第6話
気が重い……。
「お父様…お母様ーーッ!」
「お父様〜ッわぁぁぁぁぁぁお母様ーッッ!!!!」
弔い…。
旦那様とクリス様…フラディスにその他大勢の者達が散った戦い。
お嬢様達は父と母の遺体の入った棺に突っ伏し泣いている。
「お嬢様…すみません…私の力が及ばぬばかりに…このようなことに…」
そう…俺の力が無かったせいだ…どんだけ優れた武器を持っていてもどんだけ強い能力を有していても…それを扱う者が扱いきれてなければ意味はない…弱ければ意味はないのだ
俺は自分が嫌になってくる…弱い自分が…守れない自分が……どうしようもなく…情けなくなってくる。
俺は弱い…半妖のくせに妖術もまともに使えず…能力も扱いきれてない。
「アレスの…せいじゃない……あの数じゃあ…仕方ないよ…アレスも…頑張ったんだよ」
「いえ…私が…もっと強ければ……」
「もういいよ!アレスは悪くない!!」
「すいません…私は…いえ…すいません…少しばかり外へ」
「えぇ…分かったわ…」
俺は玄関ホールへ向かう…。
「…こんな感情…とっくのとうに無くしてしまった筈なのに…何故こんなにも…悲しいんだ!」
俺は一人叫ぶ。
戦闘の爪痕は未だにこの館に残る。
飛び散った血の跡…刺さったナイフ…妖怪の体液…旦那様方が亡くなった現場…。
「旦那様…クリス様…フラディス…すいません…俺の心はもう…」
俺の頬を涙がつたう。
旦那様達が亡くなった現場に座り込む。
「あら…間の悪い時に来ちゃったかしら…」
俺の背後から妖気がたつ。
「もう…恨んでなんかいねぇよ…御門違いな恨みだった…巫女のことも」
背後には八雲紫が立っていた。
「何があったのか…は…聞かない方がいいわね…」
「すまない…」
俺はまた溢れ出た涙を拭うこともせず…手に持っていた警戒用のナイフを落とす。
「あんなに壊れてた心も…満たされているようね?」
「ここの方達のお陰だ……」
「ここにいることは驚いたけど…」
「初めて…人を失う悲しみを知った…友を得た喜びも…他人の悲しみを分かることも…別の…俺の中の温かい心が…崩れそうだ…」
俺は力無く膝を地面に打ち付ける。
今すぐにでも…目を抉り出してしまいたい。
力ある目を持っていても…今は潰してしまいたい…。
すると体が急に暖かくなった。
「あなたは強い…でも強いがために脆い…人の温かみを知らなかったあの時とは違う…己の為に力を振るう昔のあなたとは違う…人の温かみを知った貴方は他人の為に力を振るう事が出来る…守る人はいるのかしら?」
ここに来て初めて俺は目の前の八雲に抱きしめられていると知る。
「な……守る人…か…この館と…住民…お嬢様達……そして……お前…」
「は?え…いやそんな…何故?」
急に肩を掴まれ顔の前に引き出される。
近い…近いんだよ…。
「その…非常に言いにくいんだが…ゆ…友人になってはくれないか?今までの非は全て謝る!本当にすまなかった!許してもらえることをしたとは思ってない!友人なんてなってもらえるとも…」
「待ちなさい…」
やっぱりダメか…と思い…だが自分でしたことだ…仕方もないと納得する。
「いや…戯言と聞き流してくれ…」
俺は場を立ち去ろうとする…だが何処にこんな力があるのか…なかなか離してくれない。
「ふふふ…何を言うかと思えば…過去は過去…今は今…今のあなたは過去とは違う…私を守ってくれるのでしょう?」
……自分で言っていて恥ずかしい…。
「あぁ…絶対守る…約束しよう…」
「ならよし!あなたはすべきことをなさい。友人の件は…考えておいてあげるわ。私も今日は用があってきたのだけど…後日にした方がよろしいようね…さて…ではまた…名前は?」
そうか…八雲は知らなかったな。
「俺の名はアレス…あんたは八雲だったな…確か」
「紫でいいわ…さて…」
「今日はありがとう…いろいろと…本当に助かった」
俺は肩を掴まれている腕をすり抜け頰にキスをする。
「なっなっ…なっ…か…帰るわ!」
スルリと隙間に入っていった紫…顔が真っ赤だったが…病でも患っていたのか?
あの馬鹿…急に何をするのよ…。
友人になれと言ったと思ったら…急に…急に頰に………キスなんて…。
お陰様で…恥ずかしい目に遭ったじゃない。
えぇ…えぇ恥ずかしかったわ…恥ずかしかったわよ!
でも…いやな感じはしない…大妖怪である私にあそこまでするのはあの馬鹿くらいよ…。
………私…先に抱きしめちゃったのよね…。
あーもう!なんであの馬鹿ごときにこんなに乱されなきゃいけないのよ!
調子が狂ってしまうわ…。
「紫様…何をしているんですか?」
「らッ藍!急に後ろに現れないでちょうだい!!!!」
「なんでそんなに顔が赤いのですか?」
「!?!?なんでもないわよ!」
もう…あの馬鹿!
はぁ…もういいわ…。
「いいことでもあったのですか?いつもよりもなんだか…嬉しそうですね?」
「そんな顔してない!!」
「そんな感情的になるなんて珍しいですね」
「ほんと…あぁ言えばこう言うわね…可愛くないわ…」
「…なんでここまで私は言われているのですか?」
「知らないわよ!あいつに聞きなさ…なんでもないわ!」
「はあ…そうですか…ならいいですけど」
ふう…いつか仕返ししてやるんだから…。
隙間の中ではこんなことが繰り広げられているとは露ほども知らない。
「お嬢様…ただいま戻りました」
「分かってるわ…お別れよ」
多量の棺が運び出されていく。
今までありがとうございました…そして部下達よ…よく頑張った…そしてありがとう…。
棺達を見送る。
涙を更に激しく流すお嬢様達や執事やメイド達。
旦那様…改めて誓いましょう…お嬢様達やこの館の住民は命を賭して守りましょう。
俺は運ばれていく棺達を見つめお嬢様達を抱きしめる。
「フランお嬢様…レミリアお嬢様…必ずお守りいたします…必ずや…全て完璧にこなして見せましょう」
「アレス…ヒック…」
フランお嬢様が抱きしめ返してくる。
「ア…アレス…お願い…ね…」
最後に運ばれていく棺についていく。
お別れですね…旦那様…。
棺を土葬する。
泣きじゃくるお嬢様達を抱き抱え最後に一筋涙を流す。
さようなら…。
《守りきれなかったら許さん…》
《頑張ってね…》
風に乗って2人の声が聞こえた気がした。
「もちろん…分かってますよ」
何事かとこっちを向く真っ赤な2人の瞳。
「戻りますよ…」
新たな決意を抱き館への道を歩く。