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体の弱い小説家の紹介と執筆を始めるお話。

「アボガドロ定数の憂鬱」


これを書かなかったら、私は小説家になっていなかった。

きっと今でも自信を取り戻せなかっただろう。

さまざまなことにおびえてしまっている私は普通からかけ離れているけれども生きている。


小説家として。


昔は研究者になりたかった。

大学では環境化学を専攻し、2つの就職先では環境測定をしていた。

でも、大学時代にわずらったうつとパニック障害はどうにもできず会社で倒れてしまうこと2回。

2社ともクビになり、私は途方にくれてしまった。


そんな折、化学教師になった友達に再会する。

彼女は楽しそうでうらやましかった。

私はそのとき職がなく、彼女におごってもらって食事をしたのだが彼女の優しさは忘れない。


その後私は生保を受けて、のんびり暮らせるようになった。

体は言うことを聞かないし、眠気はすごいし、投薬治療はなかなか苦しい。

そんなこんなで2年が過ぎ、私は28になっていた。


パニックもうつも治らないままで、絶望していた私にも趣味があった。

小説を書くこと。

私は、ゆっくりとだが化学教師である彼女をモデルに推理小説を書いていたのだ。

それが「アボガドロ定数の憂鬱」である。


たまたまそれが小説投稿サイトで出版者の目に留まり、私は作家への道を踏み出したのだった。





海辺の町に越してきて一ヶ月。

病院が変わって、やっと一心地ついたころ。

私はやっと小説を書き始めた。


2LDKの2つある畳の部屋の1つでダンボールにPCのディスプレイを乗っけて書く。これが私の日課だ。

朝8時におき、ヨーグルトとルイボスティーを飲んで創作に取り掛かる。

おっと、薬を飲むのも忘れない。3錠。ちゃんと飲んだ。確認してから私はたたみの部屋に戻る。


「今日は何の話にするかなぁ」



私は一気に1作書くほうではなく、2~3作を同時進行で書いている。

今日は10時に編集君がやってくる予定だ。

編集君、というのは私の担当編集者の柳田君である。

まだ若いのにこんなにめんどくさい作家に当たって大変だろうと思うのだが、私は変わっていることをいまさら変えることはしない。

家はぬいぐるみだらけだし――クッションにちょうどいいのだ――私はミッキーの絵柄がついたロングワンピを着て完全にのんびりモードだ。

そのぐらいが、文章を書くにはちょうどいいのである。


私はパニックとうつを持っている。あまり締め付ける服は着られない。ただそれだけなのだが、周りからは変わっている、とかいろいろ言われる。

一生懸命インタビューを受けても、評価は「ユニークな人」のままだ。

まぁ大体小説家なんてユニークなんだからいいんだと自分に言い聞かせながら仕事をしている。


今回海辺に引っ越してきたのはわけがある。

静養と、新しい本を書くためだ。


前は都会に住んでいたのだが、来客が多くて体に無理が来てしまった。

それと、今度書きたい話はどうしても青いものを見ながら出ないと書けない。

そう思ったから、海辺へ越してきた。


都心からは離れて、編集君には大変な思いをさせるのだけども、体のためもある。

新作も書けるのだからちょうどいいだろう。

走行しているうちに題名は決まった。


「それでも空は青い」


何で海辺にきたのに空なんだ、といわれそうだが舞台は海に囲まれた孤島の話だ。

悪くないだろう。


そう思っていると十時になり、編集君がやってきた。編集君はなれたもので、私の布団に躊躇泣く正座する。そこらへんは信頼関係というものか。


「新城先生、1ヶ月の休養どうでしたか?」

「うん、まぁまぁ体は回復したよ。パーティーのときはすまなかったね」

「あの時は心配しましたよ」


「アボガドロ定数の憂鬱」の次の作品、「烏の鳴くとき」が受賞した際の受賞パーティーで

私は倒れてしまったのである。

そのときは救急車を呼ぶことができなかったので、発作を起こしている私を編集君が必死で救急病院にマイカーで運んでくれたのだった。


あ、いい忘れていたが言っておく。私のHNは新城奏多。女なのだけど、男っぽい名前を使っている。本名も同じだから、HNとは言わないのかもしれない。

まぁそんなことは置いておこう。


「柳田君、新作が思い浮かんだんだ」


お茶も出さず、私はそう切り出す。


「へぇ、どんな話なんです?烏のときみたいに恋愛ものですか?」

「ううん、今回テーマは『青』なのよ」


編集君がぽかん、と口をあける。


「『青』ですか」

「うん。青をテーマに書くわ。今執筆中」

「え、もうですか?体に負担がかかりますよ!」

「でも思いついたんだもん。あ、お茶出してなかったね。今出すから」


編集君ににこっと笑って見せるものの、立ち上がった私はどうやらふらついていたらしい。


「ああっ、やめてください、僕が自分でしますから!何か食べました?また何か軽いものなんじゃないでしょうね!?」

「ヨーグルトを食べたよ」

「やめてくださいよ、本当にそういうのは。今僕が何か作りますから。冷蔵庫、拝見させてもらいますよ」

「どうぞ」


そのまま編集君は台所へ行って冷蔵庫を開け、何もないことにさらに叫んでいた。


「何で何もないんですか!パンと牛乳と卵だけなんて……後で僕が何か買ってきますからちゃんと食べてくださいよ」


食欲がないのは、投薬治療で今薬を減らしているのだが、彼に言っても仕方があるまい。

私はそのままうなづいた。


「わかった、わかった」


私はそのまま、編集君を放っておき執筆活動に専念することにした。

よんでいただければ幸いです。

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