第3話
あれから5年
全員変わりなく…いや…変わると言えばクリス様の陣痛が始まったくらいか。
どうやら第二子が生まれるらしい。
レミリアお嬢様も若干舌足らずだが喋る。
フラディスはもともと高齢なだけあって旦那様の専属執事となり執事長は俺になった。
だから……。
「執事長…旦那様がお呼びです」
「執事長…喋り方は昔のままでいいと言っていている」
こうなるわけだ…うん。
俺も性格はだいぶ丸くなった。
「執事長ー!これどうしたらいいっすかー」
最近入った使い魔だ。
「自分で対処しろ」
「それはないっすよー」
「自分で割った花瓶ぐらい自分で処理しろ」
俺は旦那様(笑)の部屋に向かう。
「旦那様(笑)」
「入れ…あと(笑)は必要ない」
分かるんかい…。
「貴様の考えとることくらい分かる」
俺にプライバシーはないのか。
「あってないようなものだな」
「いい加減やめろ」
俺は旦那様の頭にナイフを投げる。
「グフッ…貴様…腕を上げたな」
ナイフ頭に刺したまま喋るな気色悪い。
「誰のせいだ」
「次は対魔のナイフ投げるぞ」
「で…だ…今日はクリスの出産日だ…不埒な輩が現れんとも限らん…よって今日明日この館の警備を厳重にしろ…お前は私とレミリアとともに出産に立ち会え、フラディスにこの館の警備は任せる」
「はい」
「では今からだ」
「は?」
「今からだ」
「分かりました」
「フラディスは知っておりますか?」
「既に伝えてある」
早いな…何気に。
俺は旦那様の部屋を出る。
俺は考え事をしながらクリス様の部屋に向かう…前にお嬢様の元に向かう。
その途中前から談笑している三人の執事と肩がぶつかった。
「すまんな」
俺はかまわず歩こうとするが肩を掴まれた。
「待てよ!肩ぶつかっといてすまんなだと?ふざけんなよな!」
「てめぇ何様ですか?」
「今からちょっとこいよ」
三人に囲まれる。
「やれやれ…貴様らの墓は作っておいてやるよ…今日からお前ら解雇な」
俺がそう言い放つと馬鹿にするように笑う馬鹿三人。
「解雇ってお前まぢ何様?」
俺は三人の足と腕にナイフを投げそれが突き刺さる。
「ギャーーッ!てめぇ…何しやがる!」
仮にも訓練を受けている彼らは気にせず立ち上がる。
「執事長だが?」
その瞬間まるで大人しくなった子犬のように体をすくませる。
「え…あの…えっと」
「貴様らはこの先3年休み抜きだ…そして一週間飯抜きだ」
俺はそう言い放って再度歩を進める。
後ろには絶望したような顔の三人…。
殺さないだけマシだと思え…っと一人で思っていたところに前から足音が聞こえる。
「アレスー…どうしたのー?」
どうやら物音で部屋を出てきたようだ。
「お嬢様の妹様がお生まれになられますゆえお呼びに参りました」
「ほんとー!!ねぇ!おんぶして連れてってー!」
おんぶをせがむ女の子…見た目は…だが。
「分かりました」
俺はレミリアを背中に乗せクリス様の部屋に向かう。
「アレスー今度ねーお父様とねーアレスとねー赤ちゃんとお母様で遊ぼう!」
「えぇ勿論です」
俺は部屋の前に来てノックする。
「入れ」
扉を開けるとお腹を大きくしたクリス様ととってもめちゃくちゃがったがったと落ち着きのない旦那様(笑笑)がいた。
「名前は何にしようか…バハムートとかか?ドラゴニスとかか?」
「旦那様…女の子だったらどうするんですか?」
「女の子だったら…アヴァロンとかクローゼットとか…」
待て…最後おかしいぞ…それ…家具…。
「旦那様…クローゼットは家具にございます…そのまま名前をつけては虐められますよ?レミリア様は誰が?」
「ふふふ…あなたったら、レミィは私がつけたのよ?この人ったらシャインとかバルバロッサとか言うんですもの」
「すみません…ちょっと理解に苦しみます」
「そうよねー…でも確かに名前は難しいわねー…アレス?候補だったらいつでも言ってね?あ、この人みたいな名前はやめてね?」
流石にクリス様も理解に苦しむでしょうよ旦那様…ネーミングセンス皆無です。
「名前ですか…」
俺の中でも修羅とか菩薩とかしか出てこない…由々しき事態だ…フラディス…フラン…可愛い…人形…ドール…フランドール…はてはてどうしようか?
「あなたがつけたら名ずけ親ね」
なんかめっちゃキラキラしてこっち見てますが…えぇい!こうなったらやけくそだ!
