03
結局、真二の体験した事による事象の改変は少なかったように見えた
そして、真二が目覚めるまでは確かにあったあのゲーム機は、またしても忽然と姿を消していた
あのゲーム機は俺を引き摺り込もうとでもしているのだろうか?
それとも偶然が重なったのだろうか?
とりあえず仮説ではあるがある程度の仕組みは判った・・次俺の周りで見つけることがあったら、俺が触れてみるとしよう
万が一を考えて、ちゃんと準備はしてからな
叔父の社葬も終わり、遺体は火葬場へ運ばれたので、俺は遺族用の車両に乗って同行する事になった
午後イチで焼き始める為、夕方には帰れそうだ
それにしても、焼き上がるまでの宴会は何度経験しても慣れないな・・・喪主を経験してないからだろうか?
故人を送るためとは言え割と本気で宴会やってるからなんとなく場違いな気がするんだよな
もしかすると故人の事を良く知らないのも問題なのかもしれない
骨上げも終わり、解散する事になった
おばさんはまだ後始末があるので俺が叔父さんの所の子供も連れて実家に行く事になった・・・酒飲まなくて良かった~
別に自分で運転するわけじゃないけど、子供連れてくのに判断力が曖昧じゃ困るからな
実家に戻る途中おばさんの所の子供も回収して行こうと思ったら定員オーバーだった・・・仕方ないので全員連れ立ってバスで行く事に
流石に小学生6人の引率はきつい・・・
何とか軍隊ごっこで凌ごうと思ったが、叔父さんちの上の子のノリが悪かった・・・女の子だからかなぁ?
今夜は寿司を取る事にした
大人がみんなしてごちそうを食べていたわけだし、子供たちにも良いもの食べさせないとな
とは言っても回転寿司のお持ち帰りだけど
うちの母親も戻ってきて、俺は最終の新幹線を逃さないように家路につく事になった
ちなみに、うちで預かった子供たちはそれぞれの親が連れて帰った
叔父の訃報を受けたのが火曜日、そして火葬が終わって今日は木曜・・・後1日休んで連休に出来ると良いのだが、それは流石に会社に悪い
しかしあのゲーム機を発見してかさ既に一週間か・・・長いような短いようなだな
翌日、職場に着いてみると・・・職場の使って無いPCに見覚えの無いようなあるような妙な物が付いていた
「・・・コントローラー・・ですね」
「・・だよなぁ?」
そのPCは最近全く使っていなかった
何故使っていなかったかというと、内部のパーツがエラーを吐く為修理待ちだったのだ
PC自体は勝手に開ける事が出来ないよう南京錠がかけてあり、リース会社の人間で無いと開ける事ができないのだが、運悪くそのリース会社でごたごたがあり、二週間ほど放置させられる事になっていた
会社としてはそれを盾にリース契約を解除し、PCの所有権がどちらの物になるにしろこれ以上払う金は無いということで決着が付き、そのまま放置されていたのだが・・・
「わざわざこれに電源入れてゲームでもしてたってか?」
主任はそう言うが、それはありえない・・・何しろモニターは外してあるし電源ケーブルも取り外して保管してある
この場所も電源から遠く、延長ケーブルを使わないと到底PCは動かせず、埃の様子からこの場所から動かされた様子も無い
それ以前に、さっきも言ったようにこいつはパーツがエラーをはくのでまともに動かない
それは社内の人間全員が知っている事実だ
「これ・・信じてもらえないと思うんですけどね」
「どうした、何か心当たりでもあるのか?」
俺はここ一週間の顛末を話した
先週末に友人宅で聞いた都市伝説
その都市伝説を予感させるゲーム機
今週友人がその都市伝説の被害にあったとの告白を受けたこと
通夜の日に実家で怪しいゲーム機を発見し、弟がその被害にあったこと
そしてそのどちらでもゲーム機が忽然と消えていた事
「そんな事が・・・」
「俺も半信半疑なんですけどね・・・一応仮説も立てて、次遭遇したら触ってみようかと思ってたんですよ」
そしたらこれだ
こいつはなんでこうも俺の周りに出てくるんだ
「こいつに触れた直後、意識を失ってその後約24時間何をしてを目を覚まさないようです。迂闊に触れないほうが良いでしょう」
「じゃあ、放置ってことか?」
「いえ、それも面白くありませんし・・・今週はもう忙しくないようですから俺が触るのも良いんですが、問題は意識が戻ってからなんですよ・・何しろ寝すぎている状態ですからね、かなり衰弱しているんです」
さてどうしたもんか・・・
「じゃあ、今触ると良い」
「はい?」
何言い出してんだこの人
