第7話
旦那様達を埋葬して数日。
俺はお嬢様に呼び出されている。
フランお嬢様は地下室に閉じこもってしまった。
ご夕食なども自室にてとられる。
まぁまだ仕方ないと思う。
部屋の扉をノックする。
「お嬢様、参りました」
「入りなさい」
以前は旦那様が使われていた部屋は今はお嬢様が使っている。
「失礼します」
中に入ると…って…なぜお前がいる…紫…。
「客人…………のようですね」
「えぇ…でもあなたに用があるみたいよ」
俺に…?
「何の用だ?紫」
「ちょっと待ちなさい!貴方知り合いなの!?」
「はい…一応…」
「アレスの友人をさせてもらってますわ」
扇子で口元を隠し笑う紫…。
「なっ!アレス!そんなこと聞いてないわよ!!」
「すると過去の事も話さなければならないですね…まぁ大元は端折りますが…まぁ私はもともと日の本の国の人間でした」
「そうだったの…?人間ってことは…でも今は妖怪よね?」
「はい…理由があり半妖になり…そしてこの大陸に来た」
「理由って?」
「話せません…」
「話なさい」
「話せま」「話なさい!!!!」
「話せないと言っているでしょう!!」
思わず叫んでしまった。
「ア…アレス…」
「すみません…ですが理由はいかなることがあろうとお話しすることはできません」
「主人に隠し事なんて…信用を失うことになるわよ」
「それでも……ですがいつかは必ず話しましょう…」
じっとお嬢様の目を見つめ返す。
このことは何があっても話したくはない。
人を殺め…妖怪を喰らい…封印を解くのが目的で近ずいたなんて…言える筈もない。
もちろん今は違う…心から守りたいとも思うし裏切ろうなどとも考えてない。
「はぁ…分かったわ…いつか話しなさい」
「ありがとうございます」
「では八雲のよ今宵は何の用か?」
急に雰囲気が変わるお嬢様…カリスマモード発動なうですか…。
「今日は私の友人…アレスをお借りしたく参りました」
な!?…紫は何を言っている。
「それを承諾するとお思いか?」
明らかに目が変わる…。
「私の理想は妖怪と人が共存し人が妖怪に恐怖し妖怪の消滅を防ぐ…今この世にどれ程の妖怪が残っているとお思いですか?」
「………………………」
無言で紫を睨みつけるお嬢様…心無しか目からレーザー飛んでます…飛んでますとも…。
「日の本はまだ多少残ってはいますが…こちらはもう殆どその存在はいないでしょう?なにせ…あなた達がその妖怪達を滅してしまったんだから」
「………………」
「私は妖怪達が消えてしまわぬよう…楽園を作った…ですが完全ではないのですよ…そこであなたの執事をお借りしたいのですわ」
無言の眼光を跳ね返す瞳…もうここから出たい…。
「アレスはどうするの?」
こちらを見つめる2人の視線…居心地悪いったらありゃしない。
「私が行ったらお嬢様はどうするんですか??」
「…別に…好きにすればいいと思うわよ」
明らかに機嫌が悪くなる…。
「では交渉成立ってことで」
パシッっと扇子を閉じる。
「では今すぐにでも…」
「…本当に良いのですか?」
「………執事長の席は満席よ…」
それだけ言うと部屋から出て行ってしまった
「なんの話だか全く分からん…」
「あなた以外には務まらないってことよ。さて…では了承も得た事だし……あなたは戻る気はあるのかしら?」
「何処にだ?」
「あなたが生まれたのは幻想郷…その人里に生まれ落ちた…でも4歳の時…急な能力の覚醒により子守に来ていた人間を殺害…その後あなたは監禁され人間により迫害を受けた…その場所に…これから行こうとしてるのよ?だから戻る気はあるのかと聞いているの」
「あの場所に……」
頭にあの光景が広がる。
ボロ布を着せられ…恨まれ…暴力の毎日…ロクに飯も貰えず目の前で肉を食う奴ら…。
空腹と乾き…肉体的な暴行は俺の心を壊すのに十分すぎるほどの苦痛を与えた。
「ウッグッ………」
俺はあまりの頭痛にその場にうずくまってしまった。
「ごめんなさい…嫌な事を思い出させたわね…いいわ…他に当たるから」
そう言って去ろうとする紫の腕を掴む。
「大…丈夫…すまない…俺は行く」
「そう…本当にいいのね?」
「あぁ…その前にお嬢様達に別れを言ってくる」
「そ…なら私はここにいるわね」
俺は部屋を出てまずお嬢様達の所に行く。
「お嬢様…入ってもよろしいですか?」
「何の用?」
明らかに機嫌が悪い…。
「行ってまいります…ですが必ず」
「戻ってこなくていいわ…」
は………何故…。
「何故ですか!!」
扉の向こうの雰囲気が変わる…。
「いいから行け…そしてここにはもう戻ってくるな!」
俺は無言で扉を離れる…。
そして次はフランお嬢様…。
「フランお嬢様…私はちょっと出てまいります…ですが必ずや戻ってまいりますゆえ」
中の気配が若干揺らぐ。
だがそれ以上の返答はなかった。
最後は紅美鈴…。
「美鈴…話がある」
「どうしたんですか?」
「俺は今日からこの館を出る…だが必ず戻ってくる…それまでお嬢様達を頼んだぞ」
「はい…一体どこに…」
「ま、また戻ってきたら土産話でも聞かせてやるよ」
そう言って俺は背を向ける。
「また会おう…」
俺は懐から小さな紙袋を出し投げる。
「またな」
彼が去った後私は投げられた紙袋を開ける。
「一体なんでしょうかね?食料庫の鍵とか?はたまた厨房の鍵でしょうか?」
そうなったら摘み食いし放題じゃないですか!!
だが中から出てきたのは棒のようなもの…。
中には手紙がある。
《美鈴へ
急遽こしらえた手紙だから短いだろう
俺はここから出て別の場所に行く
多少遅くなるかもしれんが必ず戻ってくる…
それまでこの館とお嬢様達を頼む
俺は日の本の人間だ…
これは日の本の国の簪と言う髪飾りだ。
何故送るのか気になるか?
ならばこの言葉を送ろう。
ありがとう…友人よ
アレス》
私はかんざしと呼ばれる髪飾りを見る。
武術をするにあたってあまり着飾ったりしないのだけど…それを知ってか…髪飾りはシンプルな物だ。
黒く輝き…そして綺麗な髪飾り。
「ふふふ…友人…ですか…ありがとうございます…待ってますよ」
かんざしと呼ばれる物…この際簪でいいですね…簪を胸に抱く。
待ってますからね…と胸の中で言い彼の去った場所を見つめる。
「さて…挨拶は終わった…行くなら行こう」
「えぇ…そうしましょうか」
目の前にリボンが現れそれが空間を作る。
「あなたに一つ頼みがあるの」
「なんだ?」
「わたしの式にならない?」
「は?」
あまりにも唐突な頼みに俺はただただ口を開けることしか出来なかった。