと思い出した。だいぶ前に理恵からマフラーをプレゼントされて、そのお礼をしていなかったことを。

 今まで失念していたことを恥ずかしく思いながら、そのうち機会が有ったらお礼を渡そうと、そんな事を考えた。

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