「命に別状は無いんだろ?だったらやってみろよ」
「でもそれだとここで気を失うんですが・・・」
「あとの事は俺がやっておくから気にするな、大体忙しく無いといっても急ぎの仕事が無いわけじゃなくてな・・・今夜物が来て明日納品の仕事があるから、俺はそれやって帰る事になってるんだよ」
そう言うことなら・・・って訳に行くわけ無いだろ
「じゃ、とりあえず小便行ってきます」
「おう、行ってこい」
とりあえず無視して仕事するか・・・と思ったら帰ってきたら待ち構えられてた
仕方ないので恐る恐るコントローラーに触れてみる・・・まぁ、本当にただのコントローラーの可能性も無きにしも非ずだし
覚悟を決めてコントローラーに指をつけた瞬間、俺は真二の時のように一瞬で意識を失った・・・
また一人・・・この世界に引き込まれた
世の中には「運命」という言葉と「宿命」という言葉がある
「運命」とは、流れの中でそうなる定めの事
「宿命」とは、どうやっても抗う事の出来ない流れの事
誰かがそう定義づけをしていたと記憶しているが、それが本当かどうかは定かではない
この世界に来たものの行動に因って変わる事象が運命ならば、変わらない事象は宿命なのだろうか
この世界に引き込まれる人間は運命を操る資格を得たもの
しかしそれで動いた運命が元に戻ろうとする流れも当然ある
起こした事が全くの徒労に終わることもあれば、数十年流れが戻らない事もある
すぐに戻るなら宿命
中々戻らないなら運命ということなのか
今度ここに来た彼は、一体世界をどう変えるのだろうか?
もしかすると、前回来た彼のように、抗えない宿命を変えようともがくのだろうか?
観測者に過ぎない自分にはそれを知る事は出来ない
ただ起きた結果を知るだけでしかない
・・・ここはどこだろう?
見たところ焼け野原のようだが、地域を特定できる物が見えない
戦争・・・それも空襲後に見える
だがどこの国かはわからない
時代は?地域は?
そうやって思考を深めていくと、不意に目障りなほどアイコンが点滅を始めた
・・・アイコン?
良く見ると右下の方に大きくなったり小さくなったりしながら点滅するアイコンがある
人影のような形・・・ステータスだろうか?
開くイメージをするが一向に開く様子が無い・・・試しに指先を置いて見ると、何か押し込んだような感覚と共にウィンドウが開いた・・・感覚あるんだ
開いたのは案の定ステータスウィンドウ
HPやMPなど見覚えのあるステータスがある・・・一つ気になる項目が目に付いた
再設定?
特に制限は内容に見えるが・・・ヘルプは無いのか?
そう頭に浮かべると、左下・・・ステータスアイコンの反対側にクエスチョンマークが現れた・・・恐らくこれがヘルプだろう
先ほどの経験を元に、指で触れてヘルプを起動する
『ヘルプ:ステータスウィンドウ』
:ステータスウィンドウはアバターの能力値を決定する為にあります
:能力はボーナス値を振ることで設定され、何度でも設定しなおす事が出来ます
:能力値を決定すると、最低24時間その能力で固定されますので、決定は慎重に行いましょう
:ボーナス値は、振る能力毎に反映される数値が異なります
『ヘルプ:ステータス』
:ステータスの説明をします
:ステータスとはアバターの能力であり、ステータスの数値が低いとその能力が関係する行動に著しい制限を受けます
:能力値は「HP」「MP]「STR」「INT」「AGI」「DEX」「VIT」「LUK」「CON」の9種類あり、それぞれ「HP:生命力」「MP:精神力」「STR:筋力」「INT:知力」「AGI:すばやさ」「DEX:器用さ」「VIT:体力」「LUK:運」「CON:コネクション」となります
ん?この「コネクション」って何だ?
『ヘルプ:CON』
:「CON」が高いと、自分が何かやりたいことがあったり、入りたい場所に行く時に都合が付きやすくなります
:軍隊を動かしたい時など、上層部に都合が付けば非常にやりやすくなるでしょう、しかし軍の上層部とコネを作るには非常に高い数値を必要とします
なるほど、後気になるのは「MP」と「INT」だな
INTは本人の知力以外に何か作用するのかというのがあるし、MP・・・精神力に関係する何があるのかというのも知りたい
『ヘルプ:MP』
:「MP」は精神力であり、気力とも言います
:この数値が高いとアバターの活力となり、行動が早くなります
:また、この数値にダメージを受けると活力がなくなり、何もやる気が起きなくなります
・・・マジでメンタルかよ!!
