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私は、心配性だ。

作者: 食中毒

 私は、心配性だ。


 私は、愛する妻がいる。


 私は、子供が二人いる。


 私は、車を運転する。


 私は、一家の大黒柱だ。


 私はいつも思う。


 全ての事柄には悪意があると。



 今日、駅で高校生位の二人組の男性が私にぶつかってきた。

 危うく線路に落ちる所だった。

 一言文句を言おうと思った。

 しかし、私は考える。


 彼らは落ちそうになった私を、指を差して笑っている。

 もし、私が彼等に文句を言ったら、逆上して突き落とされるかもしれない。

 後をつけられて、愛する妻や子供達を襲われるかもしれない。


 世の中は悪意しかない。


 私は何も言わず、いつものホームまで移動した。





 つまらない仕事の帰り道、自転車に乗った女性が私のスーツに水溜まりの泥をはねた。

 信号で目があった。


 文句の一つも言ってやろうか? それともスーツのクリーニング代でも出させてやろうか?


 しかし、私は考える。


 この女性は、愛する妻や子供達の知り合いかも知れない。

 その結果、妻達の仲がこじれるかも知れない。何か不利益を得ることになるかも知れない。


 こんな信号で騒ぎを起こしたら無駄な正義感を持った人間が私を罰するかも知れない。

 悪と私を断じたその人は、私の愛する妻や子供達を害するかも知れない。


 世の中は悪意しかない。


 私は何も言わず汚れたスーツのまま帰った。





 今日、車で右折待ち中に、後ろから無理矢理私を追い越して右折した車がいた。

 私が動いていたら衝突していただろう。


 クラクションでもならそうか? ぴったりベタ付けで煽ってやろうか?

 

 しかし、私は考える。


 相手が常識が通用しない人間の場合、私の行動は彼、もしくは彼らの格好の獲物となる。 

 私は構わないが、愛する妻や子供達が害される可能性がある。


 世の中は悪意しかない。


 私はため息をついて、そのまま見なかった振りをした。






 妻が浮気をした。


 私が頼りないこと、仕事人間で構ってくれないことが原因らしい。

 子供達も引き取る、と言っていた。


 仕事は愛する妻や子供達が生きていくため、全ての事に妥協していたのは、愛する家族を世の中の悪意から守るため、私はそう思っていた。


 しかし、私は考える。


 私のこの考えは違っていたらしい。


 愛していた妻は言った。


 貴方は何を考えているのかわからない、と。


 私は間違っていた。


 私が悪意と思っていたものは、私や家族達を縛るただの鎖だったみたいだ。


 なら、私の考えていた悪意は何処にある?


 いや、悪意なんて無かったんだ。全ては自分の手で守らなくてはならなかったんだ。


 妥協なんて出来ない。世の中はこんなに不親切なのだから。


 だから私は守らなくてはならない。


 愛する家族達を。


 私の手から離れては、愛する家族を守ることは出来ない。

 相手の男性は、その内私の家族に害を加えるかも知れない。

 既に私から家族を守る権利を奪ったのだから。


 私は家族を守らなくてはならない。


 私の手から離れる家族は私が守る事が出来ない。

 

 だから、私は家族を部屋から出してはならない。

 何故なら、私の手から少しでも離れた家族は、私が守ることは出来ないからだ。


 そうだ、やるべき事も、やらなくてはならない事もわかった。


 さあ、迎えにいこう。


 私の掛け替えのない、愛する家族達を。 






 

 私は、心配性だ。


 私は、体が不自由な愛する妻がいる。


 私は、怪我の絶えない子供が二人いる。


 私は、車が無くなってしまった。


 私は、一家の大黒柱だ。


 私はいつも思う。


 世の中は不親切だ。


 だから、私は愛する妻や子供達を守り続ける。


 何時までも、この部屋の中でずっと。



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― 新着の感想 ―
[一言] 最後まで読んで、ギャー!となりました。
[一言] 現実でも心配性が行き過ぎて、妻子を盗聴・盗撮する夫・妻がいたりするそうです・・・・・・こわい。
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