「フ…フランドール・スカーレット様ではどうでしょう?」
「それじゃあフランドール・スカーレット・スカーレットになるわよ?」
あぁ…あなたもちょっと天然入っていますよ
「名前はフランドールですが?」
「そう!いい名前ね!どう?あなた?」
「癪だが!嫌だが!そうしてやる!嫌だがな!最後だ!嫌だがな!」
「もう…ふふ…素直じゃないんだから」
ツンデレってやつか…男のツンデレほど気持ち悪いものはないな…
こう…なんか…胸にくるものがある。(嘔吐的な方でな)
「うっ痛っ!」
「始まったか!おい!カーテンを引け!」
医師がカーテンを閉める。
なんか本格的に落ち着きがない。
お嬢様はよく分からないのか首を傾げている。
「騒がしくなってきましたね」
「やはり狙ってきたか…数は分かるか?」
俺は背からお嬢様を下ろす。
「珍しく…と言うより今回は人間と妖怪が徒党を組んできてますが…数は…妖怪が18…人間が32…ピンキリ50ですね…人間の力が強いですね…恐らく魔術師かと…今守備についているフラディス達は10人ほど……明らかに劣勢にございます」
「むぅ……ここの警備は?」
「入り口2人の天井裏2人…私の5人ですね」
「フラディス達は大丈夫なのか?」
「いってきましょうか?」
「いや…お前はここにいろ…外の二人に様子をみにいかせろ」
「はい…話は聞いていたな…状況を見てこちらに伝えろ」
外の気配が消える。
相変わらず戦闘能力の水準が間違っているな
と感じる。
「オギャーオギャーオギャーオギャー!!」
「産まれたか!」
「のようですね」
ゆっくりカーテンが開く。
「女の子です」
それだけ述べるとまるで弾けたように吹き飛ぶ医者…。
「なっ…誰だ!」
「この能力!?」
俺は赤ん坊が何かを握ったのを見た…。
赤ん坊が手を開く…。
また現れた!?
俺はそれを能力によって消失させる。
「旦那様!これはこの子の…フランドールの能力です!全てには目と呼ばれる非常に脆く突くだけで壊れる場所があります!この子には恐らく…おれと同系統…目を潰し全てを破壊する能力があると思われます!」
「俺は封印式なぞ出来んぞ!」
俺は封印式を瞬時に展開し赤ん坊の能力を封じる…。
「とりあえず封印をしました…」
「旦那様!執事長!フラディス様達が!」
「今度はなんだ!」
「守備に当たっていた者たちが……壊滅状態になっています!」
「なっ!」
「フラディス達は!?!?」
「我々が到着した時には増援8名とフラディス様達10名…生死は未だ分からず…」
「この付近は何名いる!」
「30ほどおります!」
「アレス!半数を率いて増援に向かえ!」
「いえ…」
俺が殺してもいいんだよな…。
「私一人で十分にございます」
そう言い放つと俺はその場から消えるように走り去る。
壁を蹴り曲がり角を猛スピードで駆ける。
徐々に濃くなっていく血の匂い…俺は階段の上からその光景を見る。
まだ40弱残っている敵に対してフラディス達は囲まれ5人ほど…全員が闘志を燃やしてはいるがこれでは負けるしかない。
気づけば騒ぎを聞きつけた執事達やメイド達20名ほどが俺の後ろに立っている。
音もなく…全員がナイフを引き抜く。
相手は気付いていない。
目先の獲物ばっかにつられてちゃー奇襲も気づけんだろうに…やはり群れ…以上にはならんか…せめて…組織くらいにはならねぇとな
俺たちは一斉にナイフを投擲する。
未だ気付かない哀れな群れ…それを狙う組織された狼の牙が今…解き放たれる。
奇襲は成功…ナイフを受け徐々に倒れていく妖怪と人間…いち早く気づいたものは防御魔法を展開してはいるものの俺が左目で破壊する。
フラディス達は安堵したのか向かってくる者を始末している。
40弱残っていた敵はナイフの雨により全滅…味方の被害も少なくはなかった。
「はぁ…はぁ…老いぼれの死に場所はまだ…はぁ…先だったか」
「あなたが死んだかと思いヒヤヒヤしてましたよ」
「今回ばかりは…はぁ…感謝の言葉しか述べれんな」
「私の方が感謝しても仕切れないほど恩を受けてますよ」
俺は生き残っている執事達に目を向ける。
「お前らもよく耐えたな…今日明日明後日は休息を取らせよう」
明らかに嬉しそうにする執事達。
「後かたずけはお前らに任せる」
俺は後ろにいた者たちに声をかける。
「それが終われば今日はもう休め」
俺は踵を返し旦那様達がいる部屋に向かう。
「俺も随分丸くなったものだ」
何気なく…天井に投げたナイフは根元まで刺さり…ナイフを赤く染めた。