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シムヌテイ骨董店  作者: 藤和
2005年
18/75

18:頼りになるのは

 梅雨入りし、少し肌寒い雨の日。シムヌテイ骨董店はもぬけの殻で、かわりに、隣のとわ骨董店が賑やかだった。


「あああああああ真利さん助けて、こういう時こそ助けて!」

「無理無理無理無理僕も無理です! あー!」


 林檎と真利の二人で、店の隅に固まって怯えている。視線の先には窓があって、そこには一匹の雨蛙が張り付いていた。

 雨蛙はぴくりとも動かず、ただぢっと、その場に居る。きっと放っておけばいずれは何処かに行くのだろう。だけれども、林檎はそのいずれを待てるほど蛙に耐性が無かった。


「いつも私がナメクジ倒してるんだから、偶には真利さんがカエル倒してよ!」

「駄目です、僕もカエル駄目なんです!」

「じゃあ逆に何が大丈夫なの!」

「そう言われると思い当たる節が無いですね!」


 ナメクジが苦手だというのは林檎にしっかり知られているけれども、実は、真利はぬめぬめしていて柔らかい物は大体苦手だ。なので、ナメクジに似ているカタツムリも苦手だし、蛙のような両生類も苦手だ。クラゲは辛うじて、見ている分には平気なのだけれども、触れるかと訊かれると無理だとしか答えようが無い。

 大の大人ふたりで小さな蛙に怯え、泣き言を言う。そうしていると、店の扉が開いた。


「ちょっとー、林檎さんも真利さんもこんな騒いでどうしたの」

「あの、何かあったんですか?」


 そう言って、呆れ顔の木更と心配そうな顔をした理恵が、傘を畳んで入ってきた。

木更も理恵も傘立てに傘を立て、林檎と真利が纏まらない言葉を喚きながら指さす先を見る。何を指しているのかがわかった理恵は、きょとんとして呟く。


「あ、カエルさん。

もしかして、林檎さんも真利さんも、カエルが苦手なんですか?」

「駄目! 駄目なの! 特に脚の付け根の所!」

「ぬめぬめして柔らかい物は基本的に駄目です!」


 為す術も無く怯える大人二人を見て、木更が溜息をつく。


「わかったわかった。なんとかしてくるからちょい待ち?」


 そう言って、木更は傘を置いたまま入り口から出て行ってしまった。それから数秒、窓の外に木更の姿が見えた。彼女は迷わずに窓から蛙を掴んで外し、軽くその辺に放った。


「これで大丈夫?」


 入り口から再び入ってきた木更に、真利と林檎が返事をする。


「はい、ありがとうございます。助かりました。

お見苦しいところをお見せして申し訳ないです」

「ありがとう。すっごく助かったわ。

あ、カエル掴んだ手、アルコールティッシュで拭いておく?」


 ようやく落ち着いた様子の真利と林檎。木更はアルコールティッシュを受け取って手を拭いた。


「人助けしたんだから、何かお礼が有っても良いよね」


 自慢げにそう言う木更を、理恵が困ったような顔で宥める。


「人助けって言っても、カエルを掴んで放っただけだし、あんまりお礼を要求するのも良くないよ?」


 そんなふたりに、林檎が申し訳なさそうに笑って言った。


「でも、助かったのは事実ね。

そうそう、この前新宿で買ってきた美味しいキャラメルがあるんだけど、二人とも食べる?」

「良いんですか? それじゃあ、お言葉に甘えて」

「やったー! 食べる!」


 美味しいキャラメルと聞いて喜ぶ理恵と木更を見て、真利も微笑んで言う。


「それじゃあ、そのキャラメルに合うお茶があるんで、持って来ましょうか。

林檎さん、こっちでお茶を淹れても良いですよね?」


 シムヌテイ骨董店と同じように、とわ骨董店にも、お茶を淹れるための湯沸かしポットは常備してある。なので、茶葉だけ持って来てくれればいいと、林檎は言う。

 真利はすぐに隣から茶葉の入った袋を持って来た。唐草模様の入ったクリアの袋で、鉄観音茶と書かれている。


「このお茶が、そのキャラメルに合うんですよ」


 既に小皿の上に切り分けて置かれたキャラメルを見て、真利が言う。茶葉の入った袋を林檎に手渡すと、彼女は手際よく茶葉を急須に詰め、お湯を入れている。それから、一旦バックヤードに引っ込んだ後、もう一度お湯を急須に注いだ。

 暫くお茶を蒸らし、用意した瀬戸物のカップにお茶を満たすと、渋いけれども甘い、不思議な香りがした。


「真利さん、このお茶渋かったりしない?」


 難しい顔で木更が訊ねるので、真利はくすりと笑って答える。


「少し渋いかも知れませんが、このキャラメルはとても甘いので、少し渋いくらいで丁度良いですよ」


 それを聞いて木更は納得がいかない顔をしてるし、理恵もよくわからないと言った顔をする。それならばと、林檎がくすくす笑ってキャラメルを二人の口に放り込んだ。

 結果、理恵も木更も、すぐさまお茶に手を伸ばして口に含んでいる。


「ね? 丁度良いでしょう?」


 真利が悪戯っぽく微笑むと、子どもふたりはこくこくと、納得した様に頷いた。

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