アバターの気力まで管理しないといかんとは面倒な
『ヘルプ:INT』
:「INT」は交渉力です
:この数値が高いと、コネクションが無くてもどうにかなる可能性が生まれます
:また、「CON」と「INT」のどちらも高いとかなり無理が利くようになります
:例「建国」「独立」
ふむ・・・INTとCONは高いに越した事は無いわけか
以上の事を踏まえてとりあえずステータスを決めてみよう
H P:1000(初期値)
M P: 100(初期値)
STR: 50(初期値)
INT: 50(初期値)
AGI: 50(初期値)
DEX: 50(初期値)
VIT: 50(初期値)
LUK: 50(初期値)
CON: 50(初期値)
残りボーナス:5000
ちょっと振ってみよう・・まずHPだな
H P:1020(+1p)
なるほど、HPに1振ると20増えるのか
次はMPとSTR両方に振るか
M P: 102(+1p)
STR: 51(+1p)
そう言うことか
ボーナス値は初期値の比率を元に、同じ様に反映されるわけだ
つまり、数値を全振りできるかはわからないが、仮にそうだった場合STRにして5,050、HPにして101,000となる
平均的に振った場合には5000割る9で555ずつ振って5余る感じか
どれか極端に触れる数値がなかったとした場合、1項目辺り600に近い数値に設定できるということだろうか?
とりあえず初期値で行動をしてみよう
周りに人が居ない今がチャンスだ
HPとVITとAGIの影響を調べるべく走ってみる
建物の壁の幅から見て3つ先の辻までで約100m・・・普通の素早さならば全速力で走って20秒くらいか
体力も並なら肩で息をする程度、HPがどれほど減るかも判る
結果から言うと、元の自分よりは体力があるように思う
筋力を1足した事もあるのか、若干だがスタートの勢いも上がっていたような気がする
タイムはステータスに時計があるのでこれを参考にした・・・大体19秒だ
HPはどうかと見てみると、かなり減っている・・・全速力100mで一割も減られたら何もできない気がする
数分後、どうやらHPに関しては杞憂だったようだ
肩が上がっているうちは一向に戻る気配がなかったが、息が整うようになった直後から徐々に回復し、今ではスタート時にまで戻っている
HPは「これだけ減ると行動に支障が出る」といった指標のようだ
今度はAGIとVITを倍にしてみる
すると、走る前にVITによる影響が目に見えた・・・HPが倍になったようだ
どうやら、HPは特に弄らなくてもVITと共に増える傾向にあるようだ
また走ってみる・・・明らかに速度は上がっているが、VITほど劇的な変化は見えない
大体2秒速くなった位か・・・100でこれだと世界記録レベルになるには数百単位で振る必要がありそうだ
まあ、そんな意味の無いことをする必要は無い・・・単に走って逃げるだけなら並より2秒速いだけでも大分違う、後は持久力だ
さてその持久力だが、VITが倍になったことで大分楽になっていた
それこそ「劇的に」というには程遠いが、息が整うまでの時間が半分近くになったのは大きい
これはHPが回復するまでの時間が短くなったのと同意だからだ
HPの方も減り方が変わった・・・80程度で済んでいる
単純に対比して80というと少なく感じるが、HPが倍になっているため割合で言えば前回の4割で済んでいる計算になる
HPの回復開始までの時間の短縮も含めれば大きな効果と言えるだろう
とりあえずAGIとVITには150ずつ振ることを前提に他のステータスを考えよう
次に検証するのはSTRだ
特に、いきなり上げすぎては感覚を掴むまでに時間がかかるだろうということでまずは近くの瓦礫を持ち上げてみる
このくらいだと20kgくらいだろうか・・・大分苦労するが持ち上げられない事は無い
恐らくは標準的な筋力と見て良いだろう
次に遠投をやってみる
手ごろな石を投げると、次の辻くらいまで飛んだ・・・30mくらいか
STRをとりあえず100にする
先ほどの瓦礫は若干重い程度に感じた・・・体感的には二割減ったくらいだろうか?
遠投は・・・40mくらいか
やはり基準から倍にした程度では大きく影響する事は無いようだ
これも最終的に200くらいにしていても大きな不都合は無いだろう
DEXは・・・どうやって調べるか
とりあえず瓦礫を積んでみる・・・何度やっても10個ほど積むと崩れてしまうようだ
倍にすると・・・15個くらい積むと崩れるようになった
バランスの取り方がうまくなったようだ
バランス・・・
ふと思いついてまた小石を投げてみる
・・・50m
体の使い方がうまくなったと言う事か
ならばと今度は100m走ってみる
・・・14秒
STRとDEXの相乗効果で劇的に記録が上がった
それぞれのステータスを200にしてもう一度やってみる
・・・10・・秒・・だと?
息も1分あれば整い、HPは30しか減っていない・・・一気に超人になってしまった
そして残ったボーナスは4398
まだまだ先は長い