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シムヌテイ骨董店  作者: 藤和
2007年
44/75

44:夏のある日

 うだるような暑さが続くある日のこと。冷房を効かせて涼しく冷やしてあるシムヌテイ骨董店で、真利はいつも通り、指定席に座って冷たいお茶を飲んでいた。

 涼しくしてあるとは言え、氷を詰めてある器はじっとりと汗をかいている。


「はぁ……こう暑いとたまりませんね」


 気怠げにそう呟き、クリスタルガラスのタンブラーを傾ける。口に含んだお茶からは、爽やかな苦みと素朴な甘みが感じられた。

 こんなに暑いと、昼間この店まで来るのも大変だろう。そんな事をぼんやりと考えていると、店の扉が開いた。


「いらっしゃいませ」


 そう声を掛けて入ってきたお客さんを見ると、ショルダーバッグを肩から掛けた理恵が立っていた。


「真利さん、こんにちわ」

「こんにちわ。夏休みの宿題は、進んでいますか?」


 倚子から立ち上がり、真利はレジカウンターの裏から木製の折りたたみ椅子を取り出す。それを広げて置き、理恵に声を掛けた。


「外は暑かったでしょう、どうぞお掛けください。

お茶も、冷たいのがありますよ」

「はい、それじゃあいただきます」


 理恵が倚子に腰掛けたのを確認し、真利はレジカウンターの裏にある棚から白いグラスを出す。それから、氷に刺さっているカネット瓶を一本引き抜き、グラスの中に琥珀色のお茶を注いで理恵に渡した。


「どうぞ、お待たせしました」

「ありがとうございます」


 真利が倚子に腰掛け、理恵がグラスに口を付ける。すると理恵は、驚いた顔をして言った。


「えっ、これなんか苦いんですけど、何のお茶ですか?」


 そう言えば理恵にこのお茶を出すのは初めてだった。そう思いながら、真利はにこりと笑って答える。


「苦丁茶という苦いお茶に黒糖を足した物です。

体を冷ましてくれる効果があるらしいので、こう暑い日は偶に淹れてるんですよ」

「なるほど、そうなんですね」

「お口に合いませんか?」


 少しだけ申し訳なさそうに真利がそう言うと、理恵は空いている方の手を振って返す。


「いえ、そんな事はないです。ただ、変わった味だなって思って」

「そうですか? もし飲むのが辛かったら、いつでも言ってくださいね」


 理恵はああ言ったけれども、少し飲むのが辛そうだ。やらかしてしまったと思いながら、真利は理恵に訊ねる。


「ところで、今日は木更さんはどうしました? 林檎さんの所に行っているのでしょうか」


 その問いに、理恵はこりと笑って答える。


「はい、林檎さんの所に行っています。林檎さんと話したいって」

「なるほど、そうなんですね」


 ふたりで歓談しながらお茶を飲む。けれども理恵をよく見ると、お茶を飲むのが辛そうだった。

 理恵がお茶を飲み終わった頃合いに、真利がこう言った。


「よかったら、かき氷でも召し上がりませんか?」

「かき氷ですか?」

「はい。かき氷器があるのですけれど、最近使っていないなと思いまして」


 その申し出に、理恵は嬉しそうに答える。


「それじゃあ、かき氷もいただきます。

あ、折角作るんだったら、木更と林檎さんも呼んできますか?」

「そうですね、みんなで食べた方が楽しいでしょう」


 真利の言葉に、理恵は早速席を立って店から出て行く。理恵が呼びに行っている間に、真利はかき氷を作る準備を始めた。


 レジカウンターの上に置かれたかき氷器。その下には、水滴がレジカウンターを濡らさないようにタオルが敷かれている。しゃりしゃりと氷を削る音。音が鳴る度に、かき氷器の中に置かれた萩焼のカップに、薄い氷が降り積もった。


「お待たせ致しました。こちらが林檎さんの分です」


 缶詰のみかんとシロップを氷に掛け、林檎に渡す。これで、女性三人分のかき氷が揃った。


「それではみなさん、お召し上がりください」


 真利がそう声を掛けると、三人ともいただきますと言って、かき氷を食べ始めた。その中で真利は、自分の分のかき氷を削る。

 かき氷を食べながら、林檎が理恵に訊ねた。


「そう言えば理恵さんは高校で美術はやってるの? 木更さんは音楽を取ったって聞いたけど」


 それに、理恵はこう答える。


「私も音楽なんですよ。やっぱりなんか、絵を描くのって苦手で」


 理恵の言葉に、真利が驚いたような顔をして言う。


「え? 絵が苦手なんですか?

中学の時に、夏休みの宿題で熱心に描いていたのに」


 作り終わったかき氷を持って椅子に座る真利に、木更がにまっと笑って返す。


「そりゃあ、このお店の絵だからでしょ?」

「そうなんですか?」


 木更の言葉に、理恵は顔を赤くして、林檎はくすくすと笑っている。

 一体何が有るのだろうとは思ったけれども、そこまでこの店を気に入って貰えているのは、素直に嬉しかった